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第1話

これからお話するものは他人にとっては因果応報と言われるようなものではありますが、読者の皆様はどうか私に哀れみをくださいますようここに頭をさげてお願い申し上げます。 「恥の多い生涯をおくってきました」 だなんて有名になったものだけが言えるセリフです。 私は天才の人間が嫌いです。自分が一生懸命書いた作品でさへ才能という生まれつきのもので押し潰してきます。 彼らは努力なぞしないのです。彼らは私たちから手が届かない程上から「天才なぞ居ない、才能なんぞない。」 そういうのです。彼らの言う言葉は一つ一つが残酷で、ついこの間○○という天才が、 しゃがれ声で「君も天才だろう」アハハハハハと薄汚く汚れた音を奏でながらそんなことを言いました。 そんなことを言うなんてよっぽどの阿呆か、ただの世辞か、まあ普通に後者でしょう。細かいことは覚えておりませんが東京帝国大学に通っているとき○○という憧れの先生がおりましたので血が滲むほど努力をしてそこに入学した訳ですが、やはり人間というものは残酷で○○という先生は私の書いた文を見るや否や私が命をかけて書いた作品を地面に叩きつけ「才能のない貧乏人のものなんてみたくもない。」と私の原稿をわざと破くように踏みながら部屋から出ていきました。 自分自身でいうのもなんですが衣食住には困らぬほどの金をもった家に生まれたつもりです。貧乏人ではないし才能がない人間でもない。 この時の私はただの阿呆でそんなことを思っては自分を鎮めていました。 今はそんなことは思っておりません。○○という先生の仰る通りで、自分は才能のないただの阿呆なのです。 東京帝国大学に入学して1年後、私が今まで見たこともないほど蠱惑的で気持ちが悪いほど整った顔をもった美青年が現れました。 周りの人間がハっとしてしまうほどの美貌をもっている彼は当たり前のことに、注目の的となりました。彼と話した人みな呪われたように「かっこいい」「才能があるな」などと同じことしか言いませんでした。狂気的というより、狂信的な方が表現的には当てはまるでありましょう。 最初は特に興味が湧くわけではありませんでしたし、あまりに狂信的でしたので気持ちが悪くて関わってはおりませんでしたがある日熱烈な視線を感じました、それこそ最初は思い違いであるとほっといてはいましたが、それが三日に一回、二日に一回、一日、一時間、三十分と時間が短くなるにつれ視線が強くなるのに耐えられなくなり、視線の先を恐る恐る辿ってみると人に囲まれている教祖のような彼とその視線がぶつかりました。 目が合うとその美青年は信者を跳ね除け、ゆっくりと口角を上げながら私の方に近づいてまいりましたので恐ろしくなり後ずさりしましたら、「私はあなたの事をお慕い申しあげております。」艶やかな頬に紅を塗ったように赤らんだ顔で彼は手紙を差し出しました。 正直それが私にはおぞましく感じました。彼は人間を狂信的にしてしまう魔力のようなものをもっているように感じられますし、第一私には恋愛なんぞというものがわかりません。男と女価値観も生き方も思考も全く逆の性をもった2人が運命などと言う名ばかりのものに踊らされ自分に酔ってただの自己陶酔にしかすぎない感情のものだと思っております(彼との恋愛となると男と男になりますが)がその自己陶酔をしなければ人並みの幸せを得れないそうなのです。 私は人並みに幸せがほしいです。才能ももちあわせていない私にも幸福は訪れるべきだと思っています。ですがそんな真似事をしても相手はいつもあれが欲しい、ほかの女と話すななどと自己を強制するような事しか私に求めませんでした。結局恋愛というものは自己陶酔と物欲でしかなかったのです。 彼と恋愛というものをしたらどうなるのでしょう。今まで私に幸福を求めたものは才能をもっておらずおまけに阿呆でしたのでただの苛立ちしか生まれませんでしたが、才能をもちあわせた彼と恋愛とやらをすれば悪態をついたあの先生や私を下に見て自分の劣等感を紛らわそうとした人間、私の作品を駄作だと言って自分自身の作品を持ち上げる人間、以上の人間たちが才能をもった彼と付き合うことで私の作品を評価してくれるのではないだろうか、彼と恋愛をすることに自分には利点しかないそう思ったのです。 私は二つ返事で返し彼と交際することになりました。周りの人間は手のひらを返すように私の作品を褒めました。最初に原稿を叩きつけた先生も才能をもった人間をそばに置くことで褒めてくださるようになりました。

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