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温泉

「オレが言えたことじゃないけど、あんな風に面白おかしくだれかをおちょくってできた友達なんてすぐ同じように離れていくよ?」 「ああ!?関係ねぇだろ!」 すぐカッとなって凄んでくる相手に呆れてまた小さくため息をついた。 いくつだよ、こいつ。 「大人になれよ」 「うるせぇ!」 「あー、もー、クソ重たいし!何食べたらこんなにおっきくなるの!」 ワーワー言い返してくる相手には気楽に言い返しやすい。 純ちゃんも純ちゃんだよな。 こんな相手に負けるなっての。むかつく。 「女みたいなひょろひょろのお前に言われたくねぇよ!」 「そのひょろひょろに支えてもらってるウドンの大木はだれかなー」 「ウドだろ!ばーか!」 「オレ、ウドって言いましたー」 やっと宿の前まで来て、ふぅ、と息をつく。 あとは一人でなんとかするかな。 大きい体をそっと腰掛けにおろしバキバキになった右肩を回した。 近くの自販機でスポーツドリンクを買って男に差し出した。 「あ?いらねーよ」 「昨日のお詫びだから鼻の慰謝料として受け取って」 「いらねぇっての!」 「また倒れたらどうすんのー。バカは嫌いだって言ったはずだけど?」 「……ふんっ」 ばしっと手から奪われ、ごくごくと一気に半分くらい飲み干す。 やっぱ喉乾いてたんじゃん。 「オレも重たいの持ったから喉乾いた。一口ちょーだい」 横から取って、一口飲むと相手はぎょっとしたようにオレを見下ろす。 「気持ち悪いな……。男同士だぞ」 「はー?男同士で間接ちゅーとか気にする方がキモいっての。なんなら口移しで飲ませてやろうか?」 「きも!いらねぇよ!」 冗談半分で煽ると、ばしっとまた腕から奪われ、残り半分をまた一気に飲み干した。 「もう一本いる?」 あまりに一気に飲み干すから、脱水でもおこしてるのかと心配になる。 そっと汗で濡れた前髪をどかして額をさわるけど、熱は無さそうだ。 「触んな!」 「ハイハイ。まって、ハンカチあるから」 せめて汗を拭こうとポケットからハンカチを出して押さえてあげる。 威嚇しぱなしのこの男はまるで昔の純ちゃんのようだと思う。 うちの純ちゃんはもっと素直で可愛いし、人を傷つけるようなことはしないけど。 だからほっとけないのかな。 「そういえば昨日のハンカチ……」 「え?ああ、いいよ。あげる。捨ててもいいし。キミの鼻血がついてるんでしょ?」 「お前のせいでな」 「ははっ。ごめんねー。男なんだからあれくらいで騒ぐなっての」 「謝る気あんのかてめぇ!」 「えー。ぶっちゃけないかもー。だってキミうちの可愛い純ちゃんいじめてたんだろ?」 ぐりぐりと人指し指を相手の頬に押し付けると、一秒叩き落とされる。 叩かれた手をぷらぷらさせて、折れたーと言うと嘘つけ!と素早く返ってくる。 もう十分元気かな。 「元気そうでよかった。オレ、もう行くけど、早く友達にごめんねーして迎えに来てもらいなよ」 「………お前俺のこと嫌いじゃないわけ?」 じろっと見られ、かわいい台詞だなぁと思わず笑ってしまった口元を手で隠した。 「純也にひどいことを言ったのは許さないけど、体調悪いヤツを放置するほど鬼じゃないよ」 男が微かに目を見開く。 千と雅人さんのコーヒーとオレと純ちゃんのココアを買って熱いからシャツのお腹を捲ってそこにまとめていれた。 「腹、見えてるぞ」 「男らしく割れてるだろー」 「どこがだよ!」 「ははっ。じゃあねー」 片手でシャツを持って、手を降ると背中を向けた。 「……純也に」 ボソッと呟かれた一言に、振り返る。 男はばつ悪そうに視線を下に向けていた。 「もうからかうようなことしないって、伝えとけ」 素直じゃない男に、きょとんとしていると、みるみる顔が赤くなる。 「ははっ。オッケー。純ちゃんごめんねーってキミが言ってたって伝えとくね。えーと、名前なんだった?ウドくんだっけ?」 「大介だよ!あと、そこまでは言ってねぇよ!」 「ばいばい。ダイスケくん。友達にも素直になりなよー」 まだ後ろでぎゃんぎゃん言ってるのを無視してそのまま部屋に向かった。 少しずつ少しずつ、純ちゃんの環境が良くなっていくようで、オレも嬉しい。 早く純ちゃんに伝えたくて早足に廊下を進んだ。

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