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理由 5

 窓ガラスを割りながら部屋に飛び込んだ。  身体の肉をするどいガラスの破片が切るが、気にしない。  飛び込むと同時に、身体に銃弾が何発も撃ち込まれる。    サイレンサーをつけられた銃の間抜けな空気音だけがした。    ありがたいことにマシンガンじゃない。  ただの鉛の弾を撃ち込むだけの銃じゃ、僕を止められない。  僕は撃たれながらゆっくりと歩く。  撃たれる度に身体が揺れるが何、たいしたことはない。  ガキとは僕は違う。  ガキは死なないだけの人間だが、僕は全く異なる化け物だ。  捕食者は身体を切り離されようと、細胞の一片になろうと死なないのだ。  何故、政府が僕達捕食者を恐れるのかの意味がここに在る。  誰も捕食者を止められないのだ。  人間では無理だ。  ただ、脳を撃ち抜かれた時は一瞬眩暈はした。  後、痛い。  そう、痛い。    僕達には痛覚はあるのだ。    傭兵は5人。  一人は人質の男の隣りに立っていた。  気に入らない顔をした中年男が人質だった。  コイツがCEOか。  大して興味は持てない。  でも感心したのは、その傭兵達がCEO以外のすべての人間を皆殺しにしていたことだ。  皆、椅子に座ったまま頭を撃ち抜かれて死んでいる点から、突入と同時に全員撃ち殺したのだ。  プロだ。  沢山の人質の世話をする手間を省き、必要な人間を拉致する。  コイツらプロだよ。  いくら銃を撃っても平然としている僕に傭兵達はあせった。    そろそろお返しだ。  痛かったんだよね。  僕は右手を変化させた刀を振り上げた。    さあ、僕と遊ぼう。  僕は笑った。  コイツらは間違いなくプロだった。  銃が効かないとおもったら、迷い無く手榴弾を投げてきた。  こんな室内で。  いい度胸だ。  僕は軽くそれをつま先で弾き、割れた窓の外へ撃ちだした。  軽くつま先でトラップし、サイドに飛ばしたのだ。  ガキがサッカーサッカーうるさくて・・・球遊びにいやいやつき合わされていたのは意外なことに役にたった。  ああ、この僕が公園のグラウンドでガキが喜ぶからって理由で、球遊びにつきあっていたんだよ。  サッカーなんてくだらないのに。  爆発音がした。  宙で爆発したのか、それとも地上の人々の上で爆発したのかは知ったことじゃない。  そういうのを気にするのは犬の仕事だ。  正義の味方は悪者を殺すのが仕事だからだ。    僕は手榴弾を投げたヤツに瞬間で間合いを詰める。  僕はガキみたいに派手には動かない。  相手の呼吸の隙間で動く。  息する間に僕はソイツのとなりにいる。  次のソイツが息をはく瞬間、ソイツの身体は真っ二つになる。  脳天から股間の先まで綺麗に割れた。  綺麗な断面をさらし、詰まっていた血を溢れさせながらソイツは倒れた。  水の入ったペットボトルを真っ二つにしたように血はあふれた。  まずは一人。  呼吸を読む。  人間は呼吸に合わせて動く。  瞬きさえも、呼吸にコントロールされている。  隙間に動きさえすれば、ほら、僕は簡単にソイツの隣りにいる。  瞬きの隙間で動くから。  気付かれることもなく。  今度は首を斬り落とす。    驚いた顔のまま、首が落ちる。  血が噴水のように吹き出す。  恐怖を感じることさえなかっただろ?  これで二人目。  僕は返り血さえ浴びない。  恐怖と緊張が室内に満ちた。  それは、室内にいる全員の呼吸を知らない間に同調させる。  呼吸を今では肌で感じ取れる。  全員が同じリズムで呼吸しているのが聞き取れる。  呼吸の隙間で動け。    銃の引き金をひく瞬間、僕を狙う為動く瞬間。  すべては呼吸が支配するから。  呼吸の隙間。  僕は銃弾をすり抜け胴体から真っ二つに斬る。  胴体か床に落ち、しばらくして下半身は崩れ落ちた。  3人目。  呼吸の隙間。    僕は背後に忍び寄り、背中から心臓を刺す。  血液は面白い位吹き出した。  ホースで噴射したみたいだ。  これで4人目。  ガキの方が僕より速いだろう。  でも、呼吸さえ読めれば、スピードはそんなには必要ないのだ。  まあ、これは経験値と、才能の差だね。  僕はこの分野ではトップクラスを自負している。  ほら、もう人質を抱えている一人だけになった。    コイツは殺さない。  連れて帰って必要なことを聞き出す。  ここで他の奴らと殺されていればよかったと思えるような聞き方で。  僕はにっこり微笑んだ。    ガチガチ震えながら、ソイツは抱えている男の額に銃口をこすりつけ、叫んだ。  それはもう、言葉ですらなかった。  別にこの人質の男がどうなろうと僕には全く構わないのだが。  このCEOとやらの脳みそが床に飛び散ったところで、あまり僕には意味はない。  もう少し、いい男だったら・・・もしくはもう少し、生き残るために全力をつくすような煌めきを見せてくれたなら、少しは僕のお楽しみにはなっただろうけど。  高級なスーツに失禁の染みをつくってぐずぐず泣くのは・・・煩いだけでつまらない。  僕は殺しがセックスぐらい大好きだが、誰でも良いような軽いタイプではないんだ。    コレはさっさと最初に殺しておきたいタイプだ。  僕は溜息をついた。    まあ、いいか。    僕は容赦なく動いた。  CEOの左腕を切り落とした。  なぜなら、傭兵はそこの腕を掴んでいたからだ。     そして、トンとCEOの身体を蹴れば、CEOの身体は傭兵からの拘束かなくなり、床に倒れた。  掴んでいる場所を斬れば、もう捕まえられない。  手錠された人の腕を切ったらもう手錠ができなくなるのと同じ理屈だ。  CEOは悲鳴をあげた。    せっかく自由にしてやったのに、せっかく助けてやったのに煩いヤツだ。  殺されてたかもしれないのに腕の一本位でぎゃあぎゃあと。    切断した腕を持ったまま、傭兵が喚いた。  自分が掴んでいるのがただの腕で、もう人質を掴んでいるわけではないことが納得できないらしい。  本体から切り離してしまえば、腕は本人ではなくなり腕でしかなくなる。  腕というものは、身体に繋がっていてはじめて、本人であるわけだ。    ちょっと哲学的な話だな。    ソイツは悲鳴をあげながら銃口を僕に向けた。  無駄だってば。  撃たれてやっても良かったが、さっさと終わらせたくて僕は銃を手首ごと切り落とした。  まあ、これくらいでは死なないだろう。  僕は悲鳴をあげる傭兵の顎を掌底で打ち抜いた。  脳が揺れて意識がなくなる。  パタン  ソイツは倒れた。  それと同時に犬が部屋に飛び込んできた。  まあ、予定通りだ。    「遅い。僕はすぐに来いと言ったはずだ」  僕は冷たく言い放つ。  予定通りだが、そう言いたくはないものでしょ。  犬は片腕を無くして、悲鳴をあげているCEOに目をやり頭を抱えた。  「殺さなかったよ。それに綺麗に斬ってるからくっつくかもね、腕」  僕は言った。  僕にしてみれば大サービスだった。    「ありがとう、と言うべきなのか」   犬が苦々しく言ったので、僕は笑顔で応えた。  「どういたしまして。・・・じゃあソイツを運ぶぞ。止血をしてやれ」  僕は機嫌がよくなった。  もちろん止血をしなけれはならないのは、死んでもらったら困るのは傭兵の方だ。  全部しゃべってもらわないといけないからだ。  CEOはどうでもいい。  正義の味方として悪者を殺したら少し気分がよくなった。  これからする訊問もとっても楽しい。  何より、ガキを取り戻せる道が見えてきたのはとてもいい。  ガキの気持ちの良い穴に突っ込んで気持ちよくなりたかった。     キスしてやって、泣くまで可愛がってやりたかった。  髪を撫でたい。  イキ狂わせたい。  沢山泣かせて、宥めるように優しく抱きしめてやりたい。  ガキを抱きたい。  さっさと取り戻してやる。  セックスはもちろん大事だが、下らないサッカーに付き合わされたり、  つまらない映画を見させられたり、  下らないゲームをさせられたり、  なにが面白いのかもわからないことで楽しそうにしてたり笑っているガキの姿だとか  朝、絶対に僕より先に目覚めないガキの寝息や寝顔だとか  そんなモノがないのがつまらないって言うのは・・・ガキにも教えてやるつもりはない。  ガキは僕のだ。  僕だけの。  

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