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既存作品番外編アンソロジー寄稿作品

横浜港の明かりが、客船が進むにつれ小さくなっていく。 何もかも遠ざかっていく。俺が生まれ育った街も、働いていた風俗店も、ボロアパートに残したままの荷物や借金も。 店の常連客だったこの男によって全部引き剥がされた。ソイツは船のデッキで俺の隣に並び、サマージャケットの裾とショートヘアを潮風に靡かせている。 赤ん坊みたいなやたら澄んだ綺麗な目が、俺をずっと見つめていた。 名前はスイというらしい。本名かどうか怪しいけど。 「レン、寒くない?」 と風と寒さに鳥肌が立ち始めた俺の腕をさすり、ジャケットを脱ぐそぶりを見せる。 「いいよ、もう気がすんだ」 ポニーテールにした黒髪から溢れた一房を耳にかけ、俺は夜景に背を向けた。 船の中に入れば、当然のようにスイは俺についてくる。フローリングの廊下はピカピカで、エンボス加工の壁紙もくすんでなくて真っ白だ。上等な客船だと分かるし、足元がゆっくり揺らいでいるのがまだ慣れなくて落ちつかなかった。 スイに案内されたレストランも、テーブルクロスを張った机の上でグラスがピカピカ光っていて、俺みたいな貧乏人は場違いな気がしてならない。 創作中華のコースって言ってたけど、ジュレのかかったエビの前菜とか泡立てた肝のソースがかかったアワビとか、中華街に住んでた時はお目にかかったことがないものばかり出てきた。肉まんすらコンビニで買っていたし。名前も調理方法もよくわからないコース料理を淡々と味わう。 スイをちらりと見れば、慣れた手つきでレンゲを持ち「美味しいね」とフカヒレのあんかけを頬張っていた。 金を持ってはいるんだと思う。でも身分のしっかりしたヤツなら、偽のパスポートとかチケットで船に乗り込む必要はないはずだ。あの店でもヤクザがそうとうアコギな商売をしていたが、コイツも同じ穴の狢なのだろう。そのくせ擦れた感じはしなくて、育ちのいい坊ちゃんみたいな顔つきだ。 まああの店から出られるなら、どんな手段でも誰がどう関わっているかも構わなかった。これからどうなるかは、まだ予想がつかないけど。 自分で言うのもなんだが、俺は女顔でツラはいい方だし、どっかに売られたり飼われたりしても不思議じゃない。 ごちゃごちゃ考えながらメシを食っていたせいか、味がまったくわからないうちに平らげていた。 スイはのんきに「美味しかったね」ってニコニコしてやがる。 ビリヤードやダーツが出来るバーもあるらしかったが、そんな気分にはなれなくて部屋に行くことにした。が、 「は?!部屋同じなのか?!」 「ダメだった?」 「いや、ダメっていうか」 確かにな、コイツとはキャストと客として寝たけどな。ああでも、カップルっていう設定で乗ったんだっけ。 「しょうがねえか」 肩を落としてドアを開ける。乗り込む時、スイが預けたスーツケースはもう届いていた。 カーペットの床はシミひとつなく、クローゼットもガラステーブルもピカピカで、ベッドにはシーツとは別に飾り布みたいなのが敷いてある。こんな清潔感があって上等な空間で寝るのは久しぶりだ。ウリをやってた時行ったちょっといいラブホ以来だ。 スイは靴を脱ぎ、俺の手にそっと指を絡める。様子を伺うように俺の目をじっと見て、抵抗せずにいたら身体を寄せてきた。 「僕のだ」 スイは俺を抱きしめながら深く息を吐く。 「夢じゃないよね」  それを確かめるように、スイの腕に力が込められる。甘い空気が流れはじめて、これはベッドに入る流れだよなと頭の片隅で思う。 抱きしめられるままに突っ立っていると、足の裏からゆらりと船の揺れを感じた。そのまま立っていると足元が覚束なくなりそうだ。 スイは俺の顎を持ち上げ顔を近づけるが 「セックスすんの?」 と甘い空気をぶった斬ってやった。 「嫌?」 「別にいいけど」 ありがとう、とスイは目を細める。そんな素直な反応をされるとなんだか調子が狂う。 そうっと唇を重ねられた。デザートのライチのシャーベットの味が舌にまだ残っていて、甘い匂いと絡まる舌に頭がぼーっとしてくる。 そのたびにしっかりしろと理性を揺り起こした。 客として来ていた時は、それはもう丁寧に俺を抱いていた。でも、今は店の外にいるから何をしてくるかわからない。 今の俺にはなんの後ろ盾もないという事実がじわじわ忍び寄る。店での待遇は最悪だったし用心棒どもの性格もクソだったけど、ある意味それにさえ耐えればいくらか安全な場所だった気がする。二度と戻る気はないけど。 「ちょっと緊張してる?」 と能天気にたずねてくるスイにイラッとした。 それでも「ベッド行こうか」と手を引かれるまま着いていく。セックスだけで済むならそれに越したことはない。 ベッドの上に寝かされると、柔らかいマットレスに身体が沈んだ。天井にまで凝った模様があるのに気づく。 それを遮るようにスイが覆い被さり、スプリングがギシリと軋んだ。 「ねえ、跡つけていい?」 スイが俺の首筋をなぞる。 「ん?キスマーク?」 「そう」 「別にいいけど。・・・・・・んっ」 返事をするや否や、スイは首筋に顔を埋めた。思ったより強く吸われて少し肩が跳ねる。 スイは顔を上げると、首についた赤い跡を見て破顔した。 「嬉しい。ずっと我慢してたから」 目を少し潤ませ、俺の頬や頭を撫でてきた。 「もっとつけていい?」 「好きにしろよ。でもあんま目立つとこつけんな」 言い終わらないうちにスイはまた首筋を食む。 「だから目立つとこにつけんなって・・・・・・っ」 何度も吸いつかれて、その度にチクリとした刺激が皮膚を刺す。 それだけでは飽き足らず、スイは俺のTシャツをめくった。赤い跡が胸や腹にみるみるうちに増えていく。スイの我慢していたものが溢れるみたいに。 次第に荒くなるスイの息遣いに、ああ襲われてんなと妙に冷静になる。 そうかと思えば 「ごめん。いっぱいつけちゃった」 と気の抜けた笑顔を見せるものだから本当に掴めない。スイは俺と目が合うと、今度は叱られた子どもみたいに眉を下げた。 「どうしたの?嫌だった?」 頬に落ちてきた髪の束を指ですくわれる。 「平気。嫌だったら手が出てる」 まあ一発ぶん殴ることくらいならできるだろうな。コイツ油断しきってるし。 「いいよ、でもその前にちゃんと教えてね」 スイは微笑んで、俺の頬に顔を擦り寄せる。 「優しくするからね」 あやすような声音で囁かれ耳がくすぐったい。身体から力が抜けて、強張っていたことに今気付いた。は?何でビビってんだよ。この俺が。たかがセックスで。 スイは早速俺のシャツをめくって胸に柔らかな口付けを落とす。唇であちこちに触れながら、指の腹で乳首をつまんできた。押し潰さない程度の力でやわやわと捏ねられる。 スイは宣言どおり、そっと触れてくる。緩やかに、だけど快感を絶え間なく与えられたまに息を詰めた。 深く呼吸することで快感を逃すが、それがバレてキスで逃げ道を封じられた。触られるたびスイの身体の下で身悶えるしかない。 勃ち上がったペニスはとっくに硬くなっていたスイのそれと擦り合わされて、スイのスラックスにシミを作っている。ロングTシャツやビジュー付きのタンクトップを脱がされていき、いつのまにか俺だけ裸になっていた。 スイは上体を起こすと、俺の膝を掴んで割開く。薄暗かった店とは反対に船内の照明は明るい。ペニスもアナルも丸見えで、そこに視線を注がれる。 スイは脚の間に顔をぐっと近づけて、透明な雫の浮かぶ亀頭を口に含んだ。 ぬるりとした質感と口内の熱さは未知の感覚で、 「ストップ。嫌だ」 と腰が引けた。スイはすぐ口を離す。 「ごめんね、苦手だった?」 「いや、フェラはされたことねえし」 「え!ホント?!」 スイは澄んだ目をキラキラさせる。 「僕が初めて?」 「ん。まあ・・・」 戯れに触られたり舐められたりしたことはあるけど、そこまでがっつりされたことはない。一人でする時も尻を使うし。 「お願い、一回だけやらせて」 スイがあんまり嬉しそうに言うものだからしぶしぶ頷いた。 ペニスに口付けるスイは上機嫌だ。でも大事なものを包み込むみたいに手つきは優しい。 根本から鈴口まで、スイの舌先が何度も往復する。先走りだか唾液だかもうわからないけど、透明な液に塗れてベトベトになっていく。 スイがかぱりと口を開け、亀頭を口に含んだ。柔らかくて熱い粘膜に包まれて背中がざわざわした。気持ちいいけどまだ捉えどころのない感覚だ。 頬の肉と舌にまとわりつかれて、それらが動き始めると声が上がった。スイの舌はペニスを味わうように張り付きうごめいている。熱くて、湿っていて、正直言えば気持ちよくなってきた。息が深く、長くなっていく。 見計らったように、スイは俺のペニスを吸い根元まで咥え込む。粘膜に擦られる感覚に声が上がった。 スイはチラリと目線だけを寄越して、頭を前後させ始めた。唇と舌で扱かれると甘い痺れが走って、いちいちビクリと震えてしまう。スイの頭が往復するたびに、腰に快感が溜まっていく。 息を詰めて声を我慢するけど顔が熱くなってきた。時々勝手に腰が浮く。そのまま腰を振ってイイところに擦り付けたらきっと気持ちいい。そんな情け無い姿は絶対見せたくないけど。 喉を締めて声を抑え、シーツを握り込んで耐える。イキそうになるまでフェラされたことなんてないから、快感の逃し方がわからない。 「はぁっ・・・・・・スイ、も・・・・・・無理」 後ずさるけど腰を掴まれ引き戻された。かえって奥まで咥え込まれる。口で激しく扱かれて、それに合わせて勝手に腰が揺れた。 「あっ、あっ、出る・・・・・・って。んんっ・・・・・・!」 全身が震えた。ペニスの先端から熱い液体が飛び出す。 スイは咽せて口を押さえる。身体が一瞬強張った。粗相したらすぐ客に怒鳴られたり乱暴に扱われたりしたから。まあ言い返したり逆に煽り散らかして延長料金とってやったけど。その辺にあったティッシュを取ってペニスを拭き、ついでに咳き込むスイの前に二、三枚置いてやる。 「あれ?何で拭いちゃうの?」 「いや拭くだろ普通」 「全部欲しかったのに」 残念そうに手についた精液を舐めとった。マジかよコイツ。 「またやらせてね」 「一回だけっつっただろ」 「駄目?」 「駄目じゃ・・・・・・ないけど」 まあ気持ちよかったし。 「じゃあまた今度ね」 ニコニコしながら、スイは俺を押し倒す。 「今日はずっとこうしてていいんだよね。最高」 ぎゅーっと擬音がつきそうなほど抱きしめられる。 「大好きだよレン」 「あ・・・・・・」 「どうしたの?」 どうしたも何も、サラッと告ったよな?店ではそんなこと一度も言わなかったくせに。 「ちょっと顔赤くなってる。かわいい」 スイはニコニコしながら頭を撫でる。 いや、こんなのはベッドの中じゃよくあることだ。気分が盛り上がってそう言ってるだけで。 でもどうしてだか、本当のところはどう思っているのか聞けなかった。 「続きしよっか」 人のイチモツ咥えた口でキスするな、と文句が出かけたけど、ちょっとしょっぱいなと感じたくらいだったから引っ込んだ。 それからは、店ではかなり手加減していたんだなと思い知らされた。 前戯だけで精液から色がなくなるまでイかされたし、結局フェラもされて全部飲み込まれた。 挿れたら挿れたで平気で抜かずの三発やりやがるし。 いや、四発か?ヤッてる最中何回か意識が飛んだからもっとかもしれない。 今もスイは俺の中にいて、一定のリズムで腰を打ちつけている。仰向けにされた身体は力が入らなくて揺さぶられるままになっていた。 「あっ!あっ!ダメだって!っまたイクから・・・・・・ああ!」 背中がのけぞって強張る。ぎゅっと目を瞑れば涙がポロポロこぼれ落ちた。 「あっ・・・・・・!イクイクイクっ・・・・・・!イクからぁっ・・・・・・ああぁぁ!!」 頭の奥がツンとして快感の波がつま先から全身に押し寄せる。ペニスからはぴゅくりとほんの少しだけ液が出て、勝手に身体がガクガクと痙攣した。 スイが俺を抱き込んでそれを押さえ込み、収まりきらなかった手足は空中でもがく。 感覚が遠くなっていく。目の前に暗幕が降りてきてまた意識が途絶えた。 でもやがて、脚が揺すられる感覚に目が覚めた。汗や精液の生臭い臭いが漂ってくる。腰の痺れや孔の縁が摩擦される熱に意識がはっきりしてきて、スイの顔が目の前に映し出される。 身体は絶えず揺すぶられていて、寝ぼけた脳みそにゆっくりと快感が忍び寄ってくる。まだ終わってない。終わりも見えない。ゾッとしてブルリと身体が震えた。 「やだっ・・・・・・もうしたくない・・・・・・」 ぐすぐすと泣き言が漏れて、水鼻まで垂れてきた。 手のひらで拭うとよけいに悲惨な顔になる。それでもスイは優しげに微笑み、下半身は獣のように俺を貪った。 ヤリすぎて頭も孔もバカになったのか、ひと突きされるだけで簡単に絶頂に登り詰める。そのまま降りて来られず、ずっと意識がふわふわ漂っている。ふと眠りに落ちそうになるたびにイイところを突かれ、鮮烈な快感で叩き起こされた。気持ちいいのがおさまらなくておかしくなりそうだ。 「んっ・・・・・・クソッ、早く終われよ・・・・・・!」 「気持ちよくない?疲れてきちゃったかな」 「気持ちいっ・・・・・・気持ちいいっ、けど・・・・・・」 「けど、何?」 「もっ、もう無理・・・・・・イクの・・・・・・」 「もうイかなくていいの?本当に?」 「んあっ・・・・・・いいから・・・・・・!」 「じゃああと一回ね」 「あああああぁぁ!!激しっ・・・・・・!!!ゃあぁぁぁぁ!!!」 嬌声というより悲鳴に近い声が吐き出され続けた。 みっともなく泣き言や涙や鼻水を垂れ流しながらスイに翻弄される。 スイがようやく規則正しい律動を乱し、大きく腰を叩きつける。俺をきつく抱きしめ喉奥で唸った。孔の縁からぬるい雫が垂れるのを感じる。 「ん、休憩しようか」 額にキスを落とされて、ようやくスイのが引き抜かれた。一緒にどろりとした粘液も孔から噴き出す。下ろした脚が、というよりどこもかしこも重くなって、寝転んだままピクリとも動けなかった。息を整えるので精一杯だ。 スイが水の入ったコップを差し出すけど、起きられなくて横向きになって腕を伸ばす。 おまけに手を滑らせコップをベッドに落としてしまった。怒鳴られる、と一瞬身構えたが、スイはコップの水を口に含んで俺と唇を合わせる。 生暖かい水が乾いた唇と喉に染み渡った。 「もっと欲しい?」 ボーっとした頭で頷くと、スイは嬉しそうにもう一度口移しで水を飲ませた。 スイはあれだけ激しく動いていたのに、ひょいとベッドから下りてスタスタとバスルームに消えていった。嘘だろ、体力どうなってんだよ。 戻ってきたスイは蒸しタオルを持っていた。それを身体に押し当てられて、思わず払いのける。 「何だよ」 「寝てていいよ、拭いてあげるね」 「え、なんで?」 「僕がしてあげたいから」 スイは微笑みながら俺の顔にタオルを当てる。汗の滲む髪の生え際や額、涙で濡れた目元を拭った。 なんでそんなことしたがるんだろ。ほっとけば自分でやるのに。 でもまだ動けなくて、そのまま寝転んでいたらタオルで身体の隅々まで拭きあげられた。さっぱりしたけどそんなのされたことないからビビる。 スイは更に、濡れてぐちゃぐちゃになったシーツをベッドから剥がした。マットレスの濡れた部分にはバスタオルを敷く。それから 「これレンのだからね」 ってベッド脇のチェストにストローを差したコップを置いて、脱ぎ散らかした服をランドリーバッグに入れていった。 スイはビックリするほど甲斐甲斐しく動いてたけど、その間俺はぐったりしてベッドに寝転がってただけだ。それに文句を言うでもなく 「ごめんね、無理させちゃったね」 ってスイも横になって、俺の頬に手のひらを当てる。 「嬉しくて、いっぱいしちゃった」 幸せそうな笑みが、スイの顔いっぱいに広がっていった。 俺はあられもない姿や声を撒き散らして醜態を晒したことを思い出してきた。顔が熱くなって叫び出したくなる。声がすっかり枯れてるから無理だけど。 ただ下を向く俺の頭を撫でながら、スイが嬉しいなあとか大好きだよとか小っ恥ずかしい言葉を繰り返す。ますます顔があげられない。 「幸せって、こんな感じなんだね」 しみじみとスイが呟き、寂しげな音を乗せた言葉にハッとする。スイの顔を見る前に、抱き寄せられて胸板しか見えなくなった。 「愛してるよレン」 俺を閉じ込めるように、スイの腕に力が籠る。どこがいいんだか、俺みたいなヤツ。 でもセックスが終わった後、ここまで甘やかしてくるヤツは初めてだ。こんなに長い時間抱かれたのも。 飽きられるのも早まるんじゃないか、ある日突然置いてかれるんじゃないかとか、今までのロクでもない経験が記憶から訴えてくる。 だけどもう考える力さえ使い果たしていて、瞼も持ち上げられなくなってきた。とりあえず全部放置して休むことにする。 ベッドの上だからか、もう船の揺れはそんなに気にならない。あるいはスイにしっかり抱き止められているからか。ずっと素っ裸で身体が少し冷えたから、コイツのあったかい腕の中は悪くない。 目を閉じて、スイに引っ付いたまま眠りに落ちていった。 ハッと目を覚ますと、ベッドではなく飛行機の座席に座っていた。中国語でアナウンスが機内に流れていて、一瞬自分がどこにいたのか分からなくなる。 「レン、着いたよ」 と視界にスイの顔が入った。こうして見てみると、横浜を飛び出したあの日より精悍さが増して背も高くなっている。 伸びをして立ち上がれば、まだ寝ぼけているのか足がもつれた。 するとスイがすかさず手を伸ばして腰を引き寄せ 「大丈夫?」 と柔らかく微笑んだ。 スイといて三年くらい経ったけど、コイツは相変わらず俺を甘やかしてくるし、飽きもせず世話を焼いている。 「ん、平気」 とそれを当然とばかりに振る舞っても、気にも止めずニコニコと後をついてくる。擦れてない澄んだ目も変わっていない。 この男が、詐欺でメシを食っているとは思えない。 でもそれで横浜の店での売り上げを伸ばせたし、今も養われているから文句は言わない。 香港空港に降り立つと、シャトルバスの乗り場に向かった。これからマカオでひと稼ぎする予定だ。正確には、カジノで資金洗浄するのと金持ちのカモを探すのが目的だけど。 リスクもあるが今のところスイと別れるつもりはない。 スイはひどい嘘つきだが、横浜を去ってから俺に嘘をついたことは一度もないのだから。 終

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