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第12話 六畳一間で愛を叫ぶ
薄暗い裸電球に照らし出された、六畳一間の質素な部屋に、無造作に敷かれた煎餅布団。
いつも見慣れたはずの光景なのに、今日はやけに淫微に映る。
この前酔いつぶれた時にも、俺は隆之とあの布団に包まっていたはずなのだ、覚えてないけど。
——お床入り。
どう言うわけか俺の頭に古めかしい言い回しが浮かんだ。
男とお床入り。オトコとオトコ…
駄洒落を言ってる場合ではない。
酒の酔いも、月明りに掛かった魔法も、一気にどこかへ吹き飛んだ。
いざ密室(?)に隆之と二人っきりになると、色んな思いが頭の中をぐるぐると駆け巡り、俺はパニックに襲われる。
誰か、何とかしてくれ〜。
ぽん、と頭に隆之の大きな手が置かれ、俺は飛び上がるように隆之を振り返る。
何を言えばいいのか分からず、金魚のように口をぱくぱくさせていると、隆之は困ったように少し微笑んだ。
「帰るんだったら今だぞ。」
俺は首を振った。
帰りたくない。
家にいるのがいやだから、という後ろ向きな理由ではなくて、隆之と一緒にいたい。
だが、これから自分の身に起こるであろうことを想像すると、恥ずかしくて隆之の顔をまともに見ることなどできなくなってしまう。
真っ赤な顔を俯かせてもじもじしていると、隆之の大きな手が俺の頬を包んだ。
どきん、と心臓が跳ねる。
隆之は俺の顔をゆっくりと上向かせると、顔を近付けてきた。
日焼けした顔に、くっきりとした眉、きつく切れ上がった瞳。
隆之の唇はかさついていて、煙草の匂いがした。
隆之は俺の下唇を甘噛みしたり、舌を絡めてきたり、息を吸い上げたりする。
手が髪の中に入れられ、ゆっくりと掻き乱される。
腰が抜けるようなキス。
膝から力が失われ、ぐったりともたれかかる俺の身体を抱き取ると、隆之はそのまま俺を万年床に横たえた。
優しい仕種で俺の頭を撫でながら、片手で器用に俺を裸に剥いていく。
自らも服を脱ぎ捨て、筋骨逞しい身体を惜し気もなく曝すと、静かに俺の身体に覆いかぶさってくる。
腰の下に枕があてがわれ、両膝が左右に割られた。
あられもない恰好に身体が思わず竦む。
「緊張するなよ、気持ち良くしてやるから。」
低く掠れた隆之の声はこのうえなくセクシーだ。
「ほら、好きなんだろ、こういうの。」
目の前にかざして見せられた小さなボトルには『ラブ・オイル』という文字。
何に使うんだ、とは聞けなかった。
少なくとも足ツボマッサージではないことは、いくら鈍感な俺にでも分かる。
「ラベンダーとか洒落たもんじゃねえけど、これだってけっこういい匂いだぜ。」
隆之は掌に少量を取り、俺に向かって差し出して見せた。
ふわりとほのかに甘い匂い。
隆之はそれを指に掬い取ると、俺の膝を持ち上げ、露になった下半身に塗り始めた。
「あ、うそ。」
濡れた指が、俺の入り口に触れる。
慣れない感触に身体が硬くなった。
隆之は無理矢理指をねじ込むようなことはせず、優しく淵をなぞるように撫で回す。
「隆之…」
俺は情けない声をあげた。
「気持ち悪い?」
「そうじゃないけど、俺、やっぱやられちゃうんだよね…」
この期に及んで、弱気で逃げ腰な言葉が未練がましく出てしまう。
「いやだ?」
「わかんない、でも怖い。俺、男とやるの初めてだから。」
「大丈夫、お前の嫌がることはやらないよ。抵抗あるなら…お前が俺に入れてもいい。」
えっ、入れる?
入れるって、やはりアレか?アレをアソコに、隆之に、鍛え上げられたターザンみたいな体型をした隆之に、え、俺の?
隆之の発言に俺は一気に混乱し、へなへなと萎えてしまう。
「う、うそ、隆之、ややややられる方が好きだったのか?」
「いや、俺はタチ専門でネコの経験はない。でも、洋介が掘られるのダメっていうならチャレンジしてみるさ。俺は別になんだって構わない、お前と繋がれるんだったら、どんな形でだって。やってみる?」
俺はぶんぶんと首を振った。たぶん泣きそうな顔になってるはずだ。
「無理無理無理、 ぜったい無理!俺、隆之にそんなことできない。」
「じゃ、このまま進めていいか?」
俺はこくこくと頷いた。
隆之の言葉に少しだけホッとしていた。
一線を越えることで、これまでの自分を失ってしまうのではないか、不安だったのだ。
必死で築き上げてきた自分が別にものになってしまうような、自分のアイデンティティが崩壊してしまうような不安。
だが隆之は、俺と繋がりたいと言った。
どんな形でもいいから繋がりたい。
それって、隆之に抱かれることで俺が別物に変わるのではなく、単に二人の距離が今までよりももっと縮まるってことだろう?
隆之が口づけをし、舌が割入れられ、歯列と上顎をまさぐられる。
濡れた音を立てて何度も濃厚なキスを繰り返すと、唾液で光る唇をゆっくりとはなす。
そのまま首筋、鎖骨へと唇を這わせ、乳首を啄まれた。
あ、と息が上がる。
舌でねっとりと舐め上げられ、軽く歯を当てられると、全身に電流が走るように身体が痙攣した。
「感じてる?」
舌先でつつくようになぶりながら、隆之が囁くような声で問いかける。
俺は息が上がるばかりで答えることさえできない。
「洋介、勃ってる。やらしいな。」
隆之は俺の硬くなった所をぎゅっと握り込み、鈴口から滲み出た先走りを指に絡めとると、亀頭全体に塗り広げる。
「あっ、あっ……」
熱く蕩けた身体の奥に、隆之の指先が少しだけ潜り込んできた。
ゆっくりと丁寧に、硬い入り口を解すように指先が蠢く。
隆之が乳首を甘噛みしたり、耳に息を吹き掛けたりする度に、身体の強ばりは解け、指が少しずつ奥へと侵入する。
隆之は指を中で小刻みに動かしたり、抜き差しを繰り返したりした。
腹の奥から不思議な感覚が湧き出てくる。
隆之は指を抜き、オイルを足すと今度は指を二本に増やして中を弄くった。
くちゅくちゅとあたりに濡れた音が響く。
「だいぶやわらかくなってきた。洋介、もう少し力抜いて、…そう、そんな感じ。いい子だ。」
隆之の大きな手を思い出す。
あの節ばった指が自分の中に入っているのだと思うと、ものすごく興奮した。
ふいに隆之の指がある一点を掠めた。
「ああっ!」
強烈な快感が全身を駆け巡り、俺は首を仰け反らせ、身体をびくびくと痙攣させた。
先走りがだらだらと溢れ、痛いほどいきりたった。
俺の反応に目を細めると、隆之は執拗にそこを責め立てた。
「隆之っ、たかゆきぃ、ああ、そこ、あっ…」
「洋介、すげえやらしくて色っぽい。俺、もう我慢できない。」
隆之は指を抜き取ると、熱く脈打つ塊を俺の中に押し込んできた。
一瞬息ができなくなる。
「いたっ痛いっ」
天国から一気に地獄に突き落とされたようだ。
身体を抉じ開ける激痛に、目から星が出るかと思った。
「洋介、力むな、息を止めないで身体の力を抜くんだ。」
隆之は容赦なくめりめりと身体を押し進める。
「くっ、きつい、洋介、そんなに絞めるな、ほら、息して、力抜いて緩めて。」
いつの間にか全身から汗を迸らせ、隆之が真剣な顔で覗き込む。
「洋介、洋介、そんな辛そうな顔をしないでくれ。」
大きな手で、無意識に零れてしまった俺の涙をそっと拭う。
その手を必死で掴んで、震えるほど硬く握りしめ、必死で痛みに耐えた。
隆之は優しく口づけを繰り返し、耳もとで何度も俺の名前を呼び掛けてきた。
そうやってどれくらい時間がたったのだろう、下腹に無理矢理飲み込まされた異物が少しずつ身体に馴染み、意識が次第にはっきりしてくる。
「洋介、全部入ったよ。」
腰に密着した隆之の肌を感じながら、俺はその言葉をぼんやり聞いた。
入った?
入ったって、もしかして隆之のアレ?あのでかいのが全部俺の中に埋まっているのか?!
「ほら」
隆之が俺の手を掴むと、接合部へと導いた。
熱くてずっしりとした質量が自分を押し広げ、深々と貫いている。
その状況に目眩がする。顔から火が出そうだ。
「動くよ。」
優しく揺するように、隆之がそっと身体を動かす。
痛みが引くと、今度はもどかしいような甘い疼きがじんわりと生まれ、全身に広がっていく。
隆之と繋がりあった場所は熱く蕩け、俺の中で隆之のものが蠢くのをまざまざと感じた。
隆之と一つになっている——そう意識した途端、理性は弾け飛び、俺は嬌声をあげた。
俺の変化に気づいたのか、隆之のペニスは快感を貪る俺の身体の中を、獰猛に暴れはじめる。
深いところ突き上げられたかと思うと、卑猥な音を立てて中を掻き回すように動かされ、抜ける手前のぎりぎりまで腰を引くと、内臓まで達するんじゃないかという勢いで再び挿入する。
あまりの激しさに息ができないほど苦しいのに、それを上回る強烈な快感が濁流となって俺を押し流していく。
言葉にならないほど、気持ちいい。
隆之は再び頭をもたげ始めた俺のものに手を伸ばし、ゆっくりとしごきあげた。
前と後ろと両方刺激され、俺は頭の中が真っ白になる。
「隆之、たかゆき…」
無我夢中で逞しい背中にしがみつき、引き締まった腰に足を巻き付け、自分からはしたなく腰を振る。
隆之の俺をしごきあげる手にも熱がこもっていく。
肌がぶつかりあう音が聞こえるほど、激しく腰を突き上げられる。
その衝撃で隆之の張り出した部分が、先ほど指で探り当てられた部分をこすりあげ刺激する。
「んんっ」
うめき声と共に俺は絶頂を迎えた。
深々と穿たれたまま、隆之の掌にどくどくと俺の精液が溢れ出す。
はあ、という深いため息が耳をくすぐる。
隆之のものが一層大きく膨らんだような気がした。
俺の中に熱く濡れた感触が広がり、隆之も達したのだと分かった。
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