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幼馴染の変化
雄一side
佐久本雄一、高校二年生。
親父の仕事の関係で5年いたイギリス。
料理は合わないし、見た目も言葉もお前ら宇宙人かよって感じだし、これっぽっちも好きになれなかった。
俺がそんな態度だから、学校ではいじめはなかったけど、友達もいなかった。
そんなとき、一人の綺麗な女の子が俺に話しかけてきた。
『こんにちは。今日も一人?よかったら一緒に帰ろうよ』
何て言ってるか意味わかんねーし。とりあえずアイキャントスピークイングリッシュっつって、はねのけた覚えがある。
でもその子は困ったように笑ってから、遠慮がちに口を開いた。
「ンー…………ボク、なまえ、Recherll Anjewelry。オレのオカアサン、half、Japanese、オトモマチに、なってくりますか?」
優しく差しのべられた手を、あの時掴んでいなかったら、俺はイギリスをこんなに好きにはならなかっただろう。
「り、りつぇーら君?女の子は、僕じゃなくて。私だよ」
「ボクは、オンナノコ、チガウ。ユーイチ、いっしょオトコ」
「は!?」
この時のショックは割りと大きかった。
「ユーイチ、ボクのナマエ、言いにくいですか?」
「うん」
「じゃあユーイチが、オレにnicknameクダサイ」
「えー?るつぇーら?りちゃーら?だからー、ルリは?」
「ンー、OK. namingsense、ゼロカヨ」
「………………ネーミングセンスくらいの英語俺聞き取れるよ」
「Ahaha!バレちゃったカー」
あんなこといって、なんだかんだ気に入ったのか、クラスでルリというニックネームは一気に流行った。
今なら、リチェールって呼んでやれるけどね。
それもこれも、熱心に俺に英語を教えてくれたルリのおかげ。
ルリが怒ってるところや悲しんでるところを見たことがない。いつもに明るくて、なんでもできるからクラスでも人気者だし、授業をサボったり、適度にめんどくさがりだったり。
あいつ独特の柔らかい雰囲気がとても好きだった。
うちの家族ともあっという間に打ち解けて、毎日のようにうちに来ては俺に授業の内容を拙い日本語で説明してくれていた。
もう、ルリのことは家族も同然だと思っていたし、ルリも同じように思ってると信じていた。
「ルリ!お前はまたその傷なんなの!いい加減教えろよ!」
「いやー、ただの喧嘩だよー?あはは。まぁ見ての通り負けたけど」
だから信じていた分、初めてみる冷たく笑う表情に一線引いてしまったのを覚えている。
だからか、俺らが日本に帰るって言ったとき、「そうなのー。さみしくなるねぇ。でも、ゆーいちずっと日本に帰りたがってたもんね」っていつも通り笑うルリの顔が一瞬泣きそうな顔になったのも、見て見ぬふりをしてしまっていた。
あの時は放っておいてほしかったくせに。
最初に突き放したのはルリだ。
家族だと思ってたのは俺だけだったんだと思った。
けれど、ずっと帰りたかった日本に、五年ぶりに帰国しても、ずっとルリの泣きそうな笑顔が頭から離れなくて、ずっと胸に何かがつっかえたような痛みが残っていた。
本当はあいつの強がりな性格も、俺の家で過ごす時だけに見せる安心しきった顔にもちゃんと気付いていたのに、どうして、やっと見せてくれた感情にもっと寄り添えなかったんだ。
そんな後悔しても、今更遅いわけで。
だからお前の、今度近くにいれることになれたなら、ちゃんと向き合いたいとずっと思ってたんだ。
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