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お邪魔します

大木に「付き合おう」と告げてからというもの、休みの日になると体を繋げるようになった。 特定の相手を作るより、マッチングアプリで一晩2、3万円で相手を募る方がよほど金になるが、少なくとも損はしないし、大木はどちらかと言えば苦手なタイプだが、慕われて悪い気はしなかった。 もっとも、番は欲しくないし、結婚もしたくないという気持ちは変わらない。 軽井沢か別のオメガに心移りさせる方法は、まだ考え中といったところだった。 「あの、良かったらでいいんですけど…俺、円さんの家に行きたいです!」 付き合ってから2ヶ月経った頃合いに、大木からそんなことを言われた。 「どうして?うち、何も無いよ?」 「だって、付き合ってからずっと俺の家にしか行ってないし……」 言われてみればそうだった。 最初に事に及んだのが大木の部屋だったこともあって、大木の部屋で交わることが習慣と化していた。 「たまには、その、違うところ行きたいなーって…」 大木の意見はもっともだが、円は自分の家に他人を入れるのに抵抗があった。 大木の家は比較的最近建てられたマンションで、広さは9畳あり、風呂もトイレもキッチンも設備が新しい。 防音だってしっかりしているから、快感に乱れて声を出しても、何ら問題はない。 一方、円の家は駅から徒歩15分、家賃4万円、築年数は40年ほどの古びたアパートで、風呂とトイレはユニットバス。 住居の壁が薄いため、隣人の足音や笑い声、トイレを流す音までもが響いてくるのが常だった。 そんな場所で事に及んで声を出せば、どんな苦情を食らうかわかったものではない。 しかし、大木が期待を込めた眼差しで懇願してくるので、止むを得ず承諾した。 あの目に見つめられると、どうにも邪険にできない。 結局、次の休みの日の13時に約束を取りつける形となった。 「どうぞ上がって。狭いし、散らかってるけど…」 13時、約束通りに大木が円の家にやってきた。 「お邪魔します」 大木が頭を下げてドアをくぐる。 大木を招き入れると、円は改めて自分の部屋を眺めた。 大木の部屋とは比べ物にならないくらいに、狭くて殺風景で何も無い部屋だ。 6畳一間のワンルーム。 室内には簡易ベッド、折り畳み式のローテーブル、ビニールロッカー、15インチ程度のテレビしかなく、全体的にがらんとしている。 家具や家電は大半が使い古しの安物なのに、部屋の隅に置かれている冷蔵庫は天井に付きそうなくらいに大きいのが、なんともアンバランスだ。 インテリアだとか、部屋の中というのはその人の性格がよく出るという。 ──狭くて空っぽで、そのくせバランス悪くて、ボクと一緒だ 「シンプルなカンジですね、ミニマリストってヤツですか?」 円が少しばかり暗い気持ちになったことなどまるで気づかない大木は、入るなり部屋中をキョロキョロ見回した。 「君の家と比べると狭いからね、あまり物を置かないようにしてるだけだよ。好きなところ座ってて。紅茶?コーヒー?」 円はキッチンの小さな食器棚からマグカップを取り出した。 「紅茶をお願いします。円さんって、倹約家ってカンジしますよね、服も靴もシンプルだし」 大木が体を縮こめるようにして、ローテーブルのそばに座った。 どうしたわけか、プラネタリウムでも見るみたいにウキウキした様子で天井や壁を見ている。 185センチの巨体でこの部屋にいるのは窮屈で仕方がないだろうに、よくもこんな楽しそうにできるものだな、と円は不思議に思った。 「まあね、僕は貯金する必要があるから。ていうか、もう貯金が趣味だね」 これを聞いて「つまらないヤツだな」と幻滅してくれないだろうか、と円は期待してみたが、大木はむしろ感心と尊敬とが入り混じった目で円を見てきた。 「すごいなあ。俺、ちょっと背伸びしていいところ住んだはいいけど、家賃かかるし、ついつい物買っちゃうから貯金ぜんぜん貯まらないんですよ」 「何買ってるの?」 円はテーブルに紅茶が入ったマグカップを置いた。 「マンガとかフィギュアとか、あと、バスケ観戦とかね、大会重なるとチケット代もバカにならないんですよ。あ、紅茶いただきます」 大木が出された紅茶を一口飲んだ。 「スポーツ好きなんだね。プロ入りとか考えなかったの?大木くん、背は高いし力もあるし、プロのアスリートの人ってアルファの人多いでしょ?」 円が大木の隣に座った。 改めて思うが、彼と2人だと部屋がますます狭く感じる。 「いやー、アルファで背が高いってだけで通用するほどプロの世界は甘くないですよ」 苦笑いしながら放った大木の言葉に、円はそれもそうか、とひとり納得した。 「今日はメガネじゃないんですね、コンタクトですか?」 「アレは伊達メガネ。僕は視力悪いわけじゃないんだよ」 むしろ視力は良い方で、伊達メガネもマスクと同様、顔に水滴が飛ばないようするための防具みたいなものだ。 「あのメガネ、オシャレだったんですね!」 どこの世界にあんな野暮ったい黒縁メガネをオシャレでつける人間がいるのか。 円は内心呆れたが、無邪気な大木の頭ではそういった発想しか浮かんでこないだろう。 「あの……貯金するのって、ひょっとして欲しいものとか、目標あるんですか?大学に行くとか……」 「……まあね。ねえ、もうヤろうよ。僕、ガマンできない」 体を擦り寄せて、大木の股を手のひらで優しく撫でると、ほんのり兆しはじめた。 「え、いきなり、こんな昼間から…」 大木は戸惑っていたが、まんざらでもない顔をしている。 「昼間だからヤるんだよ。ここの壁薄いから声聞こえるし。深夜に大声出してごらん?こんなことで大家さんや警察呼ばれて怒られるなんて恥ずかしいでしょ」 「いや、昼間でも聞こえたら恥ずかしいかと…」 「……ジッとしててね」 大木の反論を無視して男根を舌先で可愛がると、大木が「んっ」と唸った。 唾液を絡ませて、じゅっ、じゅっと優しく吸い付き、根元まで口内に押し込んでいく。 そうして頭を前後に動かしていくと、男根が膨張するのを口内で感じ取った。 「あっ、まどかさッ…でるっ、でますっ!」 大木が円の頭に触れて、軽く抗議してきた。 ちゅぱっと音を立てて男根を口から引き抜くと、唇についた唾液を指で拭う。 「もうしっかり勃ったよね?ねえ、早く…」 円はベッドに上がって四つん這いになり、大木に向かって尻を上げた。 腰の奥が疼き、脳の奥底から「早くシて」と懇願している。 「円さんったら…あまり煽らないでくださいよ!」 用意周到なもので、わざわざポケットに避妊具を入れていたらしい。 男根に避妊具をつけるやいなや、一気に挿入された。 「ああっ!んっ、んんっ…ふっ、あっ、ああー、いいッ、きもちいいっ」 何度経験しても、この快感には抗えない。 胎内を抉られ、蹂躙されると、瞬く間に理性が飛ぶ。 「まどかさん、おれ、もう、だめですっ」 大木の言うとおり、本当に余裕の無い顔をしている。 円も絶頂が近い。 「うんっ、だしてっ、たくさんだしてえ!」 お互いの体を確かめ合うように快感を分かち合って、2人は果てた。 「あの、今度は外で会いませんか?」 事が終わった後、狭い簡易ベッドに2人で寝転がっていると、大木がそんなことを言い出した。 「え?野外プレイ?虫に刺されそうだから嫌」 円は額についた汗を拭った 「そうじゃなくて!映画とか、買い物とか行きません?ずっとセックスしかしてないし…」 「別に良くない?」 「良くないです!俺、デートしたいです!!」 大木がギュッ思い切りと抱きついてきた。 若い勢いに根負けして、結局、外で会う約束を取りつけられてしまった。 ──最近ずっと、この子のペースだな…… 円はため息を吐いた。

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