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第十二章・8
「まさか、闇クラブを閉店してしまわれるとは……」
まだ言い足りない、といった風の松下だ。
「知れば、止めに入っただろうからね」
当然です、と松下は憤慨した。
「これでビルの売り上げは、がた落ちです!」
「まぁまぁ。そうでもないさ。確かに荒稼ぎはできないが、きれいな仕事ができる。
了は、ビルの地下を一新させた。
地下三階は、倉庫。
地下二階は、カラオケボックス。
そして、地下一階はライブバー。
「そう、ふて腐れないで。彼の歌を聞けば、君も心が落ち着くだろう。
「遥くん、新しくなったライブバーでも売れっ子ですね」
しっとりと落ち着いた照明の下で、遥は歌う。
「Fly me to the moon Let me play among the stars……」
客はお喋りや飲食を忘れ、遥の声に聴き入った。
了もグラスを掲げ、遥にかざして見せた。
ライトの逆光で了の姿は見えないはずなのに、遥はそちらに向けて腕を伸ばした。
「In other words, please be true In other words, I love you……」
「照れるなぁ」
お熱いことで、と松下は苦笑いだ。
「私も愛してるよ、遥」
ブランデーを干し、割れんばかりの拍手の中、了は花束を持って舞台へ歩んだ。
花を受け取り、遥は幸せそうに微笑む。
「新婚旅行は、月にするか」
「連れてってくれますか?」
「遥となら、どこへだって行けるさ」
二人は腕を組み、客席へ挨拶をする。
そんな彼らを、祝福の拍手が包んだ。
いつまでも、鳴りやまなかった。
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