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ピアス

「漢三、ちょっと待っとって」 「ん?おう」 二人だけのお茶会の最中、篠崎が席を立った。どうかしたのか?と待っていると、小さな紙袋を持って帰ってきた。 「これ、あげる」 「…え?」 今日なんかあったっけ?誕生日…?違うな…記念日か?いや…特に… 考え込んでいると篠崎が自分で紙袋を漁り始めた。 「はい、これがニードル。これがピアスな」 「ピアス?」 俺欲しいとか言ったっけ?穴あいてないし、あけるつもりもなかったんだけど…。 「そ、ウチとお揃いや」 「は?」 前言撤回。絶対つける。 「お揃いのピアス、気に入らんかったかや…?」 「いいやそんなことない!…嬉しいよ。よく見せてくれ」 手渡してくれたそれは一対のピアス。半分こしよう、という事らしい。小ぶりのものだが、菊結びの飾りが揺れている。 「菊結び…延命長寿の花じゃねえか。俺たちには関係ないだろ」 「願掛けってやつやよ。それにかわええやろ?」 「…ああ」 窓に翳すと根付け部分の石がきらりと光った。 「この玉は?お前のことだからなんか意味があるんだろ」 「ん〜?内緒」 「んだよ、俺にくれるっつったくせに教えてくれねえのか」 「ふふ、いつか気が向いたら教えたる」 「ふぅん…ってこれ、あん時の店か…!」 「うん、強盗入ってきた時の」 「選ぶのにすげぇ時間かかってんなと思ってたんだよ…そんなに真剣に悩んでくれたのか…?」 「んや?半分くらい店員のお姉ちゃんと喋っとった」 「…そんなこったろうと思ったよ…期待した俺が馬鹿だった…」 「…ね、今から開けへん?」 「あ、ピアスを…?」 「うん、どうや?」 「そ…うだな…開けるか」 篠崎が消毒液とガーゼを持ってくるのをニードルを弄びながら待った。 「こら、あんま触ると袋破けてしまうよ」 「あ、ごめん」 「はい。…自分で開ける?」 「あ…いや、ズレると嫌だしお前開けてくれるか?」 「ん、ええよ」 ほんじゃ、と篠崎が両手を消毒し、漢三の耳も消毒しにかかった。アルコールをたっぷり染み込ませたガーゼで耳たぶを拭いてやる。 もにもにと触ってやっていると、漢三が声を上げた。 「…おい…あんま触られると…その…」 「ん?」 漢三の顔を見ると赤くなっていた。そのまま下を見ると、どこがとは言わないが少々もっこりしている。 「ふ〜ん…こんなんでも感じてしまうんや…?」 ふぅ、と優しく息を吹きかけてやると漢三の体が少し震えた。 「…な、漢三…消毒だけでこんな感じるんやったら…穴開けたらどうなってしまうんやろなぁ?」 「言うな…!」 「でも気持ちええんは本当なんやろ?」 「ぅ…!」 つつつ、と耳の裏を辿ってやったり、耳の中をくすぐったりしてやる。…片耳だけじゃなく、両耳とも触ってやりはじめると漢三は声を漏らした。 「…っ、…く、ぅ…っ」 びく、びく、と肩が跳ねる。楽しくなって、右の耳たぶにしゃぶりついた。 チュッと音を立てると漢三が篠崎の腕にしがみつく。 「は…っだ、だめだって…」 「ん〜?何がダメなん?」 「変な気起こしちまうだろ」 「いっつも起こしとるくせに」 「それは…そうだけど…今からピアス開けるって時にお前……ぁっ!」 ちゅぅ、と耳の奥を吸ってやると漢三が前屈みになって抱きついてきた。 吐息が熱い。目が潤んでいる。うわー…いじめたい。ゴクリと生唾を飲んで、本格的に耳を触り出した。 右の耳は舌で転がして、左の耳は指で。 そっと触ったり、ときに噛んだり、舐めてやったりくすぐったり…漢三の反応が面白くてついついやりすぎてしまった。 「んっとにお前…覚えてろよ…」 「あは、ごめんごめん」 震えながらも我慢しすぎてぐったりした漢三に平謝りしながら右の耳を拭き、そして穴を開ける左の耳たぶを消毒しなおす。 「さ、じゃあ、開けるよ」 「ん」 篠崎がニードルを袋から出して、最初につけておいた耳たぶの印に当ててくる。 つん、つん、という指や舌とはまた違う感覚で胸がザワつく。 「刺すよ」 「ん」 つぷ、と皮の切れる音がして、熱がジンジンと左耳に集まる。篠崎がズレないようにとゆっくり進めてくれるから、じわじわと痛みが広がってゆく。ズズズ、と金属が体の中を通る感覚がなぜだか快感へと変わってしまうのを感じた。 (あ、やばい、これ…) 「そろそろ通るよ」 「あ、おぅ…っ!」 プツッと貫通したのと同時に、ビクッと体が跳ねて、イッてしまった。股間が生ぬるく濡れた感触がある。 「わ、大丈夫か?漢三」 篠崎は気づいていないらしい。よかった…。 「は、ぁ…ん、だ、大丈夫…っ」 「このままピアスつけるよ」 「ん…っああ」 決して長くはないニードルだが、短くもない。それを刺した挙句通しきってピアスをつけようってんだから、ニードルが通りきるまでの間はまたあの快感に苛まれることになる。 ゆっくりと進む金属の棒が体の中を通る異物感。どうしようもなく焦ったくて、左耳に意識が集中してしまう。 「よし、そろそろ外れるよ」 「ぅ、ん…っ」 ぶるりと腰を震わせる。 カチャリと金属音がして、篠崎の手が離れていった。 「はいできた。これからちゃんと消毒してな?飾りの部分は外せるようになっとるから風呂とか入る時気になるようなら外しゃぁね」 「…ぁ、ああ…安定するまでどのくらいだ?」 「三ヶ月〜半年くらいかの?たまにもっと長い時もあるけども」 「そ、か」 「ほんまに大丈夫か?漢三、さっきからなんかおかしいんやけど」 「あ…だ、大丈夫。厠借りれるか?」 「え、うん。いいけども…」 椅子から立ち上がろうとしたら、思いの外力が入らずにかくりと膝を折ってしまった。 「へ?漢三?」 「あ、うん、大丈夫、大丈夫」 「あ…」 篠崎が股間あたりを見ている。しまった… 「漢三…?漏らしたん…?」 「違っ…!」 「え、じゃあそのシミ…は…えっ…?」 「…その…えーと…まあ…」 「え、いつ?そんなとこあったか?」 「…」 「…もしかしてあん時か…?」 篠崎が俺に合わせてしゃがみ込んで覗いてきた。完全にバレてる。 「黙っとるって事はニードルが通った時やな?」 「…」 ふい、と顔を逸らして眉を顰める。顔が火照って熱い… 「あは…真っ赤。恥ずかしがるなや、ウチとおまんの仲やろ?」 「…っ…そうだよ…」 仕方なく白状すると篠崎がにんまりと笑った。 「もっかいイかせたろか?」 「い、いいよ…いらねぇ」 「そんな事言わんと♡」 篠崎がグイと馬乗りになって押し倒して来た。するりと頬から顎を撫でられてしまう。 「左耳はお預けな?」 そう言って篠崎の指が右耳を這う。すりすり♡と撫でられると先程イッたばかりだからかすぐに気持ちよくなってしまった。 「ん…ッ」 ぎゅっと目を閉じて息を吐く。篠崎が更に上に乗って来て、力をかけられ、頬に髪が当たる。すぐに吐息が当たって、そして舌が耳に触れた。 熱い舌でちろちろと舐められる。逃げようと顔を背けると、篠崎の手にがっちりと閉じ込められてしまった。 「は、ぁ…っ」 ちゅっ、ちゅ、と音を鳴らしてキスをされて、びくりと身体が震える。気を良くしたのか、篠崎の指が頭皮にまで伸びた。 「あ!…く、ぅ…っ」 するり、軽く撫でるように指が滑る。括っていた髪を簡単に解かれて、熱がこもった髪の中に篠崎の手が入ってきて掻き回す。 「は…っ…ん、う…っ!」 我慢する声が段々大きくなる。どうしようもなくて、篠崎の袖をぎゅっと握って耐えた。 「はは…!たのし…っ」 篠崎が笑う。顔を見せられなくて背けていたのに、篠崎の手によってぐいっとそちらを向かされてしまった。 「うっわ…とろとろやん…」 はぁ、と潤んだ目で眉をハの字に下げて口で呼吸する漢三はいつもの雄々しさが半減していて、ちょっとかわいい。 「…も、やめろよ…」 「ん〜どぉしよっかな〜」 「着物気持ち悪いんだよ、退いてくれ」 「ほぉん…なら脱がせてやらんとなぁ?」 「あ、こら!」 ぐい!と漢三の帯を前に回して簡単に解く。やめろと邪魔してくる漢三の手を片手で制しながらグイグイと引っ張れば、帯が緩んで着物がはだけた。 「くそっ」 「んふふ…そう言いながらちゃんと勃っとるやん。期待してんとちゃうの?」 「ぐ…っ」 「図星やな♡」 勃ち上がった竿に手を添えて扱く。ドロドロの精液が絡んでヌチヌチと音を立てた。 「エッロ…」 つぶやいて漢三の顔を見ると両腕で顔を隠している。いつもなら優位に立って篠崎が触っているところを見ているくせに、今はそれどころではないらしい。 クチュクチュッ 「ン、ぁっ」 亀頭を重点的に攻めてやればビク、と漢三の身体が跳ねる。 「ふふ」 笑みを溢して、勃ち上がっているそこに舌をつけた。 「ッ…!」 漢三の膝が震えるのを放置して、竿に纏わりついている精液を舐めとる。 (ん、苦…) 栗の花の匂いと舌に乗る苦さに顔を顰めつつ、上から下まで綺麗に舐めた。 ごく、と全部飲み下して漢三の顔を見ると、余裕が出てきたのか腕の隙間からこちらを見ている。 「んー?何見てんの」 「いや…」 「もっと舐めて欲しい?」 そう言って篠崎がニタリと笑うと、漢三は首を振って起き上がる。 そのまま篠崎を押し倒して真剣な顔で言った。 「…俺が抱く」 「はえ…?」 きょと、とした篠崎の顎に手を添えて唇をつける。戸惑いながらも、ん、と素直に受け入れた篠崎の口内を舌で優しく撫でた。 口蓋を舌先でそっとなぞると篠崎がぴくりと震える。柔らかな舌を押したり絡めたりして相手の形を確かめながらキスを深めれば、篠崎が力を抜いて身体を預けてくれた。 「…は…っぁ、ん…かんぞ…っ」 はぁ、と荒くなった息で篠崎が呼ぶ。さっきまで押せ押せと来ていたくせに攻められたらすぐ落ちてしまうのだから本当にこいつは御し易い。…こうやって他の奴にも蕩けた顔見せてるんだろうな、と思うと嫉妬の炎が燃えた。 「…なぁ篠崎」 「ん…?」 とろ、とした目で漢三の目を見た。 「今だけでいいから、俺のことだけ考えててくれよな」 少し悲しそうな顔で漢三が笑った。 「…え」 グイ、と篠崎の後頭部に手を添えて抱き寄せ、また唇を落とす。さっきより激しく、他のことを考えられないように。 そのまま服を乱暴に脱がせて、首筋と胸元も愛撫した。 …ゴロゴロ、と外が鳴る。いつのまにか暗くなった雲が街を覆い、桶でもひっくり返したようにザァザァと雨が降り出した。 そんな中、部屋の明かりもつけず、二人の男がまぐわう。 荒い息を吐いて切れて、必死に吸っては切らした。 時折耐え切れないように喘ぎ声が聞こえては、肉同士がぶつかる音が響く。 喘ぎ声の中、もうだめ、無理、と懇願するようになってきても音は止まず、体勢を変えてはまた中を抉る。 そのうち声が苦しそうになって、引き攣った呼吸が聞こえて… そして突然、ぷつりと糸が切れたように篠崎は動かなくなり、漢三は彼を抱きしめて腰を震わせた。 「…はァ…っ」 肩で息をしながら、気絶した篠崎の身なりを整えてやる。 額に張り付いた髪を退け、吹き出した汗を手ぬぐいで拭い、そして吐き出した熱を雑に拭き取った。 覆い被さったまま、篠崎をじっと見つめる。 ああ、愛しいなぁ。と思った。永遠に俺だけのものになればいいのに。ずっと、一緒にいられたら。離れていってほしくない。…叶うなら…お前もそう思ってくれたらいいのに。 考えていたら泣けてきた。期待してしまった心を押さえつけながら、グズ、と鼻を啜って篠崎の頬を撫でる。顔を寄せて唇を合わせたら、こらえきれなかった涙がぼろりと頬に落ちた。

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