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第11話 ※グロ

 俺の目玉は、休憩しているいつの間に没収されてしまったらしい。  どこに行くのかはわからないけれど、ここまでした以上は、少しでも善良な人の元に届けばいいと思う。善人じゃなかったにしても、まあ、俺の一部が誰かに役立てればいいか。  綺麗事にもほどがあるが、もはやそんなことを願う始末だった。  清潔に処置をして眼帯をする。片方の目だけで生活するのは、最初はバランスが悪かったり疲れたりして不便だったが、誠二の力もあってなんとか慣れてきていた。  そんな折、あの声が響き渡った。 『最後の拷問の時間です』  最後? もしかしてこれに耐えることができればここから解放されるのか?  そんな淡い期待は、一瞬にして崩れ去ることになる。 『遥希様、誠二様の両名が、どちらかを殺せばゲームクリア、生き残った方が解放されます』 「は……?」  なんで。どうして。今の今になってそんなおぞましいことをほざきやがるんだ。 「ふっ……ざけんなよ! そんなことできる訳がないだろう!? だいたい本当に解放される保証だってあるのかよ!」  そう言うと、今まで固く閉ざされていた唯一の扉が、魔法のように開いた──。 「逃げよう」 「遥希……」 「もうこんなチャンス二度とないって、これまでで痛感しただろ。俺は誠二も殺したくない。迷ってる暇なんてない、早く!」  一目散に走り出そうとした瞬間、 「ギャアアアアアアアアッ!! アァァッ、ぐがアァアアアアアアアアアア!!」  扉の外に着く前に、腕時計が作動し逃走を阻止した。しかも初めに誠二がくらったものより強いだろう、かなりの高圧電流だ。白目を剥き、しばらく動けなかった。  それをせせら笑うように、また自然と扉が閉じた。   ──悪い子には、お仕置きを。  まるでそんな風にでも言いたいがごとく。 「遥希……遥希! 大丈夫か!?」 「大丈……夫……。くそ……あいつら……どこまでも馬鹿にしてやがるッ……」  よろよろと立ち上がるが、声の主や周りで俺達を見ているんだろう輩が、とんでもない異常者だと痛感しただけだった。  今朝は朝飯の代わりに、最後の拷問、すなわち互いの殺害に使われる準備が、やはり整っていた。  刃物、銃、クロスボウ、ハンマー……等々人間をいとも簡単に惨殺することのできるアイテムしかない。 「……誠二。俺は誠二を殺さないから。だからもっと……別の方法を考えよう」  だが、誠二は無言で武器を漁り始めた。 「誠二……?」  まさかこの期に及んで殺す気か……いや、それでもいいかもしれない。  この部屋で誠二には殺されても仕方のない仕打ちをしてきた。それに俺なんかが死んだって誰も困らない。  ここまで育ててくれた両親には、少し悪いけれど。  小さく肩を落とす俺に、誠二は武器を吟味しつつぽつりと語り始めた。 「最後に向き合いたいって言われた時、俺、お前に告白しようと思ってた……。でも、できなかった。俺が弱いから……」 「お袋が死んだのだって、その時期にたまたまお前が引っ越したのだって、お前のせいじゃないのはわかりきってるつもりだったのに、でも、俺はやっぱり弱くて……全部お前のせいにして……」 「憎まれたって仕方ないと思う。全部俺が悪いんだ。だから……お願いだから、俺を殺してくれ。俺が死んで遥希は助かるべきだ」  濁った目で迷っていた誠二が、ショットガンを手にした。当然銃なんて扱ったことはない。説明書を読みながら安全装置を外していく。  指を詰める俺を間近で見ていただけに、銃ならば、特に散弾銃であれば高確率で死ねるとでも思ったか。 「じ、冗談やめろよ……俺はお前を殺さないって言っただろ」 「なら遥希の手は汚さない! 俺が俺を殺す!」  誠二はショットガンの銃口を喉に押し付け叫んだ。  このままトリガーを引けば脳天までグチャグチャになってしまう。確実に死んでしまう。 「なに馬鹿なこと考えてるんだ……や、やめろ……!」  手を伸ばすけれど、誠二はブルブルと全身を震わせている。下手すれば暴発するかも。それだけは避けたい。 「来るなッ!!」  うっすら涙を浮かべて誠二が叫ぶ。本気だ。誠二は自死することで俺を生存させることを、心に誓ったんだ。  全てをその身で受け止めて、俺を助けようとしている。  そんなのって、ないじゃないか。 「二人でここを出るって約束、破ることになっちまったな。ッ……ごめんな、遥希……好きだ……」  なんだ。あんなに執拗に謝罪を求めていたのに、こんなにも、あっさりと。  謝罪と愛の告白を聞いた瞬間、何故だろう──自然に身体が動いていた。 「は、はる、き……?」 「よ、良かった……誠二が、生きて……ゲホッ……オェ……」  誠二が呆然と視線を落とすと、トリガーが引かれたショットガンの銃口は俺の腹にめり込んでいた。  全弾が内臓にまで命中し、倒れた俺の周りにはおびただしい量の血溜まりが広がっていく。  鉄、そして火薬の匂いが二人の鼻腔にもろに入り込む。 「な……なんでっ、なんでお前が俺なんかを庇う必要があるんだよっ!?」 「わ、かった、から……」  俺は血反吐を吐きながら震える。それでも、言わなければ。今伝えなければ、絶対に後悔する。  思い出した。俺が引っ越す時、泣きながら「会えなくなってもずっと友達だ」って言ってくれたのは、お前の方からだったよな、誠二。  それが後々いじめだなんていう間違った方法でも、俺の心を繋ぎ止めたかったんだよな。  どれだけ拷問されても耐えていたし、俺が弱れば励ましてくれたし──お前の初めての相手が俺じゃないことが、今は嫉妬で狂いそうだよ。 「誠二が……俺のこと、嫌いじゃなかったんだって……むしろ好きでいてくれたんだって、よく、わかった、から……」 「もういい、俺は遥希にどう思われたっていいから……死なないでくれよぉ……」 「……は、は……さすがの俺も……これは無理そ……ごめん……」 「遥希ぃ……俺こそごめん……素直に好きだって言えなくて、そのせいで傷付けてごめんなさいっ……!!」 「俺も、誠二にたくさん酷いことして、ごめん」 「そんなの怒ってないから……謝るなよ……」 「ははは……こんなことになるなら、とっとと真っ向から喧嘩すれば……良かった、なぁ…………」  それを最後に、遥希の声が聞こえなくなっていた。 「遥希?」 「遥希……」 「はる、き────」  部屋がシンと静寂に包まれる中、カチャ、と音を立てて遥希と誠二の腕時計が外れた。それが意味することはただ一つ。  ようやく、地獄からの解放の時が来たが──。  遥希は目を見開いたまま死んでいた。

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