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オマケ 出口のない部屋 1

厳密にはBLじゃないのですが、載せておきます スーツと情報屋と彼女のお話  リビングの扉を開ければ、彼女はまだ起きていた。  テーブルでノートを開き何かを懸命に書いていた。  聞いたところで理解のできない、数学の何か、だろう。  部下に彼女を送らせたのは詐欺師の死を確認した直後だった。  つまり、19時には帰ったはずだ。  今は朝の7時。  彼女は寝ていない。  「眠らないと・・・」  私は彼女に声をかけた。  彼女は無心な様子で、その声に反応しなかった。  彼女の部屋もベッドも用意してある。  彼女の家政婦に来てくれるようにも頼んである。  寝るように促してもらうことも頼んでいた。  私はため息をつく。  彼女の身体は弱い。    無理はきかない。  また寝込むことになる。    「眠らないと」  耳元で声をかけた。  彼女はビックリしたように身体を震わせた。  そして顔を上げた。    ふわりと笑った。   無表情な顔が一変する。  その柔らかな笑顔だけで、彼女は私の呼吸を止める。  昔からずっと。  「おかえり」  彼女が言った。  昔一緒に住んでいた頃みたいに。  「・・・ただいま」  私は応える。  彼女にはまだ言っていないが、もう彼女を家に帰すつもりはない。  もう、離れられないと悟ってしまった。    彼女はここで私と暮らす。    ずっと。  「眠らないと。また熱が出る。研究が大切なのはわかるが・・・」  私は彼女からノートをとりあげる。  寝顔だけ見るためにかえってきてよかった。    「・・・あなたを待っていた」  彼女は言った。  私は動揺を押さえこむ。  彼女は知らない。  まだ何もしらない。  アイツが彼女を人質にして会場前で解放した後、ホテルの一室で保護していた。  部下に護衛させて。  何の情報も与えてないし、テレビにあえて流した情報はカルトの集団自殺事件ということで処理させている。  彼女は知らない。    まだ知らない。  アイツが死んだことは。  「彼は行ってしまったのか?」  彼女は尋ねる。  もうその顔に表情はないが、シャープペンシルを落ち着きなくクルクルと動かしている様子に彼女の不安がわかった。  「・・・ああ。行ってしまった。あの男と」  私は低い声で言った。  行ってしまった。  それは嘘ではない。  彼女が思うような意味ではないだけだ。  私の腕から逃れて、あの男と行ってしまった。    「そうか。彼は彼を大切にするだろう。彼は彼だけには優しいから」  彼女の話し方は相変わらずでわかりにくい。    でも、彼女が詐欺師がアイツを幸せにすると信じているのはわかった。  「そう、なのか」  私は微笑んだ。  彼女は言葉の意味を読み取るのは苦手だが、表情はその凄まじい記憶力でデータとして記録している。   表情から感情を読み取る、バレなければいいが。     嘘はつけないが真実を隠すことは出来る。  「悲しいのか?・・・彼がいなくなって」  彼女は心配そうに言う。  表情は変わらないし、声の調子も一本調子だけども、わかる。  わかる。  彼女のことはわかる。  「ああ、悲しい。とてもとても悲しい」  私は声が震えてしまうのをこらえて、表情を出来るだけ変えずに言った。  「行かせたくなかった」  椅子に座る彼女の隣りに跪く。  小さな小さな彼女。  まだ中学生の頃からその容姿は全く変わっていない。     彼女の目が私を見つめる。  柔らかな光。  アイツの見透かすような目とは違って。  でも彼女とアイツは・・・どこか似ていた。  中学生位までは。    彼女の姿は15の頃のアイツを思い出させた。  あの頃、彼女も男の子のような髪をしていた。  人と上手くやれない彼女の髪をクラスメイトがバリカンで刈ったのだ。  彼女は押さえつけられたことには恐怖を覚えたが、髪に関してはどうでも良かったらしい。  気にもとめなかった。    そのまま、少年のような髪型にしていた。  アイツが怒り狂って、相手の女の子達をカミソリでツルツルにして問題になったのは・・・別の話にしておこう。    だが、その件に対してのみは私はアイツを一切怒らなかった。    私ならそれでは終わらなかったはずだからだ。  与える印象も顔立ちも違うのにあの頃の二人は・・・どこか似ていた。  彼女の姿に15才のアイツが重なる。      私は。   私は。  こらえきれなかった。   

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