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探索 5
「コイツのは直接的に殺すタイプの能力じゃない。【精神操作系】そうお前の相手が推測しているのは僕も正しいと思う。だから殺し合わせて殺している。でもコイツはもっともっと殺したくなっている。でも一人一人街で会って集めるのは効率が悪い。だから今回は違う方法を使って人を集めていた、それにお前の相手が気がついたんだろう。だから会場を特定できたし、潜り込めた」
僕は推測する。
多分これは間違いじゃないはずだ。
「人に会わないで人を効率的に集める方法はそんなにはない・・・わかるな?」
僕はガキに言う。
「インターネット?SNSだよな」
ガキはすぐに答えた。
正解だ。
僕が頷くと嬉しそうに笑った。
可愛い。
犬が帰ったら押し倒そう。
このテーブルの上で抱いてやる。
全身舐めて可愛がって、泣かしてやる。
「さすがに犬のやり捨て相手のパソコンや携帯は警察にあるからしらべてられない。でも、犬が【情報屋】のアカウントをフォローしていてくれたから、そいつが誰をフォローしていたのかはわかった」
呟きと言われる投稿をするSNSだ。
そいつは見るのが専門らしく、何も呟いてはいなかった。
だが1000人近い人間をフォローしていた。
ついでに犬のアカウントも見るはめになったが、こちらもほとんど呟いていないし、フォローもあまりしていないし、されてない。
意外な女性ミュージシャンがフォローされていてコイツこういうの聴くのか、とは思った。
後は格闘技のアカウントがフォローされていた。
ただ、特定の女性の呟きに「いいね」がつけられていた。
呟きも女性へのリプライのみだった。
その女性は犬の相手もフォローしていて、犬の相手も女性に「いいね」をつけていたから納得した。
犬の妻だった女だろう。
この女のためだけに、このSNSを犬がしているのは明白だった。
女はおそらく実名でしていた。
大学の準教授。
数学者か。
真面目な内容のツイートは多岐な分野の読書の完走だった。
この女については覚えておく。
犬の弱みだ。
いつか役に立つかもしれない。
今は協力関係にあるが、先のことは分からないからだ。
いつか犬が僕を裏切るような真似をした時には、この女を刻んで楽しんでやる
とにかく犬の相手が1000人以上フォローしているアカウントを全て確認した。
探したのは1000から3000くらいのフォロワーのいる、「優しいアカウント」だった。
それほど大きくはない、でもある程度人が注目するアカウントだ。
言葉の内容でフォローしたくなるような、「優しい言葉」を取り扱うアカウントだ。
「寄り添う」ような言葉。
詐欺師とは言葉の魔術師だ。
最高の詐欺師とは、騙されたことさえ相手に気付かせない。
おそらく、捕食者になり、殺し始めるまでソイツはそうやってきたのだろう。
高額ででたらめなセミナーで金を稼ぐ。
でも、被害者達は納得しているような。
詐欺師とはその人のための最高の物語を提供するのだ、そう、僕の知っている結婚詐欺師がいっていた。
大勢のための物語ではなく、その人のための最高の物語を提供し、幸せにしているのだと。
金を失っても騙されたとは思わせない程の物語を作れる最高の作り手が最高の詐欺師なのだと。
「僕は女の子達を幸せにしてやってるんだよ」
ソイツは言った。
ソイツは僕も幸せにしてくれたから嘘ではないと思う。
刻んでころしてから、その何人もの女を幸せにして去っていった身体で楽しんだからだ。
ソイツは綺麗な顔をしていたし、嘘つきな口の中も、その穴も悪くなかった。
もう嘘はつけなかったけれど。
とにかく、必要なのは誰かに寄り添おうとしているアカウントだった。
多数に向けてではなく、1人1人に話しかけようとするような。
おそらく、犬の相手も探していたのだ。
騙す相手や、欲望の相手をさがすようなアカウントは溢れるようにある中で、何らかの方法で選別していったアカウントをフォローし、観察しながら探していたのだろう。
この中のどれかかソイツだ。
そして、僕はそのアカウントに目をつけた。
そのアカウントの言葉は奇妙だったからだ。
いや、言葉が奇妙なのではない。
パソコンのディスプレイに浮かび上がる文字に奇妙な違和感を覚えたのだ。
そう、いうならば、そのツイートだけ他の呟きとは字体が異なるというか・・・。
そんなはずはないのだが、文字の色が違うような・・・。
たいしたことも書いていないその言葉が奇妙に浮かび上がって見えたのだ。
・・・その言葉は生きていた。
勘がこれだ、と言った。
「多分、コイツだ」
僕はノートパソコンでそのアカウントのプロフィールを開いて示した。
「・・・ガキ、お前はまだ見たらだめだ」
ガキに忠告する。
ガキは怪訝な顔をした。
犬はその画面をみる。
普通のプロフィールだ。
カウンセラー、カタカナの職業名、アイコンは柴犬。
「あなたはあなたのままで良い」
そんな風な意味の言葉が並んでる。
どこにでもある、ちょっと良さげな人間全て肯定してくれるような言葉だ。
犬は首を傾げる。
わからないか。
わからないだろうな。
コイツは仕事がら疑うことが仕事になっている。
コイツにはきかない。
僕はガキに言った。
実験だ
「見てみろ・・・」
ガキはキョトンとしたまま、画面を覗き込んだ。
「・・・・」
とたんに凍りついたように表情が消えた。
瞬きさえせずに画面を見つめ続ける。
「おい、これは・・・」
犬が驚く。
「・・・やっぱりな。ガキならそうなるだろうなと思ってたんだ」
僕はつぶやいた。
画面の文字が浮かび上がる。
文字通り、パソコンのディスプレイから浮き上がった。
ゆらりとゆれながらその文字は、ガキの目の中に吸い込まれていく。
「おい!!」
犬はガキの肩を揺すぶった。
ガキはぼんやりとされるがままになっている。
「・・・触るな。僕のだぞ」
僕は不機嫌になりながら、犬の手からガキを奪い、その頬をかるく叩いた。
まだぼんやりしたままだ。
少し焦る。
思っていたよりも深いのか。
「大丈夫なのか!!」
犬が珍しく焦っている。
てか、僕も焦る。
「煩い!!」
怒鳴ってガキにキスをする。
深く口付け、舌を絡めて、ガキを快楽を使って呼び戻す。
しまった・・・。
そう思う。
ガキはハマるタイプだったのだ。
まあ、当然と言えば当然。
この疑うことなど出来ないお人好し。
ハマるタイプだろう。
でも・・・だからこそ、抜けるのもたやすいはずだ。
はずなんだ!!
ガキが僕のキスに反応しない。
ぼんやりと宙を見たままだ。
されるがままだ。
僕は焦る。
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