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第73話《Ⅲ章》うつつの鳥籠⑥
「撃つな!」
絶叫が響いた。
「撃つな、瑠月」
枕元に隠していた拳銃を瑠月が背後で構えている。
「お前も撃つな。サキモリ」
銃口が身構える。微動だにしない。
トリガーがとらえているのは俺じゃない。
瑠月だ。
だからこそ、俺ならまだ交渉の余地がある。
(だが)
一つ間違えれば、この交渉。
(瑠月が命を落とす)
けれど……
血を流すために国をつくるんじゃない。
(守るんだ)
交渉という戦術で、瑠月もサキモリも。
「答えろ、サキモリ。要求は何だ」
どう出る?サキモリ……
そもそも、この交渉に乗ってくるのか?
(乗ってこなければ、俺の敗けだ)
乗れ。
乗ってこい、サキモリ。
沈黙が重い。鉛のように……
「ずいぶん単刀直入だな」
(乗った!)
「単刀直入に話を進めねばなるまい。でなければ、こちらが不利だ」
仲間は?
単独犯なのか。
それともドアの向こうに、何人か潜んでいるのか。
犯行が複数人なら、この部屋は包囲されている。強行突破は無理だ。
(情報量が圧倒的に少ない)
どこまで話を引き出せるか。
突破条件は情報に掛かっている。
「帝国宰相・瑠月の処刑を要求する」
「できない」
「ふざけるなッ!俺達サキモリがどれだけ帝国に虐げられてきたか分かってるのかッ!」
「それでもできない」
「帝国宰相・瑠月を殺せ」
「殺せない」
殺させない。
「貴様ァッ」
敵意が向く。銃口が俺の額をとらえた。
「瑠月!撃つな!」
背中でトリガーに手を掛ける瑠月を止める。
(まだだ)
まだ交渉は決裂していない。
サキモリは撃たなかった。
(俺の命が終わらない限り、この交渉は敗北していない)
「卑怯だな」
銃口を構えたまま、サキモリが俺を睨んでいる。
「撃たなければ撃てない」
(感情を殺した声……)
いや、そうせざるを得なかったのだ。
生きるためには。
感情を殺して、殺して、殺して。
それでも芽吹いてくる感情を己で詰んで、感情を殺し続けて。
「あいつが撃たなけりゃ、撃てねェだろうがァァッ!!」
……感情を剥き出した。
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