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愛して

チン、とお猪口が音を立てる。乾杯、と口に出してぐいっと煽った。 今日は久しぶりに二人だけの晩酌。食卓にはたこわさや昆布巻、だし巻き卵などのおつまみが少量ずつ並ぶ。手のかかるものは大体漢三が作った手料理である。 「どうだ?」 ぱくりと大口を開けて食べた篠崎に問いかける。 「んまい!」 にこっと満面の笑みを見せる篠崎が可愛くて、ヴッと小さな声を上げて漢三は胸を鷲掴んで俯いた。 篠崎はそんなことお構いなしに、あれこれと手を出してはあれも美味いこれも美味いと褒めちぎる。 二人で食べきるのに丁度いい量のおつまみが底をつき、酒もいい具合に回ったころ。 「は〜…ほんに漢三の作る料理はんまいのぉ〜!」 「それはよござんした」 へへ、と少し恥ずかしそうに目を細める漢三に、篠崎は小包を取り出した。 「ほな最後にコレ、食べよか?」 「なんだそれ」 「明臣んとこで買うてきてん!最中!」 「明臣んとこで…?確かにあの店はなんでも揃ってるが…最中なら龍進の菓子屋にもあるだろ」 「なんや新商品やって言うからさ、買うてみてんよ」 一緒に食べよ?食後の菓子や。と微笑まれては、じゃあ頂くか、と漢三は茶を沸かしに席を立った。 「おまたせ」 急須を片手に戻ってきた漢三が篠崎の隣に座り湯呑みに茶を注ぐ。ふわ、と温かな湯気がたつ。 すん、と鼻を鳴らして篠崎は、「前田屋の煎茶?」と聞いた。 「よくわかったな。ウチの会社のお得意さんからの手土産だよ。もらったんだ。」 「ふふ、伊達に何年も茶葉集めしとらんよ」 得意げに片目を瞑って見せた篠崎に微笑ましい気持ちになる。気がつくと顔が緩んでいたらしい。そっと頬に手を当てて微笑まれた。 「幸せそうやね、漢三」 「…ああ、お前のおかげでな」 そのまま篠崎の唇に口づけて離す。にこりと優しく笑った篠崎が可愛らしい最中を机に並べて 「こっちが漢三、こっちがウチのな?」 と指差して示した。 はいはい、と呆れて笑いながら手を合わせて「いただきます」と唱えた。 そこから先は覚えていない。気がつくと俺は布団の上に転がされていて、服を脱いだ篠崎が俺の身体に舌を這わせていた。 「ちょ、えっ、ぁ、えっ?篠崎?!」 「んぁ…なんや、もう気ぃついたん?」 「な、なんだよこれ、おま…ヤりたいならそういえば抱いてやるのに!」 「今日はちょっとやりたいことがあったんよ…付き合うてや」 うるうる、と上目遣いで見つめられては勝てない。 「ぅ…ええけど…」 そう答えると篠崎はいたずらっぽくありがと、と笑ってまた俺の体に舌をつける。 ぴちゃ…ぺろ、とわざとらしく音を立てて首やら胸やら手や指まで舐められ、ゾクゾクと興奮が募る。 舐めてほしくて、勃ったそれをぴくりと動かすと、篠崎は「欲しいん…?」とやらしく笑った。 「……ああ」 ふう、と息を吐き出し乞うと、篠崎はそっと舌を触れさせた。 「ふ、ぅ…っ、く、……はぁっ」 びく、と腰が跳ねる。おかしい、いつもならこんなに感じないのに…っ 「ぅあ、はあ…っあ、く……ぅッ…!」 どくん、と篠崎の口の中で射精してしまった。 は、はっと息を整える。イッたばかりなのにまた勃っているそれを見て、もしかして、と思った。 「篠崎…」 「んー?」 口に精液を含んだままの篠崎が、座っている俺を見上げる。こく、と飲み干して、なに?と顔を向けてきた。 くそ、かわいい。ああそうじゃなくて…えーっと……なんだっけ 思考がなんだかまとまらなくてぽかんと口を開けたまま黙っていると、 「ふふ、明臣の言ってた通りやなぁ…これならもう少しで…んふふ」 そう言って、ちゅ、と唇にキスされた。 「…苦」 「おまんのはいつも苦いよ」 もう一度唇を合わされる。もう苦いとかどうでもよくなって篠崎の頭を掻き抱いて布団に倒れてキスをした。 ちゅ、ちゅく、と舌を絡める。はあ、はっと息が切れて、熱い吐息が絡んでは唇が合わせられた。 「ぁ、ん…漢三…」 「は、はっ篠崎、篠崎…♡」 とろ、とした顔の漢三が目に涙を溜めて篠崎の名を呼ぶ。 「ん、なに、漢三」 「ぁ…なんか…盛った、だろ…♡」 「んふ、そうやよ。こないだの仕返しや」 にやぁ、と笑った篠崎の唇をまた奪ってぐちゃぐちゃにする。 「ぁ、は、俺、おれ、抑えられねぇぞ、いいのかよ」 「ええよ、気の済むまでやってや?」 する、と竿を撫でられてぷつりと理性が切れた。 「あ゛♡は…ぁ゛っ♡んぁ!あ、は、あ゛あ゛〜ッ!!♡」 びくびく、と篠崎が身体を浮かす。 両手で敷布団を握りしめ、びく、びくっと突かれるたびに身体を跳ねさせるその姿にまた興奮して息も掘り方も荒くなる。 「はぁ、はっ…!」 ごく、と溜まった唾液を嚥下してまたがつりと突く。 「ふぁあ♡」 あん、あぁ、んあ♡と女のように高い声で喘ぐ篠崎が可愛くて、堪らなくエロくて、興奮しておさまらない。 「は、ぁ…っ♡…し、しのざき…ッ♡」 気持ちいい、かわいい、きもちいい、頭がそれだけに支配されてなにも考えられない。 がぼっと大きな音と、篠崎の絶叫が聞こえた気がしたが、もう訳が分からなくてただ快楽を追った。 「ひ、ぁ…っ♡…はひ、ひっ♡」 側位のまま疲れた腰をまだゆるゆると動かすと、泣きじゃくる篠崎が身体を捻ってこちらを見る。 イきすぎて辛いのだろう、苦しそうに歪められた顔で、でも気持ちよさそうに、どこか嬉しそうな篠崎が愛しくて、そのまま近寄って舌を絡めた。 「んん、ふ…んっ♡ふぁ♡、ん、はぁ♡」 「ん…っ…はぁ…篠崎…♡」 ずず、と鼻をすすった篠崎がぽそりと言う。 「今日は…寂しくなくて済みそうや…」 それを聞き逃せなくて、怪訝な顔をした。 「…わるい…もっと愛してくれ…たのむ」 目を細めて懇願されて、考える。 …俺の愛じゃ、まだ足りないんだろうか。 瞳を静かに閉じて、ゴツッと奥まで突き上げた。 「きゅ、きゅう、きゅーっ」 「ぐるる、ぐる…」 はふはふと獣の口から荒い息が漏れる。狼に戻った漢三は篠崎の首に噛み付いて中を荒らし、狐に戻った篠崎は枕に歯を立て前足にぎゅ、と力を入れた。 体格差のせいで篠崎の腹はぽこりと漢三の陰茎の形に膨らみ、ごりゅごりゅと擦られるたび篠崎はがくがくと後ろ足を揺らした。 ばつばつばつッと奥まで突き上げられ、篠崎の後ろ足が浮く。 「きゃん!」 と鳴いて篠崎はぱたりと動かなくなった。 漢三は気づかず腰を打ち付け、篠崎の中に薄くなった精をぶちまけた。 ぺろ、ぺろ、と篠崎を労わるように漢三が毛繕いをする。呼吸する以外反応がなくなった篠崎は、すう、すう、と小さく息を吐き出して気を失っていた。 「好きだよ、篠崎。」 (俺じゃ、お前を満たせないんだろうか)

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