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第43話 明かされていく矢野君の現在

僕はチョーカーを外すと、後ろを向いて、 佐々木君に対して項を露わにした。 「お前、それって……」 「はっきり残ってるでしょ?  信じられないかもだけど、矢野君が噛んだんだよ。 僕だっていまだに信じられないんだ」 僕がそう言うと佐々木君は驚きを隠せないようにして 僕の傷跡に手を伸ばしてきた。 「本物か? 嘘だろ?」 そう言って傷を撫でまわした後、 「いや、お前が嘘を言っているとかじゃ無く、 これ、本当にアイツの噛み痕なのか? ちゃんとαとして機能したのか?」 と確認した今でも信じられないようだった。 「うん、矢野君の事を知ってる佐々木君には 信じられないかもしれないけど、 これは確かに矢野君の噛み痕なんだ。 僕、矢野君以外とそう言った関係になった事無いからね。 でもね、それが不思議なんだ」 「と、言うと?」 「矢野君が僕を噛んだ時、 僕も発情期では無かったし、 矢野君もラットを起こしている訳では無かったんだ。 普通だと、この場合は番の契約は成立しないらしくって……」 「まあ、確かにそれはそうだな」 「僕達二人とも、直ぐに消えるもんだと踏んでいたけど、 ちゃんと番としての機能は果たしてるみたい」 「と言う事は?」 「うん、発情期が来てもαを誘う事は無くなったよ」 そう言うと、佐々木君は遠くを見て 「そうか……」 と一言言った。 それは言葉には表せないような表情で、 僕たちの事を祝福しているのか、 いきなり番が出来た僕に同情しているのか、 それとも起きたことが信じられないのか、 将又、矢野君にかまれた僕を嫉妬してるのか、 それともその全部なのか分からないような表情だった。 僕は少し間を置いて、 「でもね、どんどん僕の渇きは酷くなるんだ。 番がいてもヒートはいつも通りにやって来て…… 番が出来からのヒートは今までとは違うんだ…… 僕の体が…… 魂が…… 番を求めて泣き叫ぶんだ。 番に触れてもらえないヒートが こんなに辛いとは思いもしなかったよ」 僕がそう言いながらチョーカーをハメ直すと、 「なあ、俺がお前を此処に呼び出した理由だけど……」 と、佐々木君はこれまでの話題を避けるように本題に入っていった。 「うん、噂で聞いて大体のことは分かってる。 矢野君の記憶喪失の事だよね?」 「だったら話は早いな。 お前の聞いてる通り、 アイツ、事故に遭って何も覚えていないんだ」 「それって全く何も覚えて無いの?」 「いや、13歳くらいまでの記憶はあるんだ」 「13歳……じゃあ元彼の事も覚えてないんだ…… だからあんなに笑顔で……」 僕はカフェに入って来た矢野君の笑顔にとても違和感を覚えた。 理由はそれだったのだ。 「ああ、奴の事を覚えても居なければ、 自殺未遂した事も思えていない。 トラウマも今となっては無かったに等しいだろうな。 お前にとってはつらいだろうが、 もちろんお前の事も覚えていないし、 きっとお前と番になった事も覚えてないな……」 僕はそう言われることを今日の矢野君を見て分かっていた。 だからそう聞いても、思ったよりショックは無かった。 「ねえ、矢野君ってさ、 今あのホテルのランドリーで働いてるって聞いたんだけど、 どの部署にいてもおかしく無い人がなぜランドリー室なの?」 疑問に思っていたことを聞いてみた。 「あ〜 あれな、 光がどうしてもランドリー室って譲らなかんだよ。 本当だったらそろそろ叔父さんに付いて 会社の事について学ばなければいけない時期なのにな。 何だか必死すぎてさ、記憶も無くした後だし、 今はとりあえず好きにさせてるんだ」 そう言われて、 「僕たちランドリー室に居たんだ」 どボソッと言った。 「え? もしかして沖縄でか?」 「うん、そう。部屋も同室で…… 矢野君から聞いて無かったの?」 「あいつ、サンシャインで働いてるとは言ったけど、 何をしてるかは教えてくれなかったんだよ。 お前と知り合って 付き合うかもしれないとは聞いていたんだが…… そっか、そう言う事だったのか。 てっきりホテルのフロントか 支配人の助手かなんかだと思っていたよ…… ランドリ―室に居たなんてな。 それこそ何故だって感じだけどな」 「僕もそこは詳しくは知らないんだけど、 そうだったんだ……」 僕がそう言うと、 「なあ、もしかしてお前、 城之内大学の学生か?」 と突然尋ねてきた。 「え? 城之内大学?」 僕はここで話題になるとは思っていなかった 大学の名前が出てビックリした。 「ああ、あいつ、T大に行くはずだったのに 急に進路を変えて家族が反対する中、 強引に城之内大学に入ったんだよ」 その言葉に心臓がえぐられるような感覚がした。 「そんな…… まさか、そんなことが起きていたなんて…… でもどうして? 僕が矢野君に頼んだから? 僕、最初は城之内大学が目標だったんだ。 始めて矢野君に会ったときに 友達になるために言ったんだよ。 僕、αとの出会いを求めて城之内大学に行くって! でも矢野君と付き合うことになって、 彼とキャンパスライフを一緒に送れたら 楽しいだろうなって話してて…… 矢野君も城之内大学においでよって誘ったら、 笑って、そうだなって…… 半分冗談のような感じだったのに…… 僕どうしよう…… 予定外で番になったばかりか、 矢野君の進路まで狂わせちゃって……」 そう言って慌てふためくと、 「でもさ、悪い事ばかりじゃ無いかもだぞ? 記憶がない中でその選択をしてたって事は、 きっとお前との事が潜在意識のなかにあるって事だからな。 きっといつかお前の事や番になった事も思い出すさ」 そう佐々木君が言った途端僕は俯いた。 「まあ、ショックなのは分かるが……」 と彼が言いかけた時に、 「矢野君は知らないんだ」 と言葉を挟んだ。 「え? 何を知らないんだ? 番になった事? そんなことは無いだろう? 光もその場にいたはずだから……」 そう言って佐々木君が僕の顔を覗き込んだ。

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