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第12話 ◆完結
手のひらでそっと瞼を閉じてやると、誠二はその場に両手をついてひとしきり泣いた。
殺した。俺が遥希を殺した。
遥希の言う通りだ。真正面からぶつかり合うことを怖れていた俺は一番の小心者で、卑怯者だった。
中学の時、部活の先輩から襲われた俺はその時も遥希のことを考えていた。彼に純潔を捧げられなかった悔しさと悲しみ、でも遥希に犯してもらっていると想像すると、赤の他人相手でさえ感じてしまった。気がおかしくなりそうだった。
だから高校に入ってからは、周囲が近寄りがたいように不良の真似事をした。人はどうしても外見や言動で相応の判断をするもので、体格も良くなっていたせいか、誰かに性的関係を持ち掛けられることはなくなった。
だが、念願の再会を果たした遥希には合わせる顔がなく、結果的にキツく当たり、嫌な思いばかりさせてしまった。遥希にだけは、俺の弱いところを見せたくなかったから。
本当の友達なら、そんなくだらない見栄なんて気にしなくて良かったはずなのに。
こんな風に、身を呈してまで守ってくれたのに。
遥希──。
お前がいない世界に、意味なんてないよ。
『誠二様、おめでとうございます。あなたは今この瞬間より、ゲームから解放されました』
「……俺はここから出て行かない」
誠二は蚊の鳴くような震える声で言った。
「俺は遥希と一緒にいたい。それが遥希をこんな風に追い詰めたせめてもの償いだ」
『では、食料品などの支給も一切絶たれます。あなたはもう二度とこの部屋から出ることはできません。それが意図することはおわかりですね。それでもよろしいですか』
「……ああ、それでいいよ」
『本当に?』
ゲームの主が、感情は感じられない声ではあるが、初めて疑問を投げかけてきた。
誠二はただ、コクリと頷いた。
そして、もう目を覚ますことのない遥希を抱き締め、口付けた。まだ微かに温かみの残っている、柔らかな感触──。ずっとこうしたかった。自分勝手ではあるが、この上ない幸せだった。
『……承知致しました』
それから、スピーカーからの声はぴったりと止まった。
◆
「いやはや、今回の企画も涙なしでは見られませんでしたな」
「ははは、心ないことを仰るのが実に上手いですなぁ」
「おや、ばれてしまいましたか」
とある劇場のような施設で、見るからに好色そうな男達が酒を片手に口々に感想を述べている。
「それにしても、相変わらず語り口調が上手いねぇ、君は。それにこの企画を考えた支配人……さすがはオーナーのお墨付きだ」
そう言って笑うVIP会員の老人の目の前には、フフンと満足げに唇を吊り上げる青年。
それに、大スクリーンに映った衰弱しきった誠二が息絶えていくVTRを、無感情の眼で見つめる不気味な男が立っていた。
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