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第38話
それから数日後。
『aoi』の登場により一機の口紅がものすごい勢いで売れている、というニュースを碧唯は十哉に作ってもらったコロッケサンドを食べながら聞いていた。
「元々が人気商品だから豚が出なくても売れたと思うんだけどね。比較画像載せたのが良かったのかしら」
ブログにすっぴんでツーショット撮影した画像も載せていた一機はその話をサラダを食べながら言った。
「じゃね?でもあの比較画像、カズキと子ブタくんがすっぴんでも可愛いっていうだけだった気もするけど」
一機の言葉にコロッケサンドを食べながら同意する十哉。
威は仕事で朝から不在、これから十哉も仕事があるという事で碧唯は写真集の撮影に向けて、一機からスキンケアについて教えてもらう事になっていた。
「ホントは10キロくらい痩せて欲しいけどね」
「は……はぁ……」
メイクルームに移動したふたり。
「まだ若いし引きこもってただけあって割とキレイな肌だけど、撮影するならもっとキレイな肌じゃないとダメなのよ。いい?これから毎日朝と夜、必ずこれ使うのよ」
「はい……」
瓶やクリームの容器が5つほど並ぶ。
一機はきつい口調ではあったがひとつひとつ丁寧に説明してくれて、やり方も教えてくれた。
「どう?大丈夫そう?」
「……じ、自信ないので紙に書いて貼ります……」
勉強する、と聞いていたので碧唯は事前に威にお願いしてメモ帳とボールペンを用意してもらっていた。
一機に確認しながら内容を書き、商品ひとつひとつに貼っていく。
「偉いわね。勉強好きだったんだっけ」
「はい。知らない事を知る事が出来るから、勉強は好きです」
「大学とか、通信で行けばいいじゃない。これからモデルやったらそれくらい出来ちゃうわよ。タケルだって家でやるなら賛成するだろうし」
「いえ、ここに住まわせてもらって皆さんに優しくしてもらっているだけでありがたいのに、そこまでは……」
書きながら一機と話をする。
最初は怖くてなかなか上手く話せなかった碧唯だったが、だいぶ一機に打ち解ける事が出来ていた。
「アンタ、ワタシたちに遠慮しなくていいのよ。ワタシたちの事、家族だと思っていいんだから」
一機が今まで見たことのない、優しい笑顔を浮かべながら碧唯の頭を撫でる。
「家族……ごめんなさい、ボク、家族ってよく分からないです。お父さんの事もよく知らないし、お母さんはボクの事、要らなかったみたいだし……」
「……そっか、そうだったわね。だからタケルはアンタが可愛くて仕方ないのね」
碧唯の言葉に、一機はそう話した。
「あ、あの……それ、どういう事ですか……?」
ここでの日々を過ごしていく中で気になっていた事。
どうして威は自分を選んだのか。
好みのタイプ、という事だけで今までの恋人たちにはしていなかったルームシェアを何故自分だけ、しかもペットとして住まわせてくれているのだろうか。
碧唯はその理由が気になっていた。
「聞いてない?タケルもね、アンタと同じで家族を知らずに育ったのよ。だから今こうしてワタシたちと家族になって暮らしてるの」
「そうなんですか……」
(ボクとご主人様が……同じ……)
その言葉は、碧唯の気持ちを更に威へと向かわせた。
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