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幼馴染の変化
「あ、ゆーすけ!久しぶりー!」
家につくと、丁度階段から降りてきた弟にルリが抱き付いた。
そういえば、ルリが日本に来てから雄介と会うのは初めてかもしれない。
土日ルリは、夜バイトがあるから夕方には帰るし、雄介は夕方まで部活してるから、二人のタイミングはいつもずれていた。
「うっわ。本当に俺ら追って日本まで来てたのかよ。キッモ!」
「あはは。相変わらず生意気だなー」
顔を赤くして悪態をつく雄介をルリがわしゃわしゃと撫でる。
いつもルリが家に来てたことを伝えたら、会えなかったことを寂しそうにしてたくせに素直じゃない奴。
「てかまた痩せたんじゃねーの」
「そうかなー?まぁ鍛えてるからねー」
雄介がさりげなくルリの腰に手を回す。
ルリはくすぐったそうに笑うだけ。
こんなの昔からの光景だし、ルリがスキンシップ激しいのなんて昔からなのに。
もし、この調子で月城先生に抱き付いてたりしたらと、自然に考えてしまいもやもやする。
「ルリ、部屋行くぞ」
ルリの腕を引くと、雄介が若干顔を顰める。
「雄介、お前成績よくないんだから勉強してろよ。この間も数学赤点とってたろ」
「うっせぇよ。兄貴に関係ないだろ」
「そうなのー?オレ勉強おしえよっかー?」
「いいからルリは来いって。ちょっと話ある」
生意気に舌を出す弟を置いて、ルリと部屋に向かった。
部屋について、鍵を閉めるとルリがキョトンと首をかしげる。
「改まって話ってどうしたのー?ゆーいちなんか今日変だよー?」
俺のベットにまるで我が物顔で寝転がるルリに次いで俺もベットに腰を落とした。
「ルリさ、男同士の恋愛どう思う?」
「は?」
なにいってんだこいつとでも言うようにルリはベットから顔をあげる。
視線がぶつかって、真剣な表情のまままっすぐ見返すと、ルリは気まずそうに目をそらした。
「んーーー…………昔は関係ない話だなって思ってたけし、抵抗もあったけど。最近は、別に。てかなにその質問」
転校してきた初日は、うちの学校ゲイ多いぜって言ったらあからさまに嫌そうな顔してたくせに。
そして、ルリの気持ちを変えたのはきっとあの人なんだろう。
胸がずきんと痛んで思わずシーツを握った。
「…………ルリ、俺のこと気持ち悪いって思っていいよ」
「え?」
「俺、月城先生が好き。入学してからずっと。だからあんまり近づかないでほしい」
ずっと胸の中に押し込めていた想いを吐き出すように言うと、普段飄々としているルリが明らかに動揺したような表情で俺をみたいた。
初めは、男子校の一番のモテ男って聞いてたから、どんな人だろうって興味があるくらいだった。
実際に見てみると、外見も勿論だけど性格も本当にかっこよくて、単純に男として憧れた。それだけだったのに。
気がつけばどんどんあの意地悪で優しい月城先生に惹かれていった。
ルリが保健室でサボり始めた頃、迎えに行きながら会える口実が増えたと嬉しかったはずなのに。
今はルリの方が親密でそれが嫌だなんて、どうかしてる。
「…………せんせーは優しいから転校生のオレによくしてくれてるだけで、オレになんの感情もないと思うよ?」
ルリが穏やかな表情ですこし寂しそうに笑う。
それでもいい。
俺の思い過ごしでもいいから。ただあの人に特別な誰かができるのが許せなかった。
あの人は女にも男にも嘘のようにモテるけど、一人でいてほしい。
だれと遊んでもいいけど誰にも心を許してないことに安心していたい。
身勝手なのは、百も承知だから。
「転校生なんて別にルリが初めてじゃない。ルリだけが特別扱いされてるよ」
愚痴を溢すように言うと、ルリは困ったように笑って俺の前で屈んだ。
「ゆーいちの気持ち気付かなくて、オレかなり無神経だったね。ごめんね」
「お前が謝んな。俺がおかしいんだし」
俺は、本当は気付いてる。
ルリも俺と同じで月城先生に恋してることを。
だって、月城先生の車の助手席で頭を撫でられていたとき、顔を赤くてはにかむように笑うルリの顔は今まで見た顔の中で一番かわいかったし、一番嫌いな顔だった。
「………わかった。保健室に行くのは控えるよ。授業サボるときは屋上にいるから迎えに来てね」
そして、俺がこういったらルリが素直に俺の気持ちを優先するのだって、俺はわかってる。
「ははっ。サボるのはやめねーのかよ」
「当たり前じゃん。昼間寝なきゃオレ睡眠不足で死んじゃうってのー」
「バイトは最近どうなんだよ?もうなれた?」
「そうだねー。みんな優しいし楽しいよ」
自分の都合のいいことだけを押し付けて話題を変えるずるい俺に合わせて笑うルリに後ろめたさを感じながらもほっと胸を撫で下ろした。
それから、二時間くらいしてルリは今日もバイトらしく我が家を後にした。
なに食わぬ顔でいつも通りの笑顔を浮かべて手をふるルリに、俺も笑顔をつくって手を降った。
また少し、胸が痛んだ気がした。
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