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第7話 再び

「あ、赤い目...。」 セツナが少年の顔を両手で挟みじっくりと瞳を見つめていると、少年は目を閉じセツナの首に両腕を回すと、口付けをした。 「っ!?何すんだ」 バッと離れ少年を睨むと、少年は大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙をこぼしていた。 「ごうにいさん...いきてたんだね....。」 泣いている少年から、殺意も何も感じない。 ただ感情的に泣いている少年を見てセツナはしどろもどろしていた。 「とりあえず、体洗ってこい。話はそれからだ。」 全身裸で血塗れの少年は、頷くと部屋の奥にある浴室へと入っていった。 焦る気持ちを落ち着かせながら、セツナは空いてるソファに脱力したように座り込む。 殺しの依頼があった薬物グループのアジトを潰す。その仕事のはずが、犯されていた少年を助けて、その少年から誰かと間違えられている?? だが、あの赤い目。 俺は今まで自分以外の赤い目の人間を見たことがなかった。 なぜ彼は目が赤いんだ? なぜ俺は、目が赤いんだ...? ぐるぐると同じこと考えている間に少年は浴室から出てくる。 綺麗に血が落ちた少年は濡れた髪から水を滴らせながら、服も着ずに近づいてくる。 裸のままセツナの横に座る。 肩に頭を預けると、すすり泣く声が聞こえてくる。 「ごうにいさん、いままでどこにいたの?」 ぎゅうっと横から抱きしめられる。 何もわからない、知らない子に抱きしめられている違和感。 「何も答えられない。」 仕事柄...いや、それ以上にわからない事も多い。 「ぼくのことおぼえてる?」 潤んだ瞳で覗き込んでくる。 そんないたいけな姿で見られても彼のことは知らない。 「知らない。」 その言葉を聞いて少年の表情が取り残された子うさぎのように寂しそうに曇っていく。 「もしかして、なにもおぼえてないの?」 恐る恐る問う、その表情は不安が滲んでいた。 「お前のことも、俺を呼ぶその名前も俺にはわかんねぇ。」 少年は動揺すると、また瞳にじわりと涙が滲ませていた。 「おもいだしてごうにいさん!ぼくだよ!あついばしょでヤケドしないようにまもってくれたじゃん!!」 俺の腕を掴むと必死に揺さぶる。 記憶にない情報をただただ降り注がれ、頭痛がするだけだった。 「やめろ。」 頭を押さえるも頭痛がズキンズキンと頭を鳴らし少年の高い声さえも頭に響く。 「いっぱいいたいことも辛いことも、いっしょにがまんしてきたじゃん!」 「やめろ!」 「ねぇ!ごうにいさん!」 「俺は“ゴウ兄さん”じゃない!セツナだ!!」 あまりの頭痛に頭を抱えて項垂れるセツナを見て少年は失意した。 「ぼくはタマキっておなまえもらったんだよ。セツナ。ごうにいさんじゃなくてもいい、もうどこにもいかないで。」 溢れ落ちそうになる涙を拭うと、俯くセツナを抱きしめた。 「こんな所にいつまでも居たら危ない。お前もう帰れ。」 抱きしめる少年を引き剥がすと、冷たく言い放った。 「ヤダよ!やっと会えたのに!セツナについてく!」 またもセツナに抱きつく次は離れまいと力を入れる。 「今見ただろ!?俺は人殺しなんだよ!ガキなんか連れて帰れるか!」 突き放すと容易くソファーに倒れ込む。 「お前と一緒に居る気はない。帰れ。」 言い捨ててその場をさろうとすると、首筋がチクリと痛む。 とっさに手を当てると、首筋に小さな針が刺さっていた。 針を抜き、後ろを振り返ると、タマキはニヤリと笑みを浮かべていた。 途端に、全身の力が抜け、視界がぐにゃりと曲がった時には地面に伏せていた。 「っな...なにを...!」 体は微かにしか動かせず、頭痛と熱が息苦しさを感じさせる。 「帰さないよ。」 声もうまく上げられない俺をタマキは見下ろした。 「あれ...おっかしいな、効きが良すぎる。」 先程のふわふわとした喋り方は消え、高い声の中にも鋭さのある話し方へと変貌する。 ゴソゴソとセツナの懐から持ち物を漁ると、銀色の棒のようなものを取り出す。 「薬煙か...それで効き目が強くなってるんだなぁ〜なるほどなるほど。」 さらに物色しながらセツナの携えてる武器を一通り回収すると、机の上に寄せ集めた。 最後に懐から携帯を取り出すと丁度携帯が振動する。 モニターには“レイ”と表示されていた。 「っレ、イ....!」 レイにさえ状況を伝えられれば...そう思っていた矢先のことだったが、携帯はタマキに握られている。状況は絶望的だった。 「レイ、ね....。この人と今までいっしょにいたの?」 伏せたセツナにしゃがんで目線を合わせるタマキは、まるで先程の可憐な少年の目ではなく、憎悪さえも感じられるような底の見えない暗い目だった。 セツナは何も答えず、目を伏せた。 するとタマキはすぐに携帯の電源を切ると、セツナの目の前で携帯を落とし、足でグシャリと踏みにじる。 そのまま自身の脱いだ服から携帯を取り出し何処かに電話をし服を着始める。服を着てしまえば、いよいよ男性さが薄れていく。 「タマキだよ。お迎えが欲しいんだけどー。」 と何やら誰かと話している様子だった。 誰と何を話しているか詳細まではわからない。 ただどうやら俺のことをどこかに連れて行こうとしている事だけはわかった。 だが、ただただ頭痛と熱い身体で地面に突っ伏したままはぁはぁと息をすることしかできない。 そんな俺をタマキは仰向けに返すと、ぴったりと体を重ねる。 「ずっとずっと探してた。ずっと会いたかったよ。」 タマキはそう言って首筋にキスをする。 俺は異常なほどその感触を敏感に感じていた。 首筋のキス一つで動かせない全身が微かにピクリと動く。 「ッはぁ....ッ。」 胸元に頬を寄せるとまた、全身が波打つように感覚が走る。 一つの感覚を全身で味わっているかのような異様な感覚に息が漏れる。 「ぜんぶが気持ちよく感じるでしょ...?早くいっしょにおうちに帰ろうね...。」 タマキはとろりと嬉しそうに垂れた目で愛でるように見つめると、またぎゅっと抱きついた。 突然、何かを察知した動物のようにタマキが顔を上げると、テーブルの上から俺の銃を一丁手に取る。 セイフティーを下げ、解除すると同時に入り口からパスッパスッと空気を切るような音が鳴る。 レイがよく使うサイレンサー付きのハンドガンの音だとすぐに認識した。 タマキは常人ではあり得ない速さで華麗に身を翻し、宙を舞うように撃ち込まれた銃弾を避けると入り口にパンパンッと発砲した。 また2発、パスッパスッっと鳴るとタマキの腕から血がぽたぽたと滴り落ちていた。 「ッこれであてんの...?」 弾を食らった腕を押さえると、入り口からレイが入ってくる。 いつも知っているレイの顔。でも雰囲気だけは周りのものを全て壊してしまいそうなビリビリとした殺気を感じた。 「れ...い....殺す...な...!」 タマキ自分の何かを知っている。そう感じたセツナは必死に声を出しレイを止めるも、レイの耳には届いてなかった。 初めて見るレイの禍々しい殺気に、また頭痛がひどくなる。 頭の中で「やめて!やめて!」と誰かが泣き喚き苦しむような声が何十にも重なって何度も何度も反響する。 「うっ...ぐ....。」 セツナが頭を抱えて居る時、タマキはレイに銃を向けられ、4階のビルの窓から飛び降りた。 レイは窓から身を乗り出し、落ちるタマキに何発か撃ち込むとタマキを追わず倒れるセツナに駆け寄った。 「大丈夫か?」 頭痛と体を襲う火照りの中少しだけ動くようになった両手で顔を覆う。 うっすら指の隙間から覗くと、いつものぶっきらぼうなレイがそこにいた。 ハァーッハァーッと、深く苦しそうに息をしながらセツナは首を縦に振る。 レイは壊れたセツナの携帯と、置き捨てられた武器を自分の開いたガンホルダーに差し込むとセツナを両腕で抱え上げる。 「っッん....もちょい...ゆっくり....。」 腕の中でぐったりと脱力したセツナが小さく声を放つ。 「そうも言ってられない。」 ここまで来れたのはギリギリセツナの携帯を追っていたから。携帯を壊されたのには何か意図があるのだろうとレイは踏んでいた。 もしかしたら、さっきのやつの仲間が来るかもしれない。 レイはセツナを抱え、逃げるように部屋を後にした。 「ごめん...しくじったっ...。」 顔を覆ったままポロりと言葉を溢すセツナに「大丈夫だ。」と返す。 連れて帰っている間、セツナの身体に起きた異常をレイは察知していた。 家に着くとすぐにセツナがお風呂に行きたい。と言うので、風呂場まで連れて行く。 「自分で入れるから、大丈夫....。」 おおよそ大丈夫そうに見えないセツナだが、彼なりのプライドがあるのだ納得すると脱衣所まで運んでドアを閉めた。 心配もありドアの前でしばらく待っていると、ドンッと大きな音が鳴る。 慌ててドアを開け風呂場へ入ると、服を着たままのセツナがガラス張りのシャワールームでシャワーを流したまま座り込んでいた。 「セツナッ!?」 シャワーを止めることも忘れ、慌ててセツナの顔に手を触れる。 シャワーのお湯が降り注ぐ中、セツナは苦しそうに肩で息をすると、「でてって...。」とレイを見つめる。 その目はシャワーの水なのか、うるった瞳から雫が滴り落ちる。 火照りで赤くなった顔も相まって、セツナを艶っぽく魅せる。 初めてセツナが家に来た日を思い出し、生唾を飲んだ。 「とりあえず服を脱げ!風邪ひくぞ...。」 邪念を払うように、セツナの世話をするも服を脱がせようとするとビクッと体を震わせ甘い声を漏らす。 「体がっ...おかし...っぅ...。」 宙を仰ぐように首を反ると、ズルズルと体がガラスからずり落ちる。 レイはそんなセツナの腕を引き上げると手を組ませて自身の首の後ろに回させる。 自分自身も服が濡れてしまって居るが、先にセツナの服を脱がせる。 ズボンを脱がせようとすると、「あッ...あっッ...!」と甘い吐息が耳元で囁かれる。 下着をズルりと脱がせると、ぬるぬるとした透明な液がレイの手にまとわりつく。 「っもう...なんかいも...達してるのに、、また波が来てッ...苦しい...。レイぃ...、ヌいて...頼む...。」 弱々しく懇願するセツナのあられも無い姿に心臓が脈打つ。 自身の手のひらの十字傷を見て、自分自身を落ち着かせる。 ダメだ。セツナには手を出すな。この関係を壊しては行けない。レイ。耐えろ。耐えろ。 そう自分に何度も言い聞かせる。 耳元で自分の心臓音が聞こえる。 自分自身もぬるいシャワーの中火照って行くのがわかる。 「ダメだ。自分でやれ。そこまで世話はしてやれない。」 理性だけが言葉を紡ぐ。まるで自分に言い聞かせるように強く言葉を言い切る。 セツナを置いてシャワールームを出ようとした時、セツナが弱々しくレイの腕を握った。 「レイ...レイがいいッ...あの時みたいに抱いてよ...3年前の、あの時みたいに...っ。ずっともう一度あの日みたいに...抱いて欲しかった...。」 その言葉で今まで自分を抑えていた枷がガラガラと崩れ落ちる音がした。 1番自分が後悔していた事。自分が1番欲しかった許し。それを今、受け取ったような気がして心が軽くなったと同時に自分の中の何かがぷつりと切れた。 セツナの首の後ろに優しく腕を回すと頭がぶつからないように手で支える。 今までずっと我慢してきた想いが溢れるように唇に触れる。 「ふぅっ...んぅッ....んぁ...。」 舌を絡めるとセツナの細い声が口から溢れる。 シャワーの水が顔から流れ落ち、呼吸するのさえも難しくさせる。 「っはぁっ...はぁ。」 とキスで止めた呼吸をするセツナの顔が狂おしく愛おしい。 セツナを壁際に、自分自身がシャワーの盾になるようにセツナを覆うと水は俺の背中だけを伝っていく。 ちゅっちゅっ と響く艶かしい音もザーザーと流れる水とともに消えていく。 唇を離すと、レイの口を追うように見せるセツナの舌先とレイの唇につながる銀色の糸がぷつりと途切れる。 とろんとした表情で恋しそうに見つめるセツナの体のラインに沿ってレイが手を下ろすと、下唇を噛みながらセツナは刺激を堪える。 レイがぷっくりと膨れたセツナの乳首を優しく摘む。 「アッ...くぁ...ッ!!」 セツナにとっては突然の強い刺激に身を震わせ、勃ちっぱなしのモノからぽたぽたと水を垂らす。 「あぁ...はぁ..はぁ..レイ...も、欲しいっ...。」 グッと濡れたレイのシャツを引く。 すぐにぐちゃぐちゃにしてやりたい気持ちを抑えながら、レイはセツナの口に再び熱いキスをしながら、濡れた服を脱ぎ捨てていく。 ほりが深くしっかりと筋肉のついたレイの身体には無数の傷跡と腰から腿にかけて火傷の痕が残っていた。 首から下がっている銀色の十字架のネックレスが殺し屋として残った跡を全て浄化しているような気がした。 セツナにも同じ十字架のネックレスが掛かっている。レイが昔渡したものだった。 レイは片手をセツナのヘソから下腹部へなぞるように降ろしていくと、セツナのヒクヒクと感じる穴にゆっくりと指を埋めていく。 「ふぁぁッ...っ!!」 指の付け根まで差し込むとゆっくりと穴を広げるように指を出し入れしていく。 驚くほど柔らかい中は良く慣らされていたようだった。 「いつも、俺の横で弄ってただろ?」 耳元で囁くとギュッと穴が絞まる。 火照っていた顔をさらに赤くすると、セツナは何も言わずに顔を逸らした。 そのまま耳朶を甘く噛むと、舌を耳の穴に音を聞かせるように入れる。 「あァッ...おしりと...みみ...っダメ...っはぁ...ふぁ...ッ。」 ただでさえ感度が上がっているセツナがお尻を弄られながら、耳元で聞こえるレイの吐息と水音に身体は甘く痺れていった。 ドロドロに溶け、力が抜けたセツナの穴に自分の固くなったものを押し当てるとゆっくりと入れ込んでいく。 「ッアっ....ダメッ....入って...んぁああぁっ‼︎」 入れるだけでもビクビクと身体を跳ねさせ、緩く開いて閉じない口からはたらりと唾液が糸を引き流れ落ちる。 最後まで入ると、ゆっくりと腰を動かす。 セツナの声を抑えるように、口を口で塞ぐ。 「んぅっ!んふぅっ!っぅ!ッうぅ!」 体が揺れるたびに声が漏れる。 「またイっちゃぅ...ッ!レイ...!やめっ...!」 「落ち着くまでイかせてやるから安心してイきな。」 いつもは笑わないレイがいたずらな笑みを浮かべると、その表情にゾクゾクと痺れる。 「イくっ....イク!っあぁああぁッ‼︎」 グッとレイが奥まで押し込んむと派手に果ててしまった。セツナから溢れ出た白い液がレイの顔にまでかかる。 「まだイけるだろ?」 顔についた精液を舌で舐めとると、ビクビクと震えて焦点の合わないセツナをうつぶせにお尻を上げさせる。 「っもうむり!無理だよレイ...ッ!」 泣きながらも未だ萎えないセツナのそれを見て、今度は奥まで突き上げるようにモノをねじ込んだ。 「ッひぁ...あ゛っ....ぁ゛ぁ...っ!」 弓のようにのけ反ると、もう精液もでないセツナのものがビクビクと揺れる。 「っも...やめ...。」 セツナの声も聞かず、レイはセツナのお尻に腰を打ちつける。 やめてと言いながら、締まりっぱなしで咥えて離さないナカがセツナの声を掻き消して欲望だけでレイを染めていく。 「ぅあ゛ッ!んあ゛ぁ!っあ゛!」 いつのまにか理性がトんでいるようなセツナの声と、金属が擦れる音が響いていた。 「ッは...はっ...イくっ。」 「またイくっ!!イくぅっっ‼︎」 ゾクゾクと快感が押し寄せてくると、ギリっと奥歯を噛み締めセツナの中に果てる。 同時にセツナもビクビクと痙攣すると、射精することなく失神してしまった。 ずるりと力なく滑り落ちていくセツナの体を抱き止める。 ハァハァ、 と自分の息の音がシャワー室に響く。 背徳感だけが取り残される。 シャワーでセツナのドロドロの身体を軽く流すと、抱き上げてベットまで運んだ。 ベットで拭き残した水滴を丁寧に拭いていく。 傷だらけの俺とは違って、セツナの身体は傷ひとつなく綺麗だった。 「まだ持ってたんだな。」 セツナのネックレスを手に取るとポツリと独り言が漏れる。 セツナのネックレスを手に取った自身の手のひらに十字傷があるのを見ると、3年前の事を思い出す。 またやってしまった。 罪悪感と背徳感をいつものように背負う。 背負いすぎて、辛さや後ろめたさには鈍感になっていた。 「レイ....。」 と寝言で呟くセツナの頬を撫でる。 幸せな時間ほど苦しいものはない。 明日セツナはどんな反応をするんだろう。 セツナが忘れたいと思うのだったら、またなかったことにしよう。 風邪をひかないように布団をセツナの身体にかけると、1人で昔を思い出していた。

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