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3.ケイとアンリ (10)
その週の土曜日は、アンリが参考書を買いに行きたいと言ったので、一緒に本屋へ行くことにした。
たまには違う駅まで出かけてみようという話になり、いつもの駅のカフェの前で待ち合わせをしてから、電車に乗って移動した。
休日の昼時というのもあって、車内は混雑していた。
人に流されてしまいそうになるケイの腕をアンリはぐいっと引っ張って、入り口のドア付近に避難させた。
さらにケイの前に壁を作るように立ってくれる。
よくこういうことをスマートにできるなぁと、感心して見上げていると、アンリは、「なに見てんの」と言って、ケイの頭をくしゃりと撫ぜた。
「あ。そういえば、ケイト、昼飯食った?」
待ち合わせが十一時で、昼にはちょっと早かったので、まだ食べていなかった。
「まだ、だけど、朝ごはん、遅く食べたから、だいじょうぶ、」
「そっか。じゃぁ、先に買い物して、それから甘いもの食べに行こう」
甘いもの、という言葉に、ケイは首を傾げた。
「クラスの女子がさ、新しくできたフレンチトースト? の店が美味しいって騒いでて、」
と、アンリはスマートフォンを取り出し、その画面をケイに見せた。
「ここ。どう?」
「食べたこと、ない、……」
「甘いもの好きなら大丈夫だと思うんだよねー。って、甘いもの、好き、で合ってる?」
話しながら、アンリはハッとした顔をしてケイを見た。
「た ぶん、合ってる、」
あまり甘いものを食べたことがないので、正直なところ、よくわからなかった。
「たぶん、って、」
アンリは可笑しそうに笑いながら突っ込みを入れて、
「そういえば中学んときも、何でも黙々食ってたよね。ケイトって食べ物、何が好きなの?」
「わかんない……」
「わかんないんだ」
あはは、と、アンリはまた笑った。
アンリが楽しそうに笑っていると、なんだかケイも楽しかった。中学のときに戻ったような、ふわふわと夢心地で幸せな感覚。
自然とケイは頬を緩ませた。
アンリがケイを見て、にこっとほほ笑み、
「再会してから、あんまり笑わないなーと思ってたけど、やっと笑ったね、」
ひどく優しい声音でそう言った。
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