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秋の温泉宿

「んーーーまっ!なんやこれ!」 一口食べた篠崎が歓喜の声を上げた。 「大袈裟だな」 はは、と笑いながらお吸い物を啜る。 「ん!」 目を見開いた。 「な?な?うまかろ?」 「………うまい…」 魚からとったダシだろう。透き通った見た目に反せずするりと染み込む味わいに、深みのある甘ささえ感じる。具材の椎茸も噛めば芳醇な香りが広がって、良いものを使っているのだと分かる。 これは作り方を知りたいな。とお吸い物をじっくり味わっていると、篠崎は煮付けや鯛の塩焼きにまで手を出していて、どれもうまいと目を輝かせていた。 (かわいい) 思わず盗み見てしまってぱっと目を逸らす。 いかん。ここは食堂、他人の目も気にしなければ。 「漢三、ホンマありがとぉな?」 「ん、ああ」 「ウチも回したんやけど中々当たらんかったのによォ当てたわ!日頃の行いがええからかの?」 「さぁな」 漢三が当てたのは商店街のくじ引きの景品。お二人様旅のお宿へご招待券である。 まさか当たるはずもないとちり紙目当てに回したら一発で当ててしまい、これは篠崎を誘うしかないと喜び勇んで話を持ちかけたのが二週間前。 「はぁ〜…んっとにうま…これもうまい…すごいなこれ…」 「はは」 こり、とお漬物が音を立てる。こりこりと噛みしめれば熟成された旨味が広がりご飯を誘う。たまらず頬張って味わった。 「ごちそうさま」 二人して手を合わせて食卓にぺこりと礼をする。篠崎は爪楊枝を手に取り、口元を隠しながら奥歯に挟まった魚の骨を取った。 「ん、とれた」 「よかったな」 「うん。ほないこか」 席を立ち仲居さんに礼を言って部屋へ戻る。篠崎は今日一日移動と観光で疲れた体を畳に放り投げた。 「はぁ〜たまにはこういうのもええなあ!」 「そうだな」 篠崎の隣にあぐらをかいた漢三だったが、特にやることもなく、暇つぶしにと卓に置いてあった新聞を手に取り読み始めた。 しばらくゴロゴロとしていた篠崎が、くいと漢三の袖を引く。 「ん?どうした」 「せっかくやし温泉いかへん?ちと遠出してさ。」 それもいいなと承諾し、支度をして宿を出た。 「すっかり秋やねえ、ほれ見てみ?あの山なんぞ綺麗な色や」 「前見てみろ。もっとすごいぞ」 「う、わ…!」 登り坂に従って前へ進むと、曲がり角から先が紅葉の絨毯だった。 「すごい!すごいな漢三!」 走って行ってくるくると回って見せる篠崎を見て微笑む。なんて愛しいんだろうか。 ひらりと舞い落ちてきた紅い紅葉を一葉掴み、篠崎、と声をかける。 振り向いた篠崎の下された青みがかる長髪を耳にかけ、そこに紅葉を飾った。 「うん、似合う」 「…ふふ、ありがとぉな」 頬に手を添えられたので、そのまま顔を寄せてキスをした。 「やっっっと着いた………」 旅館のお爺さんに聞いた露天温泉にやっとの思いでたどり着いたが、あまりにも遠くてヘロヘロになってしまった。 「これ帰りもしんどいでぇ…」 「まあ来ちまったもんはしょうがねぇさ…」 着物を脱ぎそこいらに重ねられている籠へ入れる。ほったて小屋はあるものの、番台も他の客も誰もおらず、まさに無人温泉である。 「ここなら化けとらんでも良さそうやなあ!」 「狐にまで戻ると溺れるぞ」 「ん…そんならやめとこ」 手拭いで髪をまとめあげた篠崎がかけ湯をして湯に浸かる。 「ふ〜…」 ざば、と漢三もかけ湯して篠崎に続いた。そして縁の石にもたれて一言。 「…あ゛〜…」 「ぶは、オッサンかや」 「悪りぃかよ」 「いんや?」 ふふ、と微笑んだ篠崎に水面から月の光が反射する。きらきらと光る篠崎が美しくて、思わず見惚れた。 「何見てん?」 きょろ、と辺りを見回す篠崎の肩を抱き寄せた。くい、と顎に手を添え上をむかせる。 「お前。」 ちゅ、と唇を合わせた。 「あ、あかんてこんなとこで…ん…!」 一旦呼吸のために口を離し、そしてがぶりと唇に食らいつく。後頭部を固定して中を荒らせば篠崎は俺の背中に手を回して抱き寄せた。 はらりと手拭いが湯に落ちる。広がった髪が水面を這った。 「あ、ぁ…ん…!…ん、ん…っ」 唇を離し胸の飾りを弄る。びく、ぴく、と篠崎が腰を揺らすので、湯がちゃぷちゃぷと音を立てた。 「立って」 篠崎を抱き上げて立たせる。縁の石に座らせて胸に吸い付いた。 「ぅ、あ…っ」 ちゅう、と吸い上げて、ぽんと離せばびくりと体が震えて、篠崎の竿は更に上を向いた。 「…はは。気持ちいい?」 「…い、わせんといて…」 寒いのかぶるりと震えた篠崎の太腿をするりと撫でて、鼠蹊部まで撫であげる。 つつ、と指先だけで竿を辿ってやれば、それはびくりと跳ね上がった。 「ふ、はは…かわいい」 「ばか…」 唇が触れるだけのキスをして、竿に手を添える。優しく触った後、グッと握り込んでしごいた。 「…ぅあ…っ!」 前屈みになる篠崎の腰を抱えて支えつつ、それに口をつける。はぷ、と頬張ってじゅるじゅると強く啜ると、篠崎は声を上げて体を強張らせた。 「ああぁ…ッ!」 どくん、と出たどろどろの苦い液体をゴクリと飲み干す。息を荒げたままの篠崎は涙を溜めて漢三の頭をしばいた。 「イテ」 「う、ばか、ばか!誰か来たらどないすんねん!」 「大丈夫、誰か来たら匂いでわかる」 「そういう問題やなくてやな…!」 「でも気持ちよかったろ?」 「…否定は…せんけども…」 その後やっとの思いで帰った宿でも、二回目をやったとかやらないとか…。それは二人しか知らない。

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