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探索 4
「なんて言うの?・・・ん、そう、端正て言うか、清らかっておうのかな」
ガキが防犯カメラの映像を引き延ばした何枚かの写真を眺めながら言った。
やけに熱心に見ている気がして、腹が立つ。
ガキが顔のいい男が大好きなのは知っている。
コイツは殺人現場の犯人が顔が良ければ惚れられるくらいの面食いだ。
そう、端正。
シルエットからして美しい高級スーツを、さらりと着こなす、二十代半ばの青年。
確かにコイツは端正という言葉が似合う顔だ。
そして何故だか清らかと言う言葉が似合う。
聖人めいた美貌だ。
だが殺人が行われた会場にいたはずの男達に対する証言とは外見が全く一致しない。
だから、コイツなのだと確信する。
自分とは全く異なる外見にして、その現場にいるのだ。
詐欺師に相応しい顔だ。
左右対称、なにひとつ間違いないのないようなこの顔立ちは、聖職者や真理を追求する科学省のように見える。
この整った外見はそれたけで人を騙す。
まあ、僕の方が綺麗だけどな。
僕が綺麗なのは事実だし、それを誉められると悪い気はしないが、まあ、僕の外見はそういう風に作られたから当然だとは思っている。
人を魅了できるだけの外見が必要とされていたからだ。
その程度の認識だったが、それでガキが釣れたんだから良かったかも、と思っているのは内緒だ。
その分心配ではある。
こういう風に熱心に他の男の写真なんか見られると。
僕より良い外見ってのはなかなかないから大丈夫だとは思うが。
何よりガキは僕にベタ惚れだ。
それはわかっているが。
それはわかっているが。
でも、このガキのストライクゾーンが広すぎるのも知ってるし、なんせ、190センチ以上はある「狂犬」でも「イける」と云ってのけたくらいだし。
ちなみにコイツのイけるは抱く方だ。
コイツの「無理目な男を抱きたい」という性癖があるから、そういうシュチュエーションがあれば流されるんじゃないかと心配だし・・・。
「・・・他の男をあまり見るな」
写真を取り上げ、犬に渡す。
わかっている。
嫉妬だ。
だが犬、それを指摘したらお前を殺す。
何か言いたげな犬を睨みつけた。
「とにかく、写真でコイツの姿は分かった。あと手口も分かってる。最初の頃は街で1人1人に声をかけて集めていた。1人200万円位をセミナーの前に振り込ませている。高額だったけれど人数は少ない。5人程度だ」
声をかけ、喫茶室などで話し込む。
そこから、信用させ、金を振り込ませ、公民館や集会所に人々を集めて殺し合わせ、消える。
口座は今は使われていないはずの口座だ。
そっと姿を消した人々の。
人に知られず亡くなった人々の。
闇金に借金の利子を払う代わりに口座を売った人々の。
その口座が売られ使われている。
お金は引き出され、犯人は消えている。
「・・・引き出した奴が犯人だから防犯カメラとかで見つかるんじゃないのか?」
ガキが賢い意見を出す。
「引き出した人間は犯人じゃない。何故なら全員金を引き出した後で殺されているからだ」
僕は答える。
口座の持ち主になりすまし、身分証明を必要としない限度額ギリギリで、銀行の支店を何店舗もまわり金を引き出した人間は必ず死体となって発見される。
自殺だ。
腹を自分で切り裂き、内臓まで掴みだしていたりするケースが多い。
もちろん、金は消えている。
だから、コイツの姿を知っているのは口座屋だけだ。
後は直接会った人は全員死んでいるし、目撃者達の見た人間は毎回違うのだ。
会場を借りに来た男も、セミナーの日会場に入って行くのを見られた男も。
毎回毎回、身長体格年齢が全て異なるのだ。
「でも最初は少ない人数だった。でもだんだん、人数が増えてきている」
最初は5人。
少しずつ殺す人数は増えていく。
とうとう20人殺した。
金の問題ではないのは一人あたりの金額が50万円に減っていることからも確かだ。
手間を考えれば、沢山殺すのは、リスクが増えるのに利益は変わらない。
殺したいのだ。
「狂犬や僕のケースに近い。理性を保ちながら定期的に人を殺していく。・・・裏社会での日常を送りながら。でも、コイツは僕や狂犬とは違い、殺したことがあったとしてもそれは日常ではなかったはずだ」
始末屋だった僕、拷問と見せしめの殺しが仕事だったヤクザの狂犬。
捕食者になってもそれ程生活は変わらなかった。
僕達には殺しが日常だったからだ。
だが、コイツは理性を残しているように見えて・・・。
エスカレートしていっている。
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