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約束の場所 6
だからいいと思った。
だからいいと。
だからいい。
あの男は・・・与えてくれた。
あの男が欲しかった。
手放したくなかった。
でも何一つ与えていなかった。
奪っただけで。
監禁し、レイプし、死体遺棄を手伝わせた。
何もしてあげてない。
何も。
何も。
嘘以外は与えていない。
男はくれた。
取り上げられた空と大地を取り戻してくれた。
確信がある。
あの場にあの男がいたならば、あの写真は奪われていない。
それどころか、教団の犯される子供の存在を知っていたならば見ないふりなどせず、救おうとしてくれただろう。
・・・与えられた。
与えられた。
今与えられた。
だから返そう。
この男に返そう。
この男の世界を。
だから・・・。
手足を縛り付けて部屋に置いていくことにした。
この男が愛する者のところに帰れるように。
ドアを閉めた。
これから教団を消滅させるのだ。
この男のいる世界にあんなモノは必要ない。
ほんの一つでも悪いモノは取り除いておく。
悲しいと思った。
言いたかった。
「愛している」と。
でもこの唇から零れるのは嘘だけ。
本当のことは何一つ話さない。
あの男は縛られて置いて行かれる時でさえ最高だった。
怒って怒鳴って・・・。
こんなに面白い人がいるなんて。
こんなに怒ってくれる人がいるなんて。
笑いながら虐殺するための場所へ向かいながら・・・少しだけ泣いた。
誰もが奪いに来た。
「あなたは美しい」と。
男だけは何も奪わなかった。
与えられた。
奪ったのに。
差し出したのはこちらだ。
何の価値もない心を捧げたのはこちらだ。
困ったようにそれを受け取り、あの男は一緒に生きていこうと言った。
与えられるものは人のいない土地で生きるこの身体とこの心だけで、その為に男の全てを棄てさせることになるのに。
全てを与えてくれようとした。
わかっていた。
この男を抱こうともしない、他に誰か他の女を愛しているようなヤツのほうが、それでも自分よりもまだ男に相応しい。
その相手の女まで知っていた。
こんな女の方が価値があるとは思えなかった。
誰よりもただ一人、男を愛しているのに。
男が愛しているのは自分ではない。
でもどんなに愛しても、愛しても、与えられるものがこんな自分しかない。
化け物である自分しか。
あなたは自分も化け物になろうとしてくれた。
誰もしてくれなかった同情をくれた。
それは愛ではなかったけれど、十分だった。
それは愛以上のモノだった。
愛と言う名で奪っていくだけのものとはちがって、それは失ったものを取り戻してくれるようなものだった。
あなたといると、空が広い。
あなたといると、大地が広い。
あなたといると、楽しい。
あなたといると、幸せでした。
あなたとそこへ行きたかった。
行けるのならば。
あなたが幸せになりますように。
そう願う言葉も愛の言葉もあなたに届くことはない。
化け物であることが悲しかったのは初めてです。
あなたに言葉一つ届けられないから。
でも、どうか。
あなたが幸せになりますように。
沢山殺して、殺し尽くして、その血の中にいるときでさえ、この心はそう思っています。
届かない言葉は嘘のように美しくはなかった。
嘘のように誰かを支配することもない。
それでも願い続ける。
この世界から消え去る日まで。
あなたが幸せになりますように。
END
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