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かわいいけど、じゃまだね
その日の黒杜は朝から調子が悪かった。
どことなく微熱っぽくて、ああこれは発情期だなと思って、メッセージアプリでお手伝い長の洋子さんと宗さんに発情期がきたので今日は部屋で過ごすことを伝え、お義父さんからもらったよく効くアルファ用の抑制剤を服用する。
そうすれば明日には外に出ても問題ないようになってるはずだ。
以前は発情期がきたら、ただ部屋にこもっていたので、アルファが我慢する必要はないと父に怒られていたっけ。
それでも他のオメガに迷惑はかけたくなくて、発情期のときは部屋にこもり続けた。
今はよくきくアルファ用抑制剤をもらってるため、一日たてばふつうにすごせるようになっているので、アルファ用抑制剤開発者に支援し製品化にこぎ着けたお義父さんさまさまである。
そういえば部屋の鍵を締めてなかったとそちらに意識を向けたところで、扉をあけて紅が飛び込んできた。
「黒杜さんが体調不良ってきいたんだけどたいじょう……」
おそらく黒杜が心配で全部の話を聞く前に飛び出してきたに違いない。
早く外に出るんだという前に、黒杜の理性が焼ききれた音がした。
次に我にかえったとき、黒杜はベットで紅をくみしいていた。
紅はすごく驚いた顔をしている。
理性がはやくはやくはなしてあげなきゃとおもうものの、からだはおもうとおりにうごかなかった。
「べにくん、すごくいいにおいがするね」
黒杜は紅の首筋に顔を寄せた。
紅は発情期明けだったため首輪をしていた。
それを残念だと思う気持ちと、ほっとする気持ちがせめぎあった。
「ほんとうにいいにおいだ……
メープルシロップの甘い匂い……」
黒杜は首輪のすぐ上に口付ける。
まだ足りない。
今度は首輪のしたの鎖骨のわきのあたりに強く口付ける。
「……っ……」
しろい肌に赤い花びらが咲く。
「きれいだ……」
黒杜はそれでも満足できず首輪をかじった。
紅の母方の祖父がプロデュースを手掛けているその首輪はかわいくてとても頑丈だ。
かじったくらいじゃびくともしない。
「かわいいけど、じゃまだね」
しばらく首輪をカジカジかじっているとおそるおそる声がした。
「黒杜……さん……?」
その声にはっとし黒杜をみるといつも強気なその瞳には薄い水の膜がはっている。
黒杜はそこで残っていた理性をかき集め、ベッドサイドの警報ボタンを叩くように押し、黒杜はころがるようにベットから落ちた。
そこからは、ベータの使用人が多く入ってきて、自分に鎮静剤が打たれたところで本当に意識が途切れた。
次に目をさましたときは一日以上たっていた。
目覚めたときにはお義母さんのルージュさんがベットのわきの椅子に座っている。
「目さました?もう発情期はおさまってるはずだけど、念のためお薬だよ」
起き上がると、薬と水を渡されてすぐに飲んだ。
「紅くん……は?
ぼく、こわがらせてしまったから」
黒杜はベット上で拳を握りしめた。
いままであんなことはなかったのに。
「大丈夫、大丈夫、今そこの入り口にいるから」
そこにはなんだか気まずそうに立っている紅くんがいた。
「「ごめん!」なさい!」
と、ふたりの声が重なった。
黒杜が紅を見ると、申し訳なさそうに紅は頬をかく。
「おれが洋子さんに全部聞いてから行動すれば黒杜さんに迷惑かけることもなかったから」
「僕こそ、もう少し耐えられていれば紅くんに怖い思いをさせるはことには……」
そこで黒杜がうつむいたところで意外なこえが聞こえた。
「こわくはなかったよ。
そりゃあ、突然でびっくりしたけど。
でも、いつものおれのことを考えておさえてくれてる反動だと思ったらなんだか嬉しかったというか」
と、紅くんが顔を真っ赤にしてもじもじしている。
「全身でもとめてくれてる黒杜さんはなんか色気があって……ぞくぞくした。
だから、今はまだ俺も学生だし、黒杜さんも学生だから無理なんだけど、いつか番にしてほしいなって……思った」
その言葉に黒杜も顔を真っ赤にする。
「うーん、この部屋エアコンききづらくなってるみたいねー。暑いねー。三人もいるからかしらー。
お母さんは先に部屋出るけど、すぐ入り口の前にいるから、お婿さんに挨拶したら紅も部屋出てきなさいねー」
ルージュがお手伝いの洋子さんみたいな口調で言うと、部屋から出ていった。
紅はそろりそろりとちかづいてきた。一メートルくらいあけて、こちらを見つめた。
抑制剤もよくきいているようでこの前のような衝動はない。
「その、こないだみたいなことはもうしないように心がけるけど……その……時がきたら、ぼくの番になってくれますか」
「よ、よろこんで……」
二人はその場でお互いに赤くなりうつむいたが、紅がそっとベットに近づき黒杜の手に自分の手をかさねる。
黒杜は顔をあげ、紅と見つめ合う。
ルージュがしびれをきらして、紅を強制回収しにくるまで、二人は手を重ねて見つめあっていた。
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