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彼の言い訳

僕は、話をしようと、いったん接続部分を抜く。 「あー、あん」 彼が惜しそうな声で喘ぐ。 エロい! けしからん! 「彼氏なんていないけど。っていうかあなたが彼氏なんだけど」 僕は、何か誤解しているらしき彼に説明する。 「え? 俺たちってつきあってたの?」 え?  何言ってるの? 「え、あなたって付き合ってないのに、こういうことする人だったの?」 「いや、だからマズイって言ってるんだ」 「だって僕たち先週」 僕は言いかかる。 こうなったのは、お互い好きだからで、気持ちが通じ合って、付き合うことになったんじゃなかったの? 彼は僕の言葉を遮って言う。 「それは酒の勢いだから。悪かった。一夜限りの過ちと思って許せ」 え? ちょっと何言ってるかわかんないんですけど。 「なのに、おまえが何度もLINEよこして蒸し返すからさ。せっかく忘れようと思ってたのに」 忘れようって。何で? 「え、え……え」 ブワーっと僕の目頭に涙が膨れ上がる。 「ちょっと待った。泣くな。泣くなよ。俺、泣かれるの苦手なんだ」 ああ、そうでしょうよ。 あなたみたいな男前は、そうやって、散々、泣かせてるんでしょう。 そして僕みたいなのを量産してるんだ。 そうだね。僕がバカでした。 僕なんかがあなたと付き合えるわけないのに。 たった一夜を共にしただけで、夢見てしまいました。 あれは、あなたにとっては、よくあるアバンチュールで、僕は遊ばれただけですね。 ああ、それなら僕だって、遊んでやったと思えばいい。 無理。 できない。 今週一週間、いや、あなたに会ってからずっと。過酷な職場を耐えてこれたのは、あなたがいてくれたからなんです。 今は違う部署だけど。 あなたのことは、ずっと忘れてない。 右も左もわからなかった僕に、優しくしてくれたあなたのことを。

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