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第14話 台風の中の僕達

「は~ あったかい~ いくら真夏の沖縄とはいえ、 雨に濡れると肌寒いし、気持ち悪いよね」 背中にシャワーのお湯を受けながら、 ホ~ッとなごんでいた。 矢野君はシャワーのお湯が当たらないところに立って体を洗っていた。 「ねえ、ねえ、矢野君のそれってさ……」 「は? それって?」 「ちょっと~ それ分かって言ってるの? 矢野君のそれだよ~」 そう言って僕は矢野君の股間に指をさした。 「お前、見るなよ!」 「だってさ~ 僕、αのそれ見たの初めてでさ~ 不可抗力だよ~ ねえ、それってさ、普通に勃起は出来るんだよね? フルにして見せてよ~ 一体、どれくらい大きくなるの?」 とあられもない質問を投げかけた。 「お前、アホか!どっかの痴女か! 無邪気にも程があるだろ! さっさとシャワー開けろよ!」 そう言われて、 “チェッ、別に減るもんでも無いし!” と舌打ちをしてシャワーを開けた。 「矢野君って恥ずかしがり屋なんだね。 そんなだったら、修学旅行どうしたの~?」 「バ~カ。俺は普通だよ。 そう言うお前は修学旅行でもそうやって 友達の股間に釘付けだったのか?」 「ハ~ 修学旅行だよね~ 良いよね~」 そこまで言った時、 「もしかして、行ってないのか?」 と矢野君も今回はピンと来たようだ。 「そうなんだよね~ まあ、僕がお金にこだわるのも、 自分の子供には何不自由無く 育ってほしいって言うのもあるからなんだよね~」 そう言うと矢野君は僕に尊敬の念とでも言うような目を向けて、 「お前、人生悟ってるな」 と感心していた。 「いろいろ経験してるんでね~ じゃあ、僕はもう上がるから、 矢野君はごゆっくり~」 そう言うと、矢野君も、 「俺ももう出るから」 そう言ってシャワーの蛇口を閉めると、 僕に続いて矢野君もシャワーから出てきた。 体を拭いて部屋へ行くと、 洗濯ものが溜まっていたことに気付いた。 「あ~ 着るものが一つもないや!」 そう言うと、続けて出てきた矢野君が、 「お前だったら裸でもいいんじゃないか?」 と言ったので、 「それもそうだね! 矢野君、あったま良い~」 と返答すると、 「やっぱりお前は馬鹿だな」 と言って彼のパジャマを貸してくれた。 「ほら、予備のパジャマがあるから着とけよ。 夜はエアコンで冷えるからお腹壊すぞ。 まあ、停電になればそれどころじゃないんだけどな」 渡されたパジャマを着ると、さすが背の高い矢野君。 シャツが僕のお尻の下まで来てしまった。 そしてもちろん、ズボンは大きすぎて、 ずり落ちてきてしまい履けない。 否応なく、シャツのみとなってしまった “これって彼シャツ? 彼シャツみたい~” 18年間恋人無しの僕はこういった恋人らしい状況に弱い。 なんだか矢野君のパジャマを着て パンツが見えるか隠れるかギリギリの所で動き回るのは 少し恥ずかしいものがあった。 僕のモジモジする姿に、 「何で服を着てる方が恥ずかしいんだよ!」 と矢野君が突っ込んだ。 「だって~」 とちょっと可愛く言ってみると、 矢野君は聞いていたのか、いなかったのか、 窓の所までスタスタと歩いて行くと、 外を見ながら 「雨風が強くなってきたな」 そう言って携帯を取り出して台風の位置を確認し始めた。 僕も矢野君の肩越しに外を見ると、 「うわ~ 海が荒れ始めてるね。 でもちょっとワクワクだね」 そう言って矢野君の顔を見た。 彼はじっと携帯を見つめて、 「勢力が強まっているみたいだな…… でもそこまで大きな台風ではなさそうだな……」 そうぽつりと言った。 そして、 「おそらく停電するだろうから、 今のうちに予備の充電器用意しておいた方が良いな」 そう言って、小さなポケット充電器を充電し始めた。 そして夜半も過ぎると、雨風が更にひどくなり始めた。 外では海の唸る音や、風の吹きぬく音も強くなり始め、 バラバラと窓に打ち付ける強い雨の音がし始めた。 「矢野君、そっち行っても良いかな?」 それぞれ自分のベッドに座ってやりたいことをやっていたけど、 急にちょっと人恋しくなってきた。 これまでの台風は施設でみんなとワイワイやっていたので、 楽しかった思い出ばかりだけど、 今は矢野君と二人きりで真っ暗な唸る海の目の前。 少しソワソワとし始めた。 「何だお前、さっきまでワクワクとしていたのに、 怖いのか?」 ちょっと冗談交じりに矢野君が言った。 「へへへ」 と言って恥ずかし紛れに頭を掻くと、 「来いよ」 と矢野君はベッドのスペースを少し開けてくれた。 「ありがとう!」 そう言って彼のベッドに滑り込んだ瞬間、 バチッと感電したような音がして電気が消えた。 矢野君の持っていた携帯の周りだけがボーっと照らし出され、 矢野君の顔がお化けのように映った。 それが可笑しくて、ケラケラと笑っていると、 「ベッドの下にある懐中電灯取ってくれるか?」 そう矢野君が訪ねたので、 ベッドの下を探ると、 手の届く直ぐの所に懐中電灯が置いてあった。 「これ、ここのテーブルの上に置いとくな。 トイレに付いてきてほしい時はいつでも言えよ~」 と矢野君がからかったようにして言ったので、 「こうしとけば大丈夫!」 と、冗談返しのように僕は彼の背中の上に子亀のように乗っかった。 さすがは体の大きい矢野君。 僕が背中に乗っても、ぐうの音も出なかった。 「ねえ、今台風はどこら辺にいるの?」 肩越しにそう尋ねると、携帯に映し出されていた台風情報を 「ほら今ここ……」 と言って僕に携帯を向けた瞬間彼と目が合った。 たった数センチしかない距離の彼の瞳に僕は釘付けになった。 携帯の僅かな明かりに照らし出された彼の顔は、 もう幽霊という冗談どころではなかった。 その影に映し出されたまつ毛は長く、 愁いのこもった瞳はまだ何の経験もなかった僕に欲情さえ感じさせた。 彼の唇はほんのりと赤く潤い、 少し笑みを含んだ半開きになった唇に触れたいと思った瞬間、 僕の中にある何か音を立てて崩れたような気がした。

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