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媚薬

「ほなまた来週な〜」 「おう」 恒例のお茶会が終わり篠崎邸を後にする。今日も篠崎は可愛かったな、と脳内で反芻しながら帰路についた。 (そういえばお茶菓子や紅茶…また篠崎に貰ってばかりだな。次は俺も買っていこう) 週が過ぎて金曜日。仕事終わりに漢三は店に来た。いきつけのこの店は篠崎とのお茶会仲間である越後明臣の経営する商店である。 「あ、漢三。久しぶりだね」 ふわふわの薄桃の髪にいかついピアス。しかし優しそうな顔立ちの青年が声をかけた。 「おう、明臣」 「何か探し物?」 「ん。明日篠崎と茶会だからなんか買ってこうかと思って。なんかいいもんあるか?」 「んー…もしかして明日って二人きり?」 「え、あ、うん。そうだけど」 「やっぱり。漢三ちょっとうれしそうだもん」 「…なんでわかるんだよ」 「ふふ、兎の勘。」 越後明臣は兎の妖である。過去、獣の時代に篠崎が庇った兎が明臣であった。 「二人っきりってことは、夜も一緒なんだよね?」 実はお茶会仲間の間では漢三と篠崎の体の関係は割れている。篠崎が口を滑らせてバレたのだ。否定出来ないほどに取り乱した篠崎を見て、仕方ないなと漢三から話したのである。 「ああ、まぁ…」 「じゃあちょうどいいね。今日入ってきたばっかりなんだ」 ちょっときて、と先を歩く明臣についていくと、成年向けの棚に来た。 「おいおい」 いくらなんでも露骨すぎねえか。 「大丈夫、絶対気に入るから。」 そう言って明臣が手に取ったのは小瓶に入った茶葉。 「…紅茶?」 「うん。ただのお茶じゃないよ。あのね…」 こいこい、と手招きされて顔を近づける。そっと耳打ちされた。 「媚薬入りなの」 「…!」 ふふ、と微笑んで明臣は言う。 「僕も試したんだけどね、効果は…えへ、恥ずかしくて言えないかな」 「………いくらだ?」 「漢三だからなぁ。ちょっと安くしとくよ。買う?」 「…買う」 「まいどあり」 にこっと微笑んだ明臣と握手した。 お茶会当日。がさり、紙袋を揺らして漢三は菓子屋へと向かった。 篠崎の行きつけである龍堂茶屋の暖簾をくぐる。 「あ!漢三さんやぁ!」 「よぉ龍進」 「そーたん最近ウチ来てくれんくて寂しかったんよねえ」 「そうなのか?」 「うん、やから漢三さんが来てくれて嬉しいわぁ!」 「そうか」 会えたのを喜んでもらえると嬉しい。 「今日はそーたん一緒やないん?」 「ああ、これからあいつん家行くところだ」 「えー!俺呼ばれてない!」 「はは、悪いな」 「ねー!源兄!今日そーたんと漢三さんお茶するんやって!」 龍進は店の端で絵を描いていた兄を呼んだ。 「うるさいなぁ、そんな大きな声出さんと聞こえとるよ」 カンカン帽を被った猫目の兄弟が隣に並ぶと、まったくの瓜二つで判断するには耳飾りしか違いがない。 「はは。龍源今回の絵はどうだ?進んでるか?」 「ん、ぼちぼちね!今回のは頼まれごとの仕事やから腕がなるわぁ」 「ね〜源兄〜俺もそーたんとお茶したぁい」 「龍進、俺も呼ばれてないんだから多分明臣も呼ばれとらんよ。今回は遠慮しな」 「む〜…」 「悪いな…」 「いや、ええんよ、漢三さんとそーたんの仲なんやから」 「ん?漢三さん、なぁにその紙袋」 「あ…あー。お茶」 「またまたぁ!いかがわしい物ちゃうん?」 「…」 「あれ、ホント?」 「…あー…まぁ」 龍進と龍源は顔を見合わせてニタリと笑った。 「「マタタビ入りのやつ、いる?」」 「いや狐にマタタビは効かねぇだろ…」 お前たち二人は猫だから効くかもしんねぇけど…と答える。 「あは、冗談!俺特製のお饅頭用意したげるから待っとってな!」 「龍進、さっき上がったのがあるからそれにしなよ」 きゃっきゃと二人は菓子を箱に詰める。出来立てのものは熱が籠らないように紙袋に入れ、口を開けて渡してくれた。 「おいおい、こんなに買うつもりじゃ…」 「いいから!久しぶりに来てくれたんやしオマケやオマケ!この紙袋分だけの支払いでええよ」 「悪いな…」 「気にせんでよ。龍進の金から引いとくから」 「えー!?」 あはは、と三人で笑って、礼を言って店を去った。 両手の荷物を片手に寄せて、空いた手でドアノッカーを叩く。 コンコンと音が鳴り、それを聞きつけた篠崎がガチャリと扉を開けた。 「漢三!早かった…なにその荷物」 「はは。中入れてくれ」 「なになに!?何買うてきてん!」 タタっと走ってテーブルを片付けた篠崎について行き荷物をそこに載せる。 「なにこれ!開けてええ?」 わくわくが抑えきれない篠崎が微笑ましくて、いいよ、と一言答えて見守った。 「わー!!龍進とこの菓子やぁ!饅頭に練り切り?わ!ポン菓子まで入っとる!」 きゃー!と喜ぶ篠崎が可愛い。 「あっこっちは紅茶や!なんの茶や…?」 かぱ、と開けてスンスンと嗅ぐ篠崎から瓶をそっと奪う。 「これは後でのお楽しみだから。」 「?」 「それよりお前の茶が飲みたい。ほら、饅頭が冷めちまう」 「うん!」 意気揚々と篠崎が沸かしかけの湯をまた火にかけ、湯呑みを湯煎する。 「ちょっと火ィ見といて!」 そう言ってトントンと階段を駆け上がり、しばらくしてコレクションの中から煎茶の茶葉を持って帰ってきた。 「ふふふ、龍進とこの饅頭にはコレが一番よく合うんや」 階段から降り、小走りでコンロへ。グツグツ煮える火を止めて、ピィと吹いたヤカンの熱湯を熱々になった湯入れに移し変える。 その間に漢三は饅頭以外の菓子をいつもの位置に仕舞った。 「饅頭持って先上がっとって〜ウチもすぐ行くから」 「わかった」 階段を上がる漢三を見送って、茶を淹れる準備をした。カタカタと盆に載せて階段を登る。 両手が塞がっているから部屋の前で声をかけた。 「かんぞー!開けてー!」 「はいはい」 ガチャリ、扉が開くと漢三が窓を開けておいてくれたらしい。ふわ、と春の風が差し込んで心地がいい。 そしてお茶会が始まった。 「龍進も龍源もお前に会いたがってたぞ」 「最近行けとらんかったからのぉ…ウチも会いたいわぁ」 「ポン菓子と練り切りはオマケしてくれたんだぞ」 「えっそんなに!?こりゃあ近いうち行かんとなあ」 「そうだな。…やっぱ美味いな、これ」 「うん!」 話していれば時は早く過ぎる。夕食時になったが、結局練り切りまでだらだらと食べてしまってあまりお腹は空かなかった。 「ん、おかわりなくなってしもた」 冷め切ったお茶を飲み干すと篠崎がそう呟いた。 「あ、今度は俺淹れてこようか」 「うん、お願いしてええ?」 立ち上がった漢三に篠崎が声をかけた。 「あ!あのお茶飲みたい!買うてきてくれたやつ!」 「あ、ああ」 すっかり忘れていた。 明臣に教えてもらったとおりに湯を沸かし茶葉に注ぎそして蒸らした。温かい湯気が鼻をくすぐる。 すん、と嗅いで、その香りにくらりときた。 (うわ…すご…っ) 甘ったるい香りに乗って少し薬の匂いがする。 「これバレないかな…」 とりあえず蓋をして部屋に持って行った。 「おかえり漢三」 机に茶器を並べて腰掛けると、ニコッと篠崎が両手で頬杖をついてこちらを見る。 「ただいま」 目を細めて微笑んだ。 「ね、なんの茶葉なん?これ」 ティーカップに注いでやると篠崎が聞いてくる。 「あー…分からん。明臣なら知ってるかも」 「あ、明臣んとこで買うてきたん?」 「うん。はい、どうぞ」 「ありがとー」 くんくん、と嗅いで頭にはてなマークを浮かべる。なんの茶葉やろ?嗅いだことないなあ ごくり、一口飲んでみた。 「ん!…美味い……」 「あ、そう?」 「渋みも少なくて口当たりも良くて甘いな、独特の甘さやけどウチはこれ好きやわぁ!」 「それはよかった」 そう言って自分も口をつける。こくりと飲むと、むわりと甘い匂いに包まれた。 篠崎は紅茶をゆっくりと味わっている。どのくらいの効き目なんだろうか。まあ言えないくらいってんだから相当らしいけど…。 カタリ、最後の一杯が無くなった。 「はー…美味しかったぁ!ありがとぉな漢三、今度またこの紅茶買おうかや」 瓶を手に取り鼻歌を歌う篠崎。瓶にはどこの国の言葉か分からない文字が並んでいて読めない。 「この瓶もろうてええ?」 「ああ、いいよ」 (結構時間は経つが効いてくる気配は全く無し…まあ効かないこともあるか…) 「漢三、片付けたら銭湯いかへん?」 「ん、ああ」 着替えは持ってきている。はなから泊まるつもりだったから。まあ、持ってきてなくてもいつだったかに忘れて帰ったものがあるからそれでもいいのだけど。 「いつ見ても可愛らしい煙突やなあ」 熱い煙の立ち登る小さな煙突を見上げる。 そうだな、と返事をして暖簾をくぐった。 ザバ、と湯を浴びる。隣で篠崎が長い髪をまとめあげていた。 「長いと大変そうだな、髪」 「ん〜まぁね。洗う時なんか時間かかって寒いくらいや」 「なんで伸ばしてんだ?」 「ん?似合うから」 「…そうかい」 よくわかってるじゃねえか…!と心の中で拳を握った。 鼻歌を歌いながら体を洗う篠崎が、漢三、と呼んだ。 「ん?」 「背中洗って〜」 「子どもかよ」 泡立てた手拭いを貰って背中を泡で撫でる。 「…おまえの刺青、綺麗だよな」 「ん?せやろ。ウチが描いたのを元に彫ってもらってんよ」 「狐の尾が…八本に蓮の花と鳥居…神様にでもなるつもりかよ」 「ふふ、どうやろねえ」 はい、と手拭いを返して自分の体を洗い始める。ありがと、と受け取った篠崎はそれを濯いで泡を流した。 ざぶりと湯に浸かると周りの男から篠崎が珍しそうに見られている。多分ピアスと刺青のせいだろう。青みがかる髪はまとめられて手拭いの中に収まっているから違うと思う。 じろじろと見られているのを篠崎は気にしていないようだったが、俺は気にするので見てくる奴全員にガンを飛ばしてやった。 「そろそろ出よか」 「ああ」 湯から出て着替え、まだ肌寒い夜の道を歩いて帰った。 「準備してくるから先部屋いっとって」 「わかった」 篠崎の家には部屋は沢山あれど客用の布団がない。めんどくさいし、どうせ一緒に寝るからと買っていないらしい。 いつも通りに篠崎の自室に入って扉を閉めた。…途端にがくッと膝が崩れてしゃがみ込む。 「ッ!?」 バクバクと心臓がうるさい。衣ずれでさえ肌が敏感に感じ取って腰にきた。 今更効いてきたか…!と理解した。動けずにじっと耐えていると後ろでドアが開いた。 「漢三!?どしたん!」 ぱ、と篠崎がしゃがんで肩を掴む。 「…は…ッ篠崎…ッ」 ぶる、と腰を震わせる。もうそれはガチガチに勃っていてはちきれそうだ。震える手で篠崎の肩を抱いて、欲望に任せてキスをした。 「…んッ…ん、ふ…ッ……ッひぅ!」 篠崎の腰が砕ける。 「ぁ…!な、なんやこれ…ッ♡」 「篠崎、篠崎…ッ」 とろ、とした漢三が抱きしめて唇を合わせるから身を任せて身体を震わせた。 すぐ側にベッドがあるのにそこに行くのすらも億劫だ。動けない身体を無理やり引きずって篠崎に覆い被さった。 「痛ッ」 ごつんと頭を打ち付ける。目を開けると牙の生えた漢三が興奮した顔で目の前にいた。 「…ッ」 雄の顔にゾクゾクと背筋が震える。 「篠崎…」 くぱ、と漢三が口を開いた。 (あ…またや) 漢三は理性が飛ぶといつも首筋を噛む。牙が沈む程に深く力をかけられて、もう何度も血を流した。行為中といえど痛くって敵わない。 そしてそれは今日もいつも通り、らしい。 ガブッ 「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」 痛みが快楽に変換されて、どくんと下で熱が弾けた。 (えっ嘘…っ) 白濁が腹に飛んでいた。 漢三はそんなこと気づかずに牙を抜いて血を飲み始める。 じゅ、じゅる…っと啜られるたび、舌で血を舐められるたびに快感に脳を支配された。 「あ…ッ♡…っ、ん…ッ♡…は、ぁ…!♡」 あう、うぁ♡とビクビク体を震わせる。一度イったのにそこはまだ元気で、漢三が腰を押しつけてくるから腹の間でぬちゅぬちゅと擦り合わされた。 「や、ぁッ♡……っ、ぅ……んあぁッ♡♡」 がく、と膝が震えてまたどぷっと白濁が飛ぶ。 は、は、と息を詰めてなんで…?と思考した。 「し、のざき…ッ♡」 漢三がガチガチになったそれで穴を押し開いた。 「へ!?や、いややっまだほぐしてな…ッんぁ!」 ずぷん!と一気に突き上げられた。 「あぁあうッ!♡」 「〜〜〜〜ッ!!」 中に熱いものが弾けた。 (い、挿れただけでイったんか漢三…っ) そう理解するも中の棒は硬度を維持したままで。 「あ、ぅあッらめっ♡」 がつがつと腰を動かされて中が引き摺られる。 「ひぁあッんぁ♡ぅあッ♡あっ♡や、んッ♡」 「…ッ…ふ…ッ篠崎…ッ♡」 熱い。中が絡みついてきて離れない。ぎゅうぎゅうと締め付けられる。気持ちいい…ッ♡ 「く、ぁ…ッイ、イく、イくッ篠崎ッ」 篠崎の腰を持ち上げて覆い被さって押し付ける。 「んにゃ、やッ♡ッあ♡ふぁ♡だめぇッ♡あ、らめッ♡」 ゴリゴリゴリッと奥まで一気に擦り上げた。漢三と篠崎の獣耳と尻尾がピンと立つ。 「…くッ…♡」 「うあああッッやらぁああッッ!!♡♡♡」 膝も腰も大袈裟なほど震えて白濁が垂れる。前からも後ろからもどろりと垂れるそれは床を汚す。 それでもまだ薬は切れなくてひたすらに快楽を追い求めた。 「あ゛♡ん゛♡や、やっ♡ゔっう、ゔーーーっ♡ゔぅ♡」 下唇を噛み締めて思考を繋ぎ止める。いまにも馬鹿になりそうで、理性を保たなければと必死に思考の糸を紡ぐ。 (き、今日変なことあったかや…っ?なんで、こんな…ッ♡あ♡奥きもちぃっ♡…ちが、えっと、こんなん、なるなんて…ッなんかの…くすり…?) 思い当たった。 「か、んぞぉ…ッ♡あの、おちゃッあれ、あれの…せいやろ…ッ♡」 「…チッ」 バレたか、と表情に出てしまった。返事の代わりに腰を早める。 「や、やっぱりそうかや…!く、そ…ッ♡こ、んな、こんな…ッうそつき…ッ♡」 「でもっ気持ちいい、だろ…っ」 「きもち、けど…っ♡くそっ♡だま、された…っ♡ぅあ♡」 「悪かったよ…ッ」 「ッひぁああああっ!!!♡♡♡」 ごつん!と突き上げられて嬌声と白濁が出た。 「は…ッ篠崎…ッ、篠崎ッ♡」 ぐちゅぐちゅとまだ中を抉られていて篠崎は耐えられなかった。 「うあ♡き、もちぃいいっ♡おく、おくとんとんすゆのきもちぃいッ♡」 「気持ちいいか…ッよかったな…っ」 「か、んぞ♡んぁ♡んにゃっ♡かんぞーのっちんちん♡おっきぃ♡ふぁっ♡…きもちぃッ♡」 「かわいいな…っ篠崎…ッ」 「ふゃぁああ♡おぐ、おくぅ♡なか、なかごりごりってしてっうぁあ♡」 「お望み通り…ッ」 一気に中を擦り上げると篠崎の背中がガクンと反る。 「あ゛ーーーーーーーーーッッッッッッッ♡♡♡♡」 薄くなった白濁が陰茎を垂れた。 一晩中嬌声やらダミ声やら肌のぶつかる音が続いて、夜が明けた。 …やっと薬が切れたらしく、床に転がったままお互い荒くなった息を整える。 もう動けないくらい体力を使い果たして、結局ベッドまでたどり着けていなかった。 「…馬鹿」 篠崎がガラガラの掠れた声で漢三を責める。 「…ごめん」 「しぬかとおもった…」 「こんな効くとは…思わなかった…ごめん」 「もうおまんなんか知らん」 「ごめんって…」 「しらん」 ぷい、と背中を向けられてしまったが動けなくて、もだもだしているうちに二人とも床で寝てしまった。 目を覚まして痛い体を起き上がらせると、篠崎は何も言わずに扉を指差してそれだけ。結局家を出るまで一言も口を聞いてくれなかった。

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