43 / 96
丞の正体。(10)
斎はにやりと笑い、言ってのけた。
そこで思い出したのは、田牧のことだ。彼は自分が狼に襲われている自分を助けんがために銃で撃った。
しかも自分は田牧を殴り、気絶させている。仮に今、丞の屋敷に戻ったとして、気絶している田牧と鉢合わせにならないだろうか。
「あの、田牧さんは……」
「ああ、彼のことなら気にしなくて良いわ。わたしが彼の家まで運んでおいてあげるから。夢でも見たってことにして話をはぐらかすわ。だから宝ちゃんも今夜のことはお願いね?」
どうやら阿佐見は事の一部始終を見ていたらしい。ふふっと笑い、田牧のことをあっさり引き受けた。
ウェアウルフだと他言しても誰も信じてくれないだろう。もちろん、宝は誰にも言うつもりはない。
自分が好きな人の弱点を他人に売っても自分に得なんて無い。
だから宝は迷うことなく頷いて見せた。
ともだちにシェアしよう!