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借り 1
「協力してほしい」
スーツはあの人に頼んだ。
ええっ、て思った。
あの人がスーツの頼み事なんか聞くはずないのに。
心の底から「あいつ死なないかな」と言ってる位だし、なんなら「殺しちゃおうかな」とか半分位本気で言っている位なのに。
俺達の家のダイニングのテーブルにあの人とスーツは向かいあって座っていた。
俺はスーツの前にお盆にのせて運んできたコーヒーを置く。
スーツが来たらいつも淹れている。
俺とあの人は飲まない。
食べ物や飲み物に興味がなくなってそろそろ一年以上になる。
「ありがとう」
スーツは俺に向かってにこりと笑った。
何の特徴もない、すぐに忘れてしまうような顔が一瞬柔らかになる。
笑ったらいい男なのにな、スーツ。
おっと、あの人の視線が痛いぞ。
俺の年上の恋人はとてもとても嫉妬深い。
気をつけないと、後でお仕置きされてしまうのだ。
・・・性的に。
「これはお前の個人的な頼み事なんだな?」
意外にもあの人は断らなかった。
「仕事抜きの俺個人の頼み事だ。協力して欲しい」
スーツは頭を下げた。
「犬、お前には借りがあったな。・・・いいだろう。協力してやる」
めちゃくちゃ意外なことにあの人は快諾した。
ええっ、なんで?
「『借り』って何だよ!!」
思わず叫ぶ。
俺はあの人を見る。
凝視する。
穴があくまで見るつもりで見る。
ありえない。
この人がスーツを助けるなんてありえない。
「・・・教えてやらない」
あの人か拗ねたように言ったので、絶対に教えてもらえないのだとわかった。
言い出したら絶対なのだ、この人は。
一年位一緒に住んでいて分かったことはある。
この人は完全にぶっ壊れた殺人マニアで、嫉妬深いし、ワガママだし、死姦趣味まであるドスケベのド変態のサディストだ。
ほとんど良いとこないな、良く考えたら。
顔と身体とセックスはめちゃくちゃいいけど。
ただ、意外と義理堅くて約束は守るのはわかった。
約束ってことが命を左右する裏社会にいたせいなのかもしれないが、約束は絶対守るし、仕事は真面目にする。
今でも、仕事に必要になるかもしれないと、毎日色々勉強しているし、俺への訓練もめちゃくちゃ真面目にするし、自分の訓練も欠かさない。
で、意外なことに嘘はつかない。
言わないことがたくさんあるだけだ。
こないだも、拷問前に悪趣味なロシアンルーレットをしていたけれど、殺した男があの人を狙うとかそういうルールの逸脱さえしないで、きちんとゲームをし続けていたら、約束を守り男を解放した可能さえあるのだ。
あの銃には弾丸ははいってなかったのだから。
まあ、でも一つだけ言えるのはあの人は自分が負けるゲームは絶対にしないので、最初から男がゲームを続けられないのはわかっていたのだと思う。
でも、この人は妙に真面目なところがある。
そんなことが・・・何度も言うけど、殺人マニアで、サディストでワガママで、死姦趣味があり、狡猾で卑怯なことを打ち消せるとは思えないけれど、一ミリも思わないけど。
「・・・犬、お前が厭々僕に頭を下げたってのは、なかなか楽しかったしな。後々思い出して楽しめる」
心の底から楽しそうにあの人は言った。
これも本音だろう。
この人は人が嫌がることが本当に大好きだからだ。
本当に小さな嫌がらせから、虐殺まで心の底から楽しむことができる。
・・・俺、なんでこの人が好きなんだろう。
自分がわからなくなる時はある。
「『借り』は返してやる。さあ、犬、話して見ろよ。聞いてやろう」
随分偉そうにあの人は言った。
偉そう。
本当に偉そう。
綺麗な顔か見下すような表情を浮かべ、綺麗な唇が冷笑を浮かべていた。
基本性格が王様だからな、この人。
いや、どっちかたと言えば女王様だな。
椅子にふんぞり返ってスーツを見つめる姿は、ホント、ホント、腹が立つ。
スーツがさすがに苦笑していた。
スーツは大人だよ。
この人とは違って。
あ、もうダメだ。
ボカっ
無意識に手にあるお盆で、あの人の頭をはたいてた。
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