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第19話《Ⅰ章》傾城の悪魔⑨

 通信は生きている。  02-XG3から見た情報が手元のタブレットに送られてくる。 (間違いない。熱源上昇から見て《ガニメデ》は間もなく撃ってくる)  弾幕が晴れるのを待つ事なく。  詳しい情報分析をしている時間はない。  ツッ  無線が光った。 「02-XG3はこれより我が傘下に入る。俺の指示通り動け」 『了解した』 「跳躍体勢をとれ。右足は生きている。右足で踏み切れば問題ない」 『分かった』 「跳躍は10時の方向。仰角70.2度」  まだだ……敵を引き付けろ。  踏み切るのは《ガニメデ》がレーザー砲を発射する0.3秒前。  タブレットの液晶が数字を羅列する。次々にデータが流れていく。必要な数値だけを拾え。  今だ。 「シモン!」  ガガゴゴゴオオォォォー!!  凄まじい風圧だ。機械音が砂を巻き上げる。  抵抗圧は問題ない。計算の内だ。 「跳べ!」  漆黒の右足が大地を蹴った。  ベクトル正常 (いける) 「全体重を《ガニメデ》左前脚に叩きつけろ」  加速で一時的に重力が増す。今、02-XG3は機体そのものが凶弾だ。  こんな肉弾戦は《ジェネラル》の戦い方じゃない。 (醜いか)  違うな。  だからこそ、試す価値がある。  俺にしか描けない戦術だ。 (足掻いてやる)  抗ってやる。 (勝利に飢えているんだ……)  アマクサ砦で軍人どもに従いながら、したたかに抗ってきた。  足掻き、生きることを渇望するこの戦術こそが、俺そのものだ。 「前脚を折れ!」  バキィッギギギギィィーッ!!  赤い火が粉塵を割いた。 「よし!」 《ガニメデ》左前脚を粉砕したぞ。 「《ガニメデ》を掴め」  ツッ 『無理だ。機体がバランスを崩している』 「無理は承知だ。多少の機体の損傷は構わん。しがみつけ!」 『グゥッ、ダメだ。落ちる』 「生きたいんだろう!」  《ガニメデ》は撃ってくる。  遠隔操作の無人《フラッグ》だ。今この瞬間に照準を合わせている。人命損傷のリスクはない。ほかの二機が《ガニメデ》ごと02-XG3をレーザー砲で破壊する。必ず。  だから、その前に。 「俺が生かしてやる。お前は生きろ!」 『グォオオオオオー!』  02-XG3の両手が火花を上げる。  黒煙に高く、火の粉が噴き上げる。  止まった。  02-XG3の落下が……  脚の折れた《ガニメデ》は傾いている。  出力最大までチャージしたレーザー砲発射を停止める事はできない。  《ガニメデ》は……  地面に向けてレーザー砲を発射  そして、その推力を受けた02-XG3は…………  爆発が起きた。  大地をえぐる爆発だ。 『わ、私は……』  漆黒の機影が、いま 『飛んでいるぞォォォー!!』  空を駆ける。  02-XG3が飛んだ。 「飛んだぞ!」  ハハ……ハハハハハハハー  笑いが自然と込み上げてくる。こんなにも計算通りにいくなんて。 『飛んでいる……《ジェネラル》が飛んでいる。ハハハハ……信じられない光景だ』 「俺を信じたお前の勝利だ」  待たせたな。  敵軍司令官。  チェックメイトだ。

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