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第十一章・7

 遥の手が、何かを探すようにさまよう。  了の手がそれを取り、そっと口づけた。 「タオルは探さなくていい。私は、お客様じゃない」 「了、さん……」 「満足したか?」 「ん……」 「じゃあ、少し眠れ」 「……」  すうすうと眠ってしまった遥から離れ、了はフリッジから冷たいミネラルウォーターを出して飲んだ。 「Ωのフェロモン、恐るべし、だな」  まだ、脳内がくらくらしている。  了は遥のバッグからピルケースを見つけ出すと、その中の発情抑制剤を取り出した。 「さ、遥。お薬だ」 「んぅ」  口移しに薬と水を与え、了は遥の額に手を置き前髪をかき上げた。 『遥、もう客は取るな。妬きもちで焦がれそうだ』  自分の言葉を、思い返す。  フェロモンで飛んでいたとはいえ、あれは正直な心の声だろう。 「では、遥に客をとらせないようにしなくては、な」  こんな素敵な子を、もう誰にも触れさせたくない。  了はただ、遥の髪を梳いていた。  それだけで、幸せだった。

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