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聞こえてきた言葉。
今度こそ意味がわからず、顔をゆっくりおっさんの方に向ける。
「君は、この事件のある場面で命を落としてしまうんだ」
「は……? ぅそ、だ、よな……?」
「残念ながら本当だよ」
頭がまた真っ白になる中、目の前の顔が悲しげに微笑んだ。
(嘘、だろ)
俺…ここで死ぬのか?
こんな理不尽なことで、命落とすの……?
生まれて、高校生にまでなって、これからまだ長い人生が続くはず。
なのに、こんなとこで………?
はっきり言って信じられない。
けど、おっさんから言われた言葉はスルリと身体に入ってきて、不思議とそうなんだと思えてしまって。
「君の葬儀は、とても悲しい空気の中行われるんだ」
クラスのみんなと仲が良かった。
クラス以外の奴らとも仲が良かった。
帰宅部のくせに友だちはやたらいて、みんなが俺の突然の死を悲しんでくれて。
「そんな中、とある花屋さんが綺麗な花束をひとつ持ってやって来る。
ーー〝君に頼まれたものだ〟と」
『事件があった日、店に予約が入ってたんです。
多分この花束のお金を下ろすため、彼は銀行へ行ったんじゃないでしょうか……?
そう考えたらいても立ってもいられなくて、届けさせてもらいに伺いました』
『お代は結構ですので』と涙を流しながら、花屋がその花束を渡したのはーー
「生田 光留 に、だったんだね」
「………っ、」
ーーそう、だ。
その花束は、あいつへのプレゼントとして予約した。
この後告白の返事をするとき、一緒に渡そうとして。
おっさんが現れなくなった一週間、生田のことを真剣に考えることができた。
あれは、女子が告るよりも絶対勇気のいる行動だったと思う。
変な噂が流れるかもとか、軽蔑されたらどうしようとか。そういうのを全て越え想いを告げてくれた生田に、俺はまず感謝を伝えたいと思って。
そうまで俺のことを想ってくれて。
俺全然普通の奴なのに、ありがたいなって。
気持ち悪くなんかない。ただ、純粋に嬉しい。
俺、お前のこと知ってるつもりだったけど全然知らなかったわ。勇気ある奴なんだなって。
花束とか普段そういうのしねぇけど、今回はしてやりたいと思った。
渡して、それから考え抜いた俺の返事を告げようとしていてーー
(……待て)
何でこいつが、葬儀のことまで知っている?
それに、さっき生田のこと呼び捨てにしなかったか?
(声…が……)
そう、声。
あの日ショッピングモールで聞いた声。
そして、今隣で囁いてくれているこの声は、脳裏にある知ってる声ととてもよく似ている。
これ、は
『真崎くん、おはようっ』
『お節介? 全然!真崎くんはかっこいいよ本当。なんかヒーローみたいだね』
『この前できた店知ってる? 苺のパフェが凄く美味そうでーー』
『あのさ、今日放課後予定とか…ある?』
『男のくせにごめん。
でも、ずっと前から真崎くんのこと好きだったんだ……』
「……お前、生田…なのか………?」
「うん、正解」
チラリと前髪を上げた先には、教室で見た傷と同じものがあった。
「黒髪のままだとバレるかなと思って金髪にしてみたんだ。蜂蜜みたいで美味そうだろう?」
「待、て……どうゆ、こと…だ……?」
「私は、30年後の生田 光留だよ」
「は………?」
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