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第13話 シャワー

寮まで帰ってくる頃には、 僕たちは二人ともずぶ濡れだった。 「俺はひとっ走りメンテナンスの所へ行って懐中電灯借りて来るから、 お前は先に帰って熱いシャワーでも浴びていてくれ」 矢野君はそう言い残して本棟へ向けて走りだしたので、僕は 「分かった! 雨で滑らないように気を付けて!」 そう叫んで一足先に部屋へと向かった。 部屋へ戻って脱衣場へ行くと、 雨でズブ濡れになった服を脱いで洗濯機の中に放り込んだ。 ここでは各部屋にちゃんと洗濯機が備えられている。 それはとても便利でありがたかった。 給湯器をセットすると、暫く裸でお湯が沸くのを待った。 鏡の前に立って、 矢野君と手に手を取り合って走ったことをニヤニヤと反芻していると、 矢野君が早くも戻って来た。 「矢野君! 矢野君もずぶ濡れでしょう? 風邪ひいちゃうから一緒にシャワーしようよ! もうすぐお湯も沸くよ!」 そう声をかけると、矢野君は恥ずかしそうに 「いや、二人で入ると狭いし、俺は後でいいよ」 と遠慮してるような感じで言ったので、 僕は裸のままスタスタと部屋へ歩いて行った。 そしてそこで仁王立ちすると、 「バッ…… おま…… 何、裸のまま……」 と矢野君は僕のあられもない姿にびっくりしてフリーズしていた。 「ホラホラ!」 と言って矢野君の手を引こうとすると、 そんな僕の行動を矢野君は、 「お前、前ぐらい隠せよ!」 とドン引きしていた。 「何? 恥ずかしの? 何を今更! 同じ男じゃない! 同じ物付いてるし! ほら、早くしないと風邪ひくから!」 そう言うと、ドンドン彼の手を引いて脱衣場まで引っ張って行った。 矢野君も、僕に引っ張られるまま、 大人しく脱衣場まで付いてきた……というよりは、 呆気にとられて、何も言えない、出来ないというような感じだった。 脱衣場まで行くと、 「ほら、両手を挙げて! バンザーイ!」 と声をかけると、彼のシャツを脱ぎにかかった。 「あれ? あれ?」 彼は背が高すぎて、 僕には手が上まで届かなかった。 そんな僕にもう慣れてしまったのか、 「お前は俺のお袋か?! 自分でできるからいいよ!」 と半分諦め気味に彼が自分で服を脱ぎ始めた。 「だけど、お前も大胆だな」 矢野君がそう言ってため息を付いた。 「あのさ、矢野君。 君は恥ずかしいかもしれないけど、 施設ではそんな事で四の五の言ってられないんだよ。 もうお風呂なんて皆でダーって脱いで ワーッと入ってシュッと出るからね。 モジモジなんてしてたら朝が来ちゃうよ。 僕は年長さんだからね、役割も多いんだよ。 君みたいな子も多いしね! だから慣れだよ、慣れ。」 そう言うと、矢野君は 「お前といると、四の五の言ってる俺が馬鹿みたいだな」 と言って服をパパッと脱いだ。 僕はその肢体を上から下まで一通り見ると、 「ホホ~凄いね、何かスポーツやってるの? それともαって何もやってなくてもそんな体つきなの? それにごめん、同じ物付いてるって言ったけど、 ちょっと違ったね。 へ~ αのってこうなってたんだ~ 成長早いんだね? それとも僕が遅いのか? それに君のって凄い立派なんだね。 それにもじゃもじゃだし…… 僕なんてツル~ンとしてるし、 高校生ってこんなもんかって思ってたけど、違うんだね~」 と、何気なく彼の体を触ってみた。 すると、わずかだけど彼のものがピクッとしたようにして動いた。 「ギャッ! 矢野君、Ωのフェロモンに反応しないって言ったじゃない! 今、ピクってなったよ!」 僕がそう言うと、矢野君はちゃんとサッとタオルで前を隠して 僕の頭をスパーンとはたいた。 「お前な、フェロモンには反応しないって言ったけど、 普通に触られて興奮できないとは言ってないだろ?! Ωのフェロモンでは興奮しないってだけで それ以外では出来るんだぞ?! そりゃ、そんないやらしい手で触られれば、 勃起するのは当たり前じゃないか!」 「ちょっと、ちょっと~ それ、矢野君の言い方が悪いよ~ 僕、矢野君ってEDなのかな?って思ってたよ~ でもEDじゃないんだったら問題ないんじゃないの? 全然ポンコツなんかじゃないよ~ 逆に矢野君のなんて、凄い立派だよ~」 「お前な、αなんてΩのフェロモンに当てられて 初めてαとして機能するんだぞ? αとして機能出来なかったら、番にもなれないし、 Ωの男を妊娠させることだって……」 そう来た時に、僕はピーンと来た。 “きっと彼には男性のΩの恋人がいたんだ! でも彼の態度から見るときっとその人とは……” 僕は彼を見上げると、 チッチッチと人差し指を彼の目の前で振って、 「僕だったら、それでもいいけどな。 セックス出来ないわけじゃないんでしょう? もしかしたらいつか治るかもしれないじゃない? それだけであきらめるってもったいないよ! 矢野君、こんなにカッコいいのに! そんなに立派なもの持ってるのに~」 そう悶えると、矢野君は僕にニコリとほほ笑みかけ、 僕の頬を撫で始めた。 僕が、 「もしかして……矢野君……」 頬をちょっと赤らめてそう言いかけると、 矢野君は僕の頬を撫でていた指で耳を思いっきり引っ張ると、 「お前はアホか?! それともバカなのか?!」 といきなり僕の耳に向けて怒鳴り始めたので 僕は顔をしかめた。 でも彼の顔はとても嬉しそうで、 そんな彼の顔を見届けると、 「イテテテ~!」 とわざとらしく叫んで、 「それよりもお湯沸いたから早くシャワーしよ! すっかり体も冷え切っちゃたよ!」 そう言ってまた彼の手を引いてシャワー室へと入って行った。

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