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理由 6
「・・・もう・・や、もう・・・いいだろ」
オレはベッドから這い出て逃げ出そうとする。
四つん這いのまま、逃げ出そうと。
もう何時間抱かれているのかわならない。
でも、後ろに挿れられたそれを揺すられたらもう駄目だ。
そこから広がる快感に、自分から腰を振ってしまう。
気持ちいい。
もっと擦って。
背中に唇を落とされ、吸われる。
甘い疼痛。
「あっ・・・はぁっ」
オレはすがりつくものを探す。
後ろからされると、深く入るのにすがりつけない不安感がある。
顔も見えない。
でも、片腕をなくした嘘つきはこちらの方がしやすいのか、背後からが多くなった。
一番好きなのは座ったまま背後からつながることで、挿れながら、オレの前や乳首をたっぷり弄るのがいいらしい。
オレもこの姿勢だと自分でも動けるのは好きだけと、すがりつけない腕の行き場に怯える。
多分、嘘つきはそんな不安なオレを見るのも好きなのだ。
嘘つきを求める腕がシーツしか掴めず震えるのを、愛しげに見ているのを見たからだ。
最後の最後は前からオレに挿ってくる。
オレが必死ですがりつく度に、嬉しそうに笑う。
コイツは・・・コイツは・・・意地悪なのだ。
「も、ゆるし・・・て」
オレはとうとう根をあげる。
ビッチで鳴らしたオレがだ。
気持ちいい、自分からも腰を揺らしてる。
欲しくて欲しくて、締め付けて揺らす。
時折真っ白になる感覚がやってくる。
でも、もう終わりたい・・・終わらせて・・・一番上までイかせて・・・。
嘘つきが満足げに笑ったのがわかる。
ムカつく。
ムカつくけど・・・お願い・・・して。
連れていくための動きが始まった。
オレも必死で動く。
「ああっ・・・イイ・・・イク・・・ああっ!!」
オレは高い声をあげた。
白濁が迸り、中でもイったのがわかった。
一番深いところに引きずり込まれた。
甘くて強烈な光の中に。
「毎晩毎晩気絶するまでやるのやめてくれ」
オレは苦情を申し立てる。
起き上がれないオレに代わって、嘘つきはていねいに身体を拭いてくれてるが、思いっきり中に出されているし、掻き出したところでやはりシャワーでちゃんとしないとだめだし。
嘘つきは眉をひそめる。
そしていやらしい手つきで乳首を弾いた。
「はあっ・・・やめろって。そうだよ、オレもめちゃくちゃ気持ち良かったよ。でもな・・・やめろよ。するな・・・とは言わないけどな、ちょっとは気を使え!!」
オレは感じて喘いだ後、慌てて言う。
オレはどっちかと言うと、ヤり殺されたい方だ。
セックスで死ねたら最高、とか思う。
でもな、でもな。
「隣の部屋にあの子やボーヤがいるのによがり狂いたくないんだよ!!頼むから!!ちょっと加減してくれ!!」
オレは怒る。
まあ、あの子はいい。
良くも悪くもセックスには無関心だ。
きっとアイツに抱かれる時は可哀想にずっと泣いているんだろうけど、他人の性はわりとどうでもいいようだ。
オレが良いのなら気にもならないだろう。
でもな、オレにはあの子は身内同然なんだよ。
妹や母親の前でセックスできるか?
オレはドスケベたけど、変態ではないんだよ。
それに可哀想なのは少年だ。
捕食者相手に毎晩可愛がられていただろうに、禁欲生活させられている上に、こんなの隣の部屋から聞かされてたら可哀相すぎる。
嘘つきは面白くない顔をする。
自分以外の人間にオレが気を使うのが嫌らしい。
バカバカしい。
嘘つきに気を使ってやったことは一度たりとてないし、これから先も使ってやることなどないのに。
「いいな・・・とにかくゲームが終わるまではセーブセックスだ」
オレは言い聞かせる。
嘘つきは納得しない顔だが、意外とどうのこうの言ってオレには甘くなった。
一緒にあの土地に行くことを伝えてからは。
多分、守ってくれる、と思う。
オレはヨロヨロと立ち上がった。
ホテルのガウンを羽織る。
部屋が何部屋もあるようなホテルに泊まったことなどなどなかった。
こんなガウンがあるようなホテルも。
「あの子を見てくる」
オレはいぶかしげな嘘つきに言った。
ただでさえ身体が弱いのだ。
監禁生活で体調を崩してないだろうか。
嘘つきはおもしろくなさそうな顔はしたが止めなかった。
部屋のドアをそっとあける。
あの子と少年は2つ並べたベッドで寝ていた。
少年は布団に潜ってしまっている。
まあ、コレほど安心な組み合わせはない。
本来なら17才の少年と30才の女が同じ部屋のくっつけたベッドに寝ているのはあまりよからぬことなんだろうけど。
少年はあの子を何かあったら守ってくれるだろうし。
あの子は眠っていた。
おでこに手をやる。
触られるのは好きではないだろうけど、寝ている間だし、体温が知りたい。
ピクリと身体は震えたが、目をさまさなかった。
熱はない。
明日は何か食べれそうなものを買ってこよう。
お菓子を少しくらいしか今日は食べなかった。
アイツと出会った翌日にこの子と出会った。
アイツがこの子に夢中なのはその日にわかった。
オレがアイツを好きになる前からアイツはこの子に夢中で。 アイツの家に出入りしている内に、オレも到底一人では生きられないこの子の世話をするようになった。
アイツがこの子を愛している理由はわかる。
オレもこの子を愛しているからだ。
アイツとは違う意味で。
この子の価値は優れた頭脳でもない。
特殊な能力でもない。
少なくともオレ達にとっては。
可愛らしい姿はアイツにはドストライクかもしれないけれど、愛している理由ではないはずだ。
この子はここに来てから何度もオレに切々と訴えた。
「彼をあなたに返す」と。
「あなたが彼に挿入すれば良い」と。
空気を読まないで嘘つきの前で言うから、嘘つきはずっと不機嫌な顔をしていたけどな。
本気で言っているんだ。
彼女はおそらく、ずっと考え続けてきたのだ。
アイツに告白し、アイツが狂喜したその日からずっと。
何がアイツに一番いいかを。
何年も何年も真剣に考えて。
考え続けて。
オレにアイツを渡そうとしたのだ。
バカな子だ。
この子をアイツは何度抱いたのか。
それはこの子にはひどいことでしかない。
もうしないと約束して、それでも何度も破られて。
それでもこの子はアイツといたのだ。
何度も許して。
それでもアイツと離れられなくて。
そんなに愛しているのに別れると言われても受け入れた。
アイツが願ったから。
それでも別れたくせにアイツはあの子を手放さなくて。
それさえこの子は許したのだ。
そして今、この子はそこまで愛した男をオレに渡そうとしている。
その方がアイツが幸せになると確信したからだ。
必死で考えて。
人の感情など理解も出来ないくせに必死で考えて。
オレとアイツが幸せになることだけを本気で望んでいるのだ。
痛みがないわけではないだろう。
痛みよりもそれが必要だと思っただけだ。
感情が苦手な彼女は、それは混乱を引き起してしまうのに。
人の何倍も苦しむのがわかっているのに。
好きだと言う気持ちさえ、むしろ苦しみになってしまうのに。
それでも手放さなかった想いをこの子は手放そうとしているのだ。
この子に勝てないことは知っている。
絶対に勝てないのだ。
想いの純度がこの世の基準じゃない。
だから、オレもこの子を愛しているのだ。
髪を撫でてやりたくなったのを我慢して、囁いた。
「愛してるよ」
そして、オレはもう一つのベッドの震えている布団の塊に声をかけた。
「・・・ごめんね」
オレは気の毒で仕方なかった。
布団の下で少年が何しているのかを悟ってしまっていたからだ。
「なぁ・・・口で抜いてやろうか?」
オレが囁くと布団がさらに震えた。
「浮気にならないと思うぞ、それくらい」
オレが言ったら布団はさらに震えた。
そして嗚咽する声が聞こえてオレは焦った。
えっ、オレ泣かせでしまった?
何で???
オレはめちゃくちゃ焦った。
オレは慌てて布団を剥いだ。
いや、泣いてるって、それ、何?
布団の下の少年が身を固くしたのはわかったけれど、心配だったのだ。
少年はやはり・・・オレが買ってきた短パンと下着をずり落ろして、可哀相なくらい勃ちあがったそれを自分で握っていた。
聞こえる声に耐えられず自分でしてたのだろう。
エロかわいい。
思わず散々した後なのにガン見してしまったのは許して欲しい。
身体もいいし、背も高いし、この子は17とは思えない大人な外見なので、見た目はオレには完璧ドストライクなのだ。
クラクラした。
でも涙をこぼしながら嗚咽しているわけで。
恥ずかしいし、辛いし、したいしで・・・。
頭の中ぐちゃぐちゃなんだろうな。
「泣くなよ・・・アイツには自重するように言ったから。ツライよなぁ。ゴメンなぁ」
オレは謝る。
可愛い。
ガチガチのそこを咥えてやりたい。
舐めてやりだい。
一度したことがあるだけに、少年の身体に対する欲求が出てきてしまうが我慢する。
てか、あれだけ嘘つきにされてまだそんな気分になれるオレってなんなの。
「あの人じゃないとやだ」
少年はすすり泣いた。
「はい?」
オレは聞き返した。
「あの人がいい。あの人だけがいい」
少年は泣く。
やりたすぎて、頭がぶっ壊れているのがわかった。
オレがみているのに構わず、必死で手を動かしているのに、イけない。
泣きながら擦る。
先を親指でいじる。
「ううっ」
少年はまた泣く。
つらそうに。
うまく自分ではイケないのだ。
でもオレとするのは嫌なのだ。
自分ですることもなかっただろうしなぁ。
毎晩毎晩されて。
「あの人がいい」
少年は泣く。
ポロポロ泣く。
透明な涙がいくらでも溢れてくる。
「嫌だ・・・イきたい・・・」
切なげな声がこぼれた。
ああ、可愛いなぁ。
畜生!!
オレのにハメてやりたかった。
オレは少年に触れようとしたが、少年が怯えたように身体を強ばらせたのでやめた。
「大丈夫、しないから。でも、ツライだろ。少しだけ手伝うよ。大丈夫、触らないから。目を閉じろ。自分で擦ってみろ」
少年は目を閉じ自分で再び扱きはじめた。
「オレの声だと思うな。好きな男だと思って聞けよ・・・あっ・・・気持ちいい」
オレは耳元で囁いてやる。
濡れた声で。
テレフォンセックスなら勿論何度か楽しんだことはある。
ピクン、少年の身体が揺れる。
「はあっ・・・あっ・・・はあっ」
吐息を耳の側で吐く。
吐息が首筋にふれて、少年か身体を震わす。
少年が苦しげに呻いた。
手のスピードがあがる。
「んっ・・・はっ・・・はぁっ・・・あっ」
オレはヤらしく喘いでやった。
乳首の近くで息吹きかける。
舐めたいけど我慢。
吐息だけ。
それにも少年は反応する。
少年は夢中で腰まで動かして扱く。
塗れた音を立てて少年の手の中で擦りたてられていく。
イケそうだな。
これなら。
ホント可愛い。
でも手は出さない。
出さないよ。
出したくなるけど。
「あんたが好き。好き。愛してる」
少年が口走る。
捕食者を抱いてるつもりなんだろう。
抱かせてもらえることがあるのかは疑問だが。
「イかせて・・・お願い・・・」
オレが髪を撫でながら囁くと少年は実に素直に射精した。
お願いしたら何でもしてくれそうだ。
ベッドでこの上もなくこの少年が優しいのは知っている。
労るように触られ、大事に大事に扱われ、心の底から尽くされるように愛された。
全身で求められた。
あんな抱き方されたら、忘れられなくなってしまう。
ホッとした顔で息を荒げてベッドに突っ伏している少年に、キスしてやりたくなるのを我慢する。
可愛い。
ホント可愛い。
捕食者は抱かれたことがあるのだろうか。
無さそう。
見るからにガチガチのドSのタチだもんな、あの男。
追い詰めて、泣かせて、イかせまくる、ヤらしい、たちの悪いセックスしそう。
嵌まった奴が奴隷になるみたいな。
少年を気の毒に思った。
オレは役得で、少年のイく時の顔を楽しんだ。
やたらイキ顔を見たがるヤツが多いのは疑問に思っていたが、なるほどねぇ。
コレはいい。
めちゃくちゃスケベだ。
低く呻いた少年の顔が、セクシーだった。
上気した顔が快楽に蕩ける。
何、コレ。
可愛い過ぎるだろ。
舐めまわしたくなってしまった。
でも、オレは大人らしく少年にティッシュを渡した。
てか、大人はオナニーの手伝いなんかしないけどな。
「何があっても絶対に帰してやるからな」
オレは囁いた。
「スーツの元にあんたは帰らないの?」
正気に戻って恥ずかしくなったらしく、真っ赤になりながら少年は話をそらすように言う。
可愛い。
「なんで?」
捕食者、こんなんでも、オナニー見ただけでもオレを許さないだろつなぁと思いながらオレは聞き返す。
「・・・スーツを抱くって言ってたじゃないか」
少年が言った。
何故かドアの外で何かが落ちるような音がした。
嘘つきのヤツ。
見張ってたな。
「なのに詐欺師とどこかへ行くのか?」
少年は手の精液をふき取りながら言った。
「スーツが好きなんだろ。なのにもういいの?」
少年の目が真っすぐすぎて、汚れたオレには辛すぎる。
「色々あんだよ・・・」
オレは言葉を濁した。
オレはアイツが好きだ。
それは今でも変わらない。
ずっと側にいたからな。
もう恋とか愛だけで済まないものになってしまっている。
あの身体に触れたいと思うけど、触れなくても構わない。
愛されているのは知っている。
オレの気持ちとは違うけど、とても愛されている。
そしてそれが辛くて、でも、嬉しい。
ずっと一緒にいたんだ。
オレとアイツとあの子で。
せめてあの子が恋したのがオレだったら良かったのに。
そしてアイツがオレを抱けたなら。
オレならセックスは家庭に持ち込まない。
あの子を大切にして、アイツとセックスして、オレ達は上手くやれたかもしれない。
アイツはオレが好きなあの子なら、決して抱いたりしないからだ。
愛している女が自分を愛してくれていることをしっているから・・・。
「色々あんだよ」
オレはもう一度少年に言った。
「・・・詐欺師が好きなの?酷い人なのに」
少年が聞く。
「いや、お前の捕食者だってなかなかなもんだろうが」
そこはしっかり突っ込みたい。
嘘つきはド変態の殺人マニアだが、皮剥拷問が趣味なあの捕食者と違って酷いサディストではない。
その分性根はくさり果ててるけどな。
「・・・そうだけど・・・」
少年は俯く。
否定しないんだね。
まあ、出来ないよなぁ。
あれは酷い。
ホント酷い。
正直なんで惚れてんのか全くわからん。
「スーツが言ってた。従属者になったから捕食者に惹かれるのかもって。だから、今のその気持ちはそう思わせられているだけなのかもしれないよ?」
少年は必死でいいつのる。
可愛いなぁ、オレをアイツのとこに返したいんだな。
「じゃあ、お前が捕食者好きなのもまやかしか?」
オレは逆に聞く。
「俺は一目惚れだったから。従属者になる前からあの人が好きだったから」
少年は胸をはる。
なるほど。
アレに一目惚れするってのはお前、結構どうかしてるぜ。
オレは呆れた。
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