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第42話 隠された矢野君の秘密
僕と佐々木君は
見つめ合ったまま暫く沈黙の中にいた。
お互い言葉を発するのに躊躇している。
“佐々木君が此処まで躊躇するって事は
よほどの事なのかもしれない。
僕は尋ねても良いのだろうか……“
そう思っている時に
佐々木君の方から質問を投げかけてきた。
「なあ、答えたくなかったら答えなくて良いけど、
一つ聞いても良いか?」
そう尋ねられドキッとした。
“一体何を尋ねるのだろう?“
「あのさ……
凄く聞き難いんだけど、
お前と光ってその……
出来たのか?」
僕はその質問に目を丸くしたけど、
佐々木君にボソッと
「それってエッチが出来たかって事?」
と尋ねた。
「ああ、すまん、もし光の事を話すとなると
聞いておきたかったんだ」
佐々木君がまだ迷っている様な感じで話した。
「矢野君さ、自分の事をボンコツのαって言ってたけど、
僕ね、彼のフェロモンを感じたんだ。
僅かなんだけど、あれはαのフェロモンに間違いないよ」
僕がそう言うと、
「なぜαのフェロモンだってわかるんだ?」
と佐々木君は訝しげに尋ねた。
「分かるよ。
だって僕のΩとしてのヒートを引き起こすんだもん」
その答えに佐々木君はすごく驚いた。
「それは確かなのか?」
「間違いないよ。
僕達二日と置かずにエッチしてたもん。
矢野君、結構ムッツリなんだよね。
普段はシレ〜っとして澄ましてるのに
ツンデレだよね。
一旦始まるともうノリノリなんだもん」
僕がそう言うと、
佐々木君は大笑いをしていた。
「お前スゲーな。
あの光をそこまで回復させるなんて!」
佐々木君にそう言われたけど、
僕には余りピンとこない。
「ねえ、僕の知らない何があったの?
矢野君は話してくれなかったけど、
教えてくれる?
これからの矢野君との関係にすごく必要な事だと思うから」
僕がそう言うと、
佐々木君は急に真剣な顔になって僕の目を見つめた。
「これから話す事は絶対他言しない様に。
家族と俺以外は誰も知らない事なんだ。
恐らくお前には知っていてもらう必要があると思う」
佐々木君のそのセリフに僕は覚悟を決めた。
コクンと頷くと、
「光な、前の彼氏と別れた後……」
と来て唾をごくりと飲んだ。
心臓がドキドキとする。
「別れた後……
自殺未遂したんだ」
その言葉に僕はショックを受けた。
まさかそんな事になっていようとは思いもしなかった。
「自殺未遂……?」
佐々木君はコクリと頷くと、
「睡眠薬を飲んで手首を切ったんだ。
今は医学も発達して整形でほとんど傷も分からなくなってるけど、
注意して見ると今でも手首に傷があるのが分かる筈だ。
知らなかっただろ?」
そう聞かれ、首をブンブン振った。
「俺が見つけたんだけど、
バスルームは血の海でさ、
今でも思い出すと震えが来るんだ」
そう言った佐々木君の手は本当に震えていた。
僕は佐々木君の手をギュッと握りしめると、
「あの時も俺がこうして見つけたアイツの腕を握り締めて……
でも血がどんどん出てきて止まらなくて……
結構深く切っていたんだ。
病院に着いた時はもう手遅れ寸前で
幸い俺が同じ血液型だったから直ぐに輸血して……
アイツは俺の血で生かされたんだ。
もう少し発見が遅かったら
アイツは間違いなく死んでいた」
僕は更に佐々木君の手をギュッと握りしめた。
「奇跡的に目覚めた時は
あれ程神に感謝した事はなかったよ。
でもその時の後遺症で
アイツの第二次性の機能はすっかりと失われていたよ」
「どうして機能が失われたって分かったの?」
「血液検査で第二次性が出なかったんだよ。
何かの間違いだろうって何度も、何度も、
検査したけど、結果は同じだった。
極め付けはΩのヒートに当てられた時、
匂いも分からなければ、
ラットも起こさなかった。
決定的だよな。
それからアイツは恋愛は諦めて
他の人との接触も辞めたんだ。
自分は一人で良いって……
でもお前に出会えたんだな」
そう言って佐々木君は滲んだ涙をふいた。
そんな佐々木君を見て、
「矢野君の事が凄く大切なんだね」
と尋ねた。
「ああ、アイツは俺の血を分けた俺の半身だからな」
そう言った時の表情がとても印象的だった。
「ねえ、それって恋愛感情は入ってないの?」
「実はな、幼い頃はアイツのこと好きだったんだよ。
まだ第二次性とかも分からない時な。
一花大叔母さんの話を聞いては
光と結婚するんだと思ったもんだよ」
「じゃあ、今は?」
僕はドキドキして尋ねた。
「今でも愛してる。
あいつが幸せだったら俺は身を引いても良いんだ。
そんな愛し方もあるって知ったからな」
そう言われ、
「じゃあ僕も隠しておくのは不公平だね」
そう言って僕は首のチョーカーを外した。
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