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第78話《Ⅲ章》うつつの鳥籠11

 俺は残酷だ。  分からないから言える。 「黙れッ!サキモリが決起するんだ」 「決起しても彼の名前を呼ぶ人は、もう……」 「分かっている!」  分かっていた筈だ。  最初から分かっていて、俺はこの言葉を紡いだ。 (彼の選択肢を奪う交渉だと、最初から分かっていた) 「だったら何が正しいんだ!」  絞り出す声は苦しかった。 「俺達は間違っていない。奪われたんだ。正しい事ができないんだ」  クーデターが正しい方法ではないと分かっている。でも、それしか道がない。  その道すら、俺は奪おうとしている。 「どうしたら報われるんだ。どうしたら……」  声は悲痛だった。  領土は取り返せばいい。  けれど。  人の命は取り返せない。  その人の生きた証を忘れないために、残された人はただただ生きるしかない。  その人の心を胸に抱いて。  覚悟を刻んで。  言葉で言うのは簡単だけど、実行するのは易しくない。 「引き金を引きたければ、引けばいい。だが、クーデターは失敗する。俺がクーデターを潰す。お前の死は無駄死にだ」  残酷だ。俺は…… 「お前のとるべき最も確実な方法は、お前が生きて……」 「俺が生きて、国の行く末の道筋を付ける」 (えっ……) 「分かっている。そんな事くらいッ」 (このサキモリは、もうとっくに……) 「分かってて、それができないから」 (自分の進むべき道を見定めている) 「苦しいんだ」 (だから、苦しんでいる) 「だったら、お前の撃つべき相手は瑠月じゃない」  お前が銃口を向けるべき相手は…… 「俺を撃て!」

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