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「真崎さ、最近なんか疲れてね?」 授業中、前の席の奴が振り返ってきた。 「どしたん? 何かやってんの?」 「いや、なにも……強いて言うならなんか七不思議的なものに遭ってる」 「は………?」 ガラッ 「こ、こんにちは……っ」 「あら生田(いくた)くん、来たのね」 開いた扉から入ってきたのは、小柄なクラスメイト。 「歩道橋から落ちたんですって? もう登校して大丈夫なの?」 「はい、大丈夫です。休んでてすいません……」 「いいえ、席に着きなさい。 みなさん少し自習していてください、職員室に行ってきます」 チョークを置いた先生がカラリと扉から出て行くのを境に、みんなが一斉に喋りだす。 (あーそうだった。 〝こっち〟もあるんだった俺) 最近おっさんに追っかけ回されてて完全に頭から抜け落ちてた。 一週間前くらいに、生田から告白された。 『男のくせにごめんっ。 でも、ずっと前から真崎くんのこと好きだったんだ……』 まさか男に告られる日が来るとは思ってもなくて呆然とした俺に、『返事はあとででいいから』と足早に立ち去っていってしまって。 (言い逃げみたいなことされちゃってんだよなぁ) あの後、なんか知らないけど「歩道橋から落ちて頭打ったらしい」とかで学校を休んでて、その間にあの謎のおっさんが現れててんやわんやで、結局まともに考えられてなかった…… 告白は中学の時から何回かされてる。 気持ちを伝えるってかなり大変なことだし、それを越えて伝えてくれてるのを分かってるから、なるべく面と向かって返事をしてきている。 真面目なのかもしれないけど、こういうのはちゃんとしたいし。 だから、今回のもちゃんと生田に返事しようと…思ってんだけど…… (男と、か……) 正直まじで考えたことがなかった。 クラスメイトで友だちで、時々遊びにいったりする普通の関係。けど、まさかそういう目で見られていたとは本当に予想外で。 え、あいつ小柄だし可愛い方だから多分俺が抱く側…なんだよな? あいつは俺に抱かれたいのか? いや、別にヤることが全てじゃねぇけど、でもさ、結構重要じゃね? 俺は……あいつで勃つのか………? 「…真崎さ、いよいよ百面相みたいなことになってるけど大丈夫か? 生きてる?」 「……死んでるかも」 「まじか、お前はいい奴だったアーメン」 「おいこら」 ケラケラ笑う前の奴と一緒に笑いながらチラリと生田を見ると、みんなに囲まれながら頭に巻いてる包帯を外していて。 「うわ、おでこ傷残ってるじゃん!大丈夫なの?」 「もう平気、変な落ち方したからね。僕もびっくりした」 「気をつけなよ本当。休んだ分のノート見る? あ、でも生田くん理数系得意だから無くても余裕か」 「余裕じゃない!余裕じゃないから見せてください神様〜」 「あははっ」 (元気そうじゃん) かけられる声ひとつひとつに答える姿を、良かったと遠目で眺めて また「はぁぁ……」と机に突っ伏した。

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