57 / 275

探索6

 「おい!!・・・わかった!!触らせてやる、いつもより!!」  僕はガキの耳もとで怒鳴った。  少し声が震えていたかもしれない。  「んっ」  ガキが呻いた。  舌に応え始める。  良かった。  一瞬本気でうろたえた。  コイツ・・・。  僕を触れると思ったら速効で意識を戻してきやがった。  どんだけ、僕を抱きたいんだ。  コイツ・・・自他共に認めるセックス大好きな僕よりもドスケベだ、間違いない。  絶対最後まではさせないからな。  ガキの腕が僕の背中を強く抱きしめる。  ガキがうっとりと囁いた。  「・・・いつもより触らせてくれるんだ?」  何事もなかったかのような、すごく嬉しそうな声に早まったかもしれないと僕は思った。  ガキは頬を僕の頬にすりよせ、背中を優しく撫でててくる。  やたらと甘いその手がヤバい。  これは。  これは。  あまり良くない傾向だ。  ガキに身体を触らせんのはあまり・・・良くないんだが・・・。  仕方ない。  「後でな・・・」  僕はため息まじりで言った。  仕方ない。  「うん」  ガキは上機嫌た。  僕を抱きしめたままだ。  「とりあえず、その手を止めろ」  僕は呻いた。  ガキの手は僕の背中から尻までを優しくやらしい意図をもって撫でまわしていたからだ。  特に尻の割れ目を丹念に。  「ん・・・」  残念そうにガキの手が止まる。  これじゃいつもの反対だ。  「さっきのは何だ?説明をしてくれ」  犬が驚いたように言った。 僕とガキのやり取りは無視するところはさすがだ。  「今ので確信したよ。【捕食者】だ。これでこの事件は僕のものだ。良かったな犬。ここからこの事件は僕の事件になる」  僕は犬に宣言した。  「コイツは言葉を操る能力を持つ。おそらく。洗脳や催眠に近い能力だと思う。目撃証言が異なるのは、見せたい姿に思いこませることができるからだと思う。本当に姿を変えられるのなら、カメラのない会場は選ばない」  僕は確信した。  姿を変える能力ではない。  おそらく、声や文字。  言葉であるものが使われるのだ。  詐欺師に相応しい能力だ。  だから、殺し合わせることができた。   言葉で操って。  「インターネットを使ってでも、能力が発揮出来るというのか。そんなばかな・・・」  犬は驚く。  何を驚く。  刀になる女がいるくらいだ。  それにくらべたら大したことはない。  「・・・ネットでは能力は限定されて、僕やお前みたいな【疑う】タイプには効かないで、ガキみたいな騙されやすいタイプだけに軽い暗示をかけるのだと思う。この人は信じられるとか、好感が持てるとか。ただ、思っていた以上にガキには深く入って僕も驚いた」  僕はそう言いながら、本気で怯えたことを思い出す。  戻らなかったらどうしようかと思った。  まさかガキがあんなにもこの手のことに弱いとは・・・。  どれだけ精神をオープンにしているんだ。  「大丈夫なのか」  犬は心配そうにガキを見た。  イラっとする。  お前が心配する必要はない。  「入りやすいヤツはその分抜けやすいはずだから大丈夫だ」  僕は言う。  そのはずだ。  むしろ、なかなか入らないヤツの方がこの手のモノにハマると抜けられない。  「・・・書いてあるのがすごく良い言葉だと思った。この人に会いたいとか・・・思ったよ」  ガキがポツリと言った。  「・・・すごく好きだなぁ、この人は俺をわかってくれるって・・・何故か思ったんだ」  ガキは少し怯えていた。  「感情ってこんなに簡単に動かせるものなのか。俺、怖いと今思っている」  そう言った。  「感情を動かすって程のことでもない。・・・それは好感だ。ちょっとした詐欺師なら誰でも出来る・・・好感を持てば人は相手を信じてしまうからな。でもそれをネットのわずかな言葉でやってのけるのは【能力】だな」   僕は言う。  脳にダイレクトに言葉が入る。  それは捕食者の能力だ。  相手を肯定する言葉を、目から脳に直接送り込むのだろう。  好感と言うものがあれば、人は相手の言うことを全て好ましいと思う。  間違ったことをしていても「何か理由があった」と思いこむ。  詐欺師はまず相手に好かれることに全力を尽くす。  人は信用出来る人を好きになるのではなく、好きだから信じたいと思うからだ。    「今お前が感じているのは勘違いだ。こわがらなくてもいい」   僕は言った。  いや、だが、人はそれが好きなのだと思い込んだから好きになることも多い。  そう、例えば「一目惚れ」とか。  外見が好ましかった、そこからはじまることもある。  ガキが僕に、引き寄せられたのもそこからだ。     「勘違い」  自分が言った言葉に苦笑する。  ガキの想いは勘違いから始まっている。  好感とはそれだけおそろしいものでもある。  ガキが感じる恐怖は当然かもしれない。     「コイツは自分に好意を持つ者をネットで集めて・・・殺してるんだ」   僕は断言した。  そして、どうやったらソイツに近づけるかも、今思いついた。  「・・・ガキ、お前がコイツに近付くんだ」  僕はガキに言った。      

ともだちにシェアしよう!