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理由 4
ガキと女が連れ去られて一週間近くなる。
僕のイライラは限界近くなっていた。
違う姿に見せることが出来る上、洗脳も可能性な詐欺師の能力は潜伏されると厄介なのは判っていた。
全く手がかりがない。
唯一といえる手がかりは、ガキが洗脳された時に呟いていた詐欺師が行う予定だったデカい会場でのセミナーだが、今更そこでするとは思えない。
会場はキャンセルされてはいないことを確認しているが、こちらにバレているのにわざわざその日その会場を使うとは考えつかない。
一応、何があっても対応出来るようにしているが、のこのこ会場に現れることは・・・ないだろう。
僕は決断した。
追うべきなのは、詐欺師ではなく傭兵の方だ。
正しくいえば、傭兵が使った手下の方だ。
まだそちらの方が確実に追える。
奴らが詐欺師と常に行動していないことはわかっている。
捕まえて詐欺師についてわかることを吐かせてやる。
楽しい楽しい拷問を心ゆくまで行ってやる。
そのためには一匹でもいいから捕まえないと。
というわけで現在。
僕はビルの前に犬といた。
「・・・管轄外の事件になるのだが」
犬は一応言ってみるくらいのノリで言う。
「知ったことか!!」
僕は怒鳴る。
誰でもいいから刻みたい位イラついている。
一週間誰も殺してないし、セックスしてない。
我慢が限界だ。
ガキがいないと困る。
犬は肩をすくめた。
止める気などないくせに。
多分、傭兵達の本命の仕事はこちらだったのだろう。
来日しているグローバル企業のCEOの誘拐。
金になる仕事だ。
裏の情報網からこれにたどり着いた。
詐欺師の行方はさっぱりわからないのに、こっちのは簡単にわかったのが笑える。
まあ、分かったところで・・・。
僕のところに情報が入ったのはほんの20分前。
現場についたとは言え動けるのは僕だけだ。
ろくな装備もありはしない。
多分、このビルの一番上にある会議室で会議してたCEOは今身柄を確保されたところだろう。
そんなヤツがどうなろうと知ったことではないが、傭兵を一人捕まえて締め上げる必要がある。
「さっさと一匹捕まえるぞ」
僕は怒鳴った。
「CEOは殺さないでもらえると助かる」
犬はそうとだけ言った。
「気にはしといてやる」
僕は言った。
僕がエレベーターで上がっていったのは隣のビルの方だった。
30階ほどある建物の最上階。
屋上に入るの立ち入り禁止にしているドアを、右手を刀に変えて、切り捨てて開ける。
今回は最初から全開でいく。
本来、僕は、暗殺、が、専門。
こんな、表だった荒事は僕の流儀じゃない。
影から忍び寄って殺すのが僕のやり方なのに。
本来、身体を張るところはガキの仕事なんだよ。
暗殺、が、専門、なんだよ。
くそ。
僕は屋上の柵をのりこえへりに立つ。
右手を刀にしたまま、見下ろす。
30階から見下ろすとすべてが作り物に見えた。
国道沿いを行き交う車と歩行者の群れ。
隣りのビルとの距離は1メートルもなかった。
「椅子なんて何に使うんだ?」
犬が言われた通り、このビルの受付から椅子を借りて持ってきている。
柵の内側に犬はいる。
僕は窓を指差した。
隣のビルの一つ下の階。
ブランドがすべておりている部屋だ。
あそこで会議があり、今は傭兵達によって制圧されているはずだ。
CEOが連れ出される前にあの中に入りたい。
「お前の馬鹿力であの窓ガラスに投げつけろ。何、割れなくてもいいひびが入ればそれでいい」
僕は言った。
ほんの2メートルほどだろう。
知らないけど。
「こんなところから椅子なんか投げたら・・・、すぐ横は国道なんだぞ、下の人間に当たったら・・・」
犬がほざいた。
「・・・知ったことか!!」
僕は吐き捨てた。
ガキを連れて行かれてるのに他の人間のことなどしるか。
ガキを取り戻して、ガキをたっぷり抱いてやる。
その為になら何でもする。
「・・・女、どうなってるのか心配じゃないのか?お前みたいな変態に好きにされているかもしれないんだぞ?触って、舐められて、挿れられて。可哀想にな」
僕は言った。
僕が言い終わる前に、犬は思い切り椅子を掴んでいた。
憤怒に犬の顔が歪んでた。
血管の筋が顔にいくつも浮かんでいた。
犬じゃなくて鬼だな、と思った。
190近い巨体が太い腕を振り上げ、身体をしならせた。
まるでボールでも投げるように椅子は投げられた。
吸い込まれるように窓へと椅子は飛んだ。
グワシャン
音と共に椅子が見事に窓に叩きつけられた。
倍化ガラスだぞ。
犬の馬鹿力はたいしたものだった。
コイツ・・・。
本当に女の犬だな。
僕は感心した。
さらに感心したのはちゃんと窓ガラスか割れたことだ。
椅子は30階下に落ちて行ったが知ったことではない。
砕けたガラスもきらめきながら落下していったが知ったことではない。
誰かか死んでも殺したのは犬だ。
正義の味方の僕じやない。
まあ、満足な大きさに割れてはいないか、これで十分。
「犬、出来るだけ早くこい」
僕は犬に命じた。
そして僕は屋上のへりに立つ。
隣のビルの階下の部屋を見つめた。
そして、跳んだ。
30階から、割れたその窓に向かって。
これくらいの高さだと、目下の光景はすべて作り物に思えた。
瞬間の浮遊感に僕は酔いしれた。
流儀じゃないが、やってやる。
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