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温泉
うつらうつら目を覚ますと、いつもの温かい温もりはなく、慣れない肌の感触にぞわっと飛び起きた。
心臓がどっどっと、激しく鳴り息が詰まる。
ぼやけていた視界が段々とはっきりしていき、純ちゃんが寝相で抱き付いていたのだと認識すると、ふーっとため息をついた。
すやすやとうつ伏せで寝る純ちゃんは可愛らしく天使のような寝顔だと思う。
でも、やっぱり人と寝るのは慣れないな、と情けなさに自嘲的な笑いがこぼれた。
オレと純ちゃんを真ん中にして千と雅人さんで挟むように寝ている。
咄嗟に振り払ってしまった小さな手を起こさないようにそっと撫でた。
「ごめんね……」
睡眠には昔から敏感だった。
壁にかけられた時計を見ると、まだ6時過ぎくらい。
休みだしみんなが起きるまで多分一時間以上はあるだろう。
そっと布団を抜け出し、部屋のお風呂に入った。
千が体は綺麗にしてくれたんだろうけど、やっぱり小さくても温泉って気持ちいい。
さっぱりして着替えると、皆の荷物をまとめ簡単に部屋を整理した。
やることは無くなったし、まだ皆寝ていたいだろうから少し散歩しようかな。
窓の外は小春日よりのいい天気だった。
千は朝コーヒー派だし、帰りに買ってきたら頭撫でてくれるかな。
そーっと部屋を出て外に向かった。
まだまだ寒いけど、いい匂いがして気持ちいい。
ちらほらと色とりどりの花も咲いていた。
しばらく歩いていると、少し先で大きな男性が踞ってるのを見て急いで駆け寄った。
「あの、大丈夫ですか?」
声をかけると見上げた顔は鼻に大きなガーゼが貼られいて、思わず顔がこわばった。
「「げ」」
目が合って二人で声が重なる。
忘れもしない。
純ちゃんのこといじめてたクソ野郎じゃん。
こいつか、とその場を去ろうかとも思ったけど、顔が真っ青で放置するのは気が引ける。
「んだよ。どっかいけよ!」
威嚇してくる相手にどうしようと思いながらも放置するわけにはいかないし、仕方なく手を差しのべた。
「なんだよっ!」
「体調悪いんでしょ?仕方ないから部屋まで連れてってあげる」
ほら、と一歩近づくと差し伸べた手を叩き落とされる。
純也にひどいことをした相手だし、むっと顔をしかめたけど、あまりの顔色の悪さにどうしてもその場を離れることはできない。
「いらねーよ!どっかいけよ!」
「うるさいな。動けないくらい体調悪いんだろ。このまま放置してここに純也でも呼んでこようか?」
「…………」
「今まで仕返しされても仕方ないことしてたんだろ。頭の悪い奴は嫌いだよ」
純也にしてきたとことを考えると冷たい言葉が出てしまうけど、本当はこんな病人にきついこと言いたくない。
オレって性格悪いかも。
しょぼんとする顔に少し反省して、ほら、ともう一度屈んで手を伸ばすと今度は取ってもらえた。
腕を首に回して支えると予想してたよりずっと重くて、思わずふらつく。
「女がしゃしゃるなっての」
チッと舌打ちと一緒にボソッと言われ、いらっとする。
思わず彼の足を踏んずけた。
「い……っ」
支えるためにつかんでいた手をそのまま自分の胸にもっていってペタッと触らせる。
「男だよ、ばーか」
「こ、この……っ」
ピキピキッと顔に青筋が浮かぶ。
純ちゃんをいじめたやつなんかに凄まれても怖くないっての。
「てめぇな!……っ!」
何かを言おうとして体がふらつき言葉が止まる。
よっぽど体調悪いんだな。
なんでこんな状態で外にいたんだろう。
病人相手にさっきからオレひどすぎよな。
「……悪かったよ」
小さく謝ると、男が不機嫌そうにオレを見下ろす。
「昨日、ムカついたからって手をあげるのはよくなかった。今も体調悪いのにごめんね」
でも素直に謝る気にはなれず前だけを見て目も会わせず謝る。
「なんなんだ。いきなり気持ち悪ぃな」
「………。てか、なんでこんなにふらふらで外にいたの?昨日の子分と喧嘩でもした?」
「………」
黙り混んだ彼に図星かとため息をつく。
大方昨日のことが原因だろう。
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