36 / 50

5.我侭 (5)

 どこからともなくクリスマスソングが流れている。  給料をもらった日は、落としたり、変な人に絡まれたりすると怖いので、たいてい真っ直ぐ家に帰っているのだが、その日はなんとなく誰もいない家に帰るのがためらわれて、ケイはファミレスで夕食を食べてから帰ることにした。  ユウが寂しいと言っていたのを聞いたから、感情が当てられてしまったのかもしれない。  ――寂しい、の、かな。  ケイはぼんやりと窓の外に視線を向けた。 店内が明るいせいで、大きな窓ガラスは鏡のようにケイ自身の姿を映している。 今ここにあるのは、中身のないただの抜け殻で、寂しいなんていうことを感じる心は、別の安全な場所に、ちゃんと隠してあるはずなのに。  ぼんやりと窓に映る店内の様子を眺めていると、やがて注文した料理が運ばれてきた。 鉄板にのせられたハンバーグからうっすらと白い湯気がたっている。 「ごゆっくりどうぞー」  女性のウェイトスタッフが、そう言いながら伝票を置いていった。  ケイは、小さく「いただきます」を言って手を合わせてから、フォークを手にとった。 味は、よくわからない。 ただ空腹は満ちてゆく。  いつかアンリのことを思い出さない日が来るだろうか、と、思った。

ともだちにシェアしよう!