3 / 78

第3話《序章》魔王が目覚める日③

 突き飛ばされた体が石の床に投げ出された。 「この悪魔がッ!」  空から椅子が降ってくる。  石に囲まれた硬質の窓から射した、青い空。  蒼天から落ちてくる凶器は、四本の椅子の脚だ。  ガダンッ、ダンッ!  僅か数ミリで椅子が止まった。  風圧が肌を切って…… 「手の骨を砕いてやるつもりだったが、やめだ……」  冷酷な目が無慈悲に見下ろす。 「貴様の手コキは気に入っている」  恭しくも冷えた床に跪く。 「右手の骨を砕いてしまっては勿体ない」  右の手の甲をつぅっと指が撫でた。 「そうでしょう。ねぇ、殿下」  男の下でビクリと震える。  バキィッ  男の軍靴が椅子の骨を粉々に踏みつけた。 「なぜ領内に《ガニメデ》がいるのです?」 「なんの……ことだ」 「質問にお答え下さい。《ガニメデ》を潜行させたのは、あなたの仕業ですね」 「知らない」 「とぼけるなッ!」  軍靴に蹴り飛ばされた椅子の破片が頬を掠めた。 「この領内で……いや、世界の半分を領土とする中華大帝国に逆らうのは、あなただけだ」  竜の血を引く末裔・龍族第17皇位継承者  輝夜(カグヤ)皇子 「傾城(けいせい)の悪魔が……」  唇が下卑た笑みを浮かべた。 「散々(ねや)で可愛がってやったのに、私に逆らうか」  フッ………  ククククク……  フハハハハハハー!! 「貴様、気でもふれたか」  フラフラと立ち上がった体の底から、笑いが込み上げる。 「可愛がってやったのは俺の方だろう」  フッと息を吐き捨てた。 「毎夜毎夜、お前の垂れ流す醜悪な欲望に付き合ってやったのだ。有難く思え。まさかお前如き雄程度が俺を満足させていたとは、思ってないよな?」

ともだちにシェアしよう!