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prologue †…dream(1)
†
その日は満月だった。
しかし、四方八方に伸びた木々の枝枝が、藍色の空に浮かぶ月を覆い隠している。
時折、じっとりとした夜風が汗ばむ肌をなぜる。
枇々木 宝 は、背後から迫ってくる『追っ手』から必死に逃げていた。
『追っ手』が何なのかはわからない。それでも宝は『追っ手』が恐ろしいと感じ、ただひたすらに逃げるのだ。
「…………」
いったいどれくらい走っただろうか。
一時間のようにも思えるし、たった五分ほどにも思える。
走っても走っても、どんなに足を動かしても出口は見えない。視界は未だ針葉樹に覆われていた。
遠くからは狼だろうか。遠吠えが聞こえる。
『追っ手』から逃げて、もう随分経つ。
見事相手を振り切っただろうか。
宝が後ろを振り向いたその時だ。唸り声と共に身体が地面へと叩き付けられた。背中に鈍痛が走る。
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