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丞の正体。(9)
許されることなら、このまま丞の側にいて懐抱をしてやりたいと、宝は思った。
「今は気絶しているけれど、さっきも言ったように、満月の今夜は魔力が一気に高まる時なの。丞は自我を手放し、暴れるかもしれない。側にいれば、どんな危険な状況にもなり得るわ」
宝の気持ちを見抜いた阿佐見は、決意を口にする前にそれ以上の覚悟が必要だと忠告する。
あの夢のように、もしかしたら自分は殺されてしまうかもしれない。
――それでも。
それでもいい。丞が苦しいのならそれを取り除いてやりたい。
そもそも、自分の所為で丞は今このような状態になっているのだ。だったら最期まできちんと看病する権利が宝にはある。
「へいき、です」
宝は涙で濡れた頬を拭うと、阿佐見に告げた。
「……そう」
「ならこいつを屋敷まで運んでやろう。いつまでもここにいたら血の匂いで熊までやって来かねないからな」
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