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1.やけど (1)

 ケイは小学校に上がる五歳くらいまで、あまり喋れなかった。  今でも、3センテンス以上の会話にはほとんどついていけない。  学生の頃はそのせいで、クラスにうまく馴染めずに、友人と呼べるような相手もいなかった。  ――いや、正確には、ケイにはひとりだけ友人がいた。  それは中学三年生のとき、初めて同じクラスになったアンリという名前の男子生徒だった。  日本人の男児に命名するには少し珍しい響きだが、祖父がフランス人のクォーターである彼は、高く通った鼻梁の整った顔立ちに、青みがかった瞳と淡いブラウンの髪、長身、長い手足と、日本人離れした優れた容姿の持ち主だったので、クラスメートたちはごく自然に彼を名前で呼び、慕っていた。  対してケイは標準の男子よりも背は小さく、こけしを連想させる重みのある真っ黒の髪に、手入れをしないせいで伸びっぱなしの長い前髪からは、奇妙に大きな双眸がぎょろりとのぞいていて、端的に言って「ぱっとしない」という印象だった。  当然、ふたりが一緒にいる様子は違和感しかなく、クラスメートたちは、アンリがケイに話しかけている間、なんとなく距離を取った。  ケイも最初は、どうしてアンリが話しかけてくれるのかよくわからず、その関係が友人に発展するものだとは思っていなかった。  何かきっかけがあったということでもなかった。一緒にいる時間が重なっていくうちに、いつの間にか、アンリと挨拶することが当たり前になり、アンリに話しかけられることが特別ではなくなった。  ケイにとって中学三年生という年は、これまでの人生で、一番楽しかった一年で、今でも宝物だ。  この先はもう二度と、「楽しい」という感情を持つことがないかもしれない。だからその一年間の思い出を、ケイは大切に大切に、心にしまっておこうと思っている。

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