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【番外編】運命の番・新婚初夜 - 第3話

 高熱に浮かされたように、頭に(かすみ)が掛かり、身体が熱い。リオは潤んだ目で、愛しい夫の姿を寝室の中に探す。しかし、彼はまだ戻らない。  アーロンは、リオがヒートになったことを伝え、控えの間からも人払いすると言って出て行った。そんなことを皆に知られるなんて恥ずかしいから嫌だ、とリオは抵抗したが、 「言わなければ、異様に長引き激しくなる営みに周りが心配するし、万一、アルファが控えの間に紛れ込みでもしたら大変だ」  アーロンは頑として譲らなかった。 「はぁ。はぁ。……ああ、早く帰ってきてよ、アーロン……」  腰の奥が疼いて堪らない。触れてすらいないのに、こんこんと湧き出す泉のように蜜が溢れて、ベッドの敷布を濡らすほどだ。四つん這いの手足は震え、ようやく自身の身体を支えている。両足の間で、リオの分身は痛いほど昂っている。そして何よりも今は内壁を、彼の熱い剛直で突き、掻き回してほしい。 「リオ、喉乾いてないか? 水、貰ってきた」  戻ってきたアーロンは、テーブルに食べ物や飲み物の入った籠を置きながら、リオを気遣う。その優しさはありがたいが、今一番リオが求めるのは、喉ではなく、身体の渇きを癒やしてもらうことだ。荒い呼吸と潤んだ瞳で、懇願するような眼差しで見つめる。言葉はなくとも、リオの表情と放たれるフェロモンが、アーロンのアルファの本能に強く訴える。 「そんなに待ち侘びてた顔されたら、堪んないな」  アーロンは、殆ど肩から引っ掛けるだけになっていたナイトガウンを、リオに放り投げた。リオはそれを大切そうに自分の身体に巻きつけ、横向きに寝転がった。 「俺の匂い、そんなに好き?」 「……うん」  頷くリオを、アーロンは背後から抱き締め、ほっそりした腰を撫で下ろす。もどかしさに小さく震えると、アーロンの指先が、後ろのすぼまりに忍び込んできた。 「もう、とろっとろだ」  入り口に円を描くように、花びらを撫で付けるように軽くなぞり、蜜を纏った指はすぐに蕾の内側に潜り込んできた。焦らすかと思いきや、内壁に触れた途端、指を曲げて強い刺激を与えてくる。  リオの秘孔は、まるで内へと雄を誘うかのように不規則に形を変える。そして誘い込んだ雄を蕩かすように蠢き、時折締め付けるように収縮している。アーロンも、その指でリオの淫らな身体を感じているに違いない。 「んあああっ……! や、あん! ねぇ、アーロン。早く……」  一滴の水も逃すまいと、空になった水筒を諦めきれずに何度も振る、砂漠の旅人のようだ。飢えと渇きに耐え切れず、恥も外聞もなく、リオは自分の腰を差し出す。  アーロンは、リオをうつ伏せに転がし、その腰を掴み、高く持ち上げさせた。そして熱い昂りを蕾に宛てがう。 「リオ、愛してる」  譫言(うわごと)のように囁く声は優しいのに、入ってきたアーロンの分身は、容赦なくリオの内壁を切り拓く。心の内を読んだのだろうか。彼は、内壁の中で少し隆起した場所を執拗に抉るように抜き差しする。さっき曲げた指で擦られて、えも言えぬ快感を与えられたばかりのところだ。「いい」「もっと」「そこ」と時折断片的に叫ぶ以外、リオの喘ぎはもはや言葉を紡いでいない。  オメガであるリオの内壁は、アルファの精を搾り取るかのような複雑な動きをする。アーロンも堪らず、精を迸らせた。それでもなお、リオは腰を振るのをやめようとしない。 「くっ……、リオ、まだ欲しいんだよな? 分かった、もっとしような」  アーロンも、ヒートフェロモンに当てられて、発情(ラット)している。そのため、精を放ったばかりにも拘らず、血管が浮き出るような逞しい剛直を維持し、力強く腰を打ち付け続ける。 「あん、あん、ああ……っ! アーロン、アーロン! き、もち、良い、でも、もっと……っ!」  豊かな緑髪を振り乱し、夜目にも白い肌を紅く染め、淫らに腰をうねらせる痴態は、目からアーロンを刺激する。 「はあ……、はあ……。リオ……。好きだ。俺だけのオメガになってくれ」 「はあ、はあ、ああ、いいっ……。アーロン、噛んで。僕の項」  それでもなお、アーロンは項を噛むのをためらい、リオの肩先や背中を甘噛みした。リオの艶めかしい痴態に興奮し、ヒートのオメガとの交わりの味をもう少し楽しみたかったのだ。 「そこじゃない……。ねえ、項……」  アーロンは甘やかすように、駄々をこねるリオの髪に口づける。 「なぁ、リオ。ヒート中は、心も身体も普段と全然違うんだな……。色っぽくて、淫らで、すごく素敵だ。中も、蕩けて絡みつくみたいで、堪らなく気持ち良いよ……」  二人は、三日三晩に渡って愛し合い続けた。途中で疲れて、気を失うように短時間眠る以外は、ひたすら互いを求めた。最初は前から吐精していたリオだが、途中からは前は反応しなくなり、ただただオメガの本能のまま、アーロンの精を貪り、後ろだけで絶頂に達し続けるようになった。  リオの声が嗄れ、目の下に隈ができて疲労の色がさすがに濃くなってきた頃、アーロンが宣言した。 「リオ……。俺の番になってくれるか……?」 「ん……。アーロン、君の番になりたい」  背後から覆い被さり、アーロンは両の手をリオの手に重ねる。きゅっと手を繋ぐと、おもむろに項に狙いを定め、発達した犬歯を突き立てた。 「んっ、ぁああああ……っ!」  リオは、この上ない高みに達しながら幸福感を味わった。  この三日間、文字通り、溢れ出るくらい胎内にアーロンを受け入れてきたが、番になったことを身体が理解するや否や、子宮が蠢き、貪欲に注がれた精を吸い上げる。  自分の心と身体が竪琴になったように感じた。アーロンと触れ合う肌が、髪が、食い込む爪が、項に突き刺さる歯と彼の唾液が、自分を震わせる。何より、子宮を優しくノックする彼の分身が、そこから放たれる白濁が、リオの最深部を揺すぶる。運命の番から与えられる愛でリオの身体が奏でる音楽は甘美だ。うっとりと瞼を閉じ、絶頂を味わうリオを、アーロンは満足げに抱きしめた。 「……俺だけのオメガになってくれて、ありがとう。リオ……一生、大切にする」  生涯仲睦まじかったとされるアーロン王とリオ王だが、第一子を授かったのは、誕生時期から、新婚初夜のヒートの間ではないかとされている。二人の間に産まれた最初の王子は、アーロン王にそっくりの赤銅色の髪、琥珀色の瞳で、両国民から「希望の光」と愛された。

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