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第六章・7
「まさか、私は」
好き、なのか。
遥を、愛してしまったのか?
「いや、まさかそんな」
自分を鼻で笑い、了はエンジンをかけた。
駐車場を出て、ゆっくりと道路に滑り出す。
「ん……?」
そこには、遥が立っていた。
「見送りはいい、と言ったのに」
了のボルボに向かって、御辞儀をしている遥。
その姿は、やはり胸を掴むように愛らしい。
軽くクラクションを鳴らすと、了はその場から去った。
道は渋滞しており、ノロノロ運転をせざるを得なかった。
「これでいい」
でないと、時速100㎞で飛ばしてしまいそうだから。
「愛だの恋だの、可笑しいぞ。私は」
そんな浮ついたことに、うつつを抜かしている場合ではないのだ。
「まずは、弟くんの案件だな」
この後の接待ゴルフは、キャンセルだ。
大物政治家との会食も、断った。
それより、先にやることがある。
遥の心労を、少しでも軽くしてやる必要がある。
愛だの恋だのを鼻で笑う割には、遥にのめり込んでいく了の姿があった。
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