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【どうか、君の未来を守らせて。】
(うっわ、今日もいる)
学校終わりの通学路。
なんの変哲もない道の端にあるガードレールには、こちらを見てひらひら手を振る人。
「こんにちは少年。今帰りかな?」
「…………」
「今日も無視かい? いい加減私に慣れて欲しいなぁ。
毎日こうやって健気にお迎えしているのnーー」
「誰が慣れるか馬鹿野郎っ!大体、迎えなんて頼んでねぇだろうg」
「おぉ、やっと話してくれるようになったかい!?
いやぁ私の努力の賜物だね!嬉しいなぁなんの話をしようかなぁ」
「………っ、」
(ほんっとなんなんだこいつは!?)
きっかけは、数日前。
『真崎 壮太 くんかな?』
『? はい、そうですが』
『ふむふむ、やはりそうかぁ』
帰り道で話しかけられて、答えたことが始まり。
向こうから話しかけたくせに、ただじぃ…っと見られるのみで何も会話が進展しなくて
『……あの、何か用ですか?』
『ん? 用事がなきゃ話しかけちゃ駄目なの?』
『い、いや、そういうわけじゃないっす、けど……』
俺よりかなり年上、父さんよりは若いけど…多分30後半かそれくらいの年齢。
身長も高く、上からニコニコ見下ろされて居心地が悪い。
蜂蜜を溶かしたような金髪は、ふわふわの猫っ毛。
こんな特徴のある人忘れるはずがない。
けど知らないということは、多分会ったことがないってこと。
(新手の不審者か……)
『……俺、男だし高校生ですけど』
『ん? うんうん男だね、そして高校生!いいねぇ高校生、若いなぁ。私もその年に戻りたいよ!』
『ぁ…うん……?』
え、なにそうやって返ってくんの?
なんか思ってたのと違くね??
『えぇっと…あの、どっかでお会いしましたっけ。
ってか俺の知り合い……?』
なんでこっちからこれ聞かなきゃなんねぇのかわからないけど、あまりにフレンドリーすぎて気味悪い。
『んんーそうだな…そうだねぇ……
ふふ、確かに私と君は会ったことがあるよ。君が気づいてないだけさ。
私は、ただの君の〝ファン〟ってとこかな』
『はぁ? ファンって……俺帰宅部ですけど…』
(あ、やっぱやばい人だ)
帰宅部にそれは流石にない。
なんで普通に話してんだろ俺。めちゃくちゃ馬鹿じゃん。
合わせてた目線を外し、早足でその場を去る。
けど、そいつは長い脚で優雅に隣をついてきて。
『どうして逃げるの? 悲しいなぁ涙出そう』
『じゃさっさと出してしまえおっさん!
着いてくんなっ!』
『おっさん!
いいね、君におっさん呼ばわりされるのもまたとない機会!もっと呼んでくれないか? さぁ…さぁ!』
『っ、ひぃぃ……!』
サボりまくってた体育で培った全力疾走でどうにか猛ダッシュして、家の玄関ドアをロックして。
もう大丈夫、今日だけだ今日だけ。あぁー怖かったなって思った…のに……
(まさか、その日以降ずっと付き纏われるなんてことあるか……?)
今何日? 5日目くらい??
放課後には毎日必ずあのおっさんが待ってる。
道を変えても何故かいて、マジで怖い。
……けど、いつもなんやらかんやら話してもう少しで家というところで何処かに行ってしまう。
危害は一度も加えられたこと無いし、それ系の変態な話もされない。
まるでふわふわしてる雲みたいな、気づいたらパッと消えてしまいそうな雰囲気のやや浮世離れした人。
まっっっじで謎なんだけど、なに? 誰なの?
〝確かに私と君は会ったことがある〟
それどこで会ったんだよ。父さんの知り合いとか俺が赤ちゃんの頃的な? そんなん覚えてるわけねぇだろ。
家族に聞いてみるのが一番なのかもしれないけど、なんとなく聞き辛い。
聞いて「知らない」って言われたらどうしよう。ただただ心配させてしまうだけだし、そんなに事を大きくして目立ちたくもないし……
(ーーっ、くそ)
この突如現れた謎のおっさんのおかげで、俺の平凡な生活はあっけなく崩れ去った。
一体なんの目的でこんなストーカーみたいなことしてんのかわからないけど、
(さっさといなくなってくれ!俺に飽きろ!!)
ってか、こういうのって可愛い子がやられるやつじゃん。なんで俺が狙われるの?
あぁーくそ、マジで意味不明。
相変わらず隣で楽しそうに話しているおっさんを横目に、はぁぁ……と何度目かわからない長いため息を吐いた。
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