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温泉

________ 「月城のバカー!!ルリを返せ!!」 部屋の前まで来ると、純ちゃんの声が外まで響いていて慌てて中に入った。 純ちゃんが寝起きの千にぽかぽか半泣きで拳をぶつけていて慌てて急いで駆け寄る。 「純ちゃん起きちゃったのー?ごめんねー。ほら、純ちゃんの好きなココア買ってきたから飲もー?」 ドサドサと、布団の上にまとめて飲み物を落として純ちゃんの頭を撫でると、わっと抱き付かれた。 「昨日ルリが悪いことしたから月城が外に捨ててきたのかと思ったー!」 「え、うちのダーリンそんな鬼畜なイメージ?」 半笑いで純ちゃんを撫でながら千を見ると、千も若干傷付いたように半笑いを浮かべていた。 「ごめんねー。早く起きちゃったから散歩してたのー」 「俺も起こせよ!」 「あ、そういえばオレと純ちゃん手ぎゅーして寝てたんだよー。仲良しだねぇ」 「話そらすな!」 同じようにぎゃんぎゃん言ってても、やっぱりうちの純ちゃんが一番かわいい。 「ほら純也。ルリくんが純也のためにココア買ってきたって。飲まないの?」 「俺を物で釣るんじゃねぇ!」 寝惚けたまま雅人さんが純ちゃんを膝に抱えてよしよしと撫でる。 純ちゃんはまだぶーぶー言いながらも買ってきたココアを持ってちびちび飲み出した。 「雅人さんと千にもコーヒー買ってきたから飲んでねー」 「えー、いいの?ありがとう」 雅人さんに手渡して、千にもひとつ持っていく。 千はそばに来たオレの頭をポンポンと撫でてくれた。 「一人で出歩くなとは言わないけど、次から一言どこいくか声かけろよ」 「はぁーい」 「あと腹見せて歩くな。心配になる」 「えー」 「はい、だろ」 「はーい」 素直に返事をするとオレも千のとなりに座った。 四人でのお泊まりも賑やかでいいな。 「コーヒー朝はやっぱかかせないわ。ありがとうな」 「ふっふー。オレ千のことなんでもわかっちゃうからねー」 「なら、俺の心配も少しわかってほしいけどな」 嫌味を言ってくる千に、えへっと笑ってごまかす。 千が心配するほどオレは弱くないってことどうしたらわかってもらえるのかな。 「ほらみんな着替えてー。オレもう着替え終わってるからお布団畳んでるねー」 話をそらすようにそう言うと、まだ眠たそうにしながら、3人はのそのそと動き出した。 こっそり純ちゃんの手をひく。 「ダイスケくんが、純ちゃんに意地悪してごめんね、もうしないからねーって言ってたよ」 「……は?大介に会ってたの?」 純ちゃんの顔色が一気にこわばる。 「たまたま遭遇して少し話したら純ちゃんにもうあんなことしないって。しっぺ返しがあったみたいだよ」 「……そっか」 ほっとしたように純ちゃんが息をつくのを見て、よかったと、うんうん頷く。 この子の悩みがひとつでも減ればいい。 「ルリくん、俺達が寝てる間に部屋とか荷物まで整理してくれてたんだね」 全部のお布団を畳終わって、三人の元に行くと雅人さんがありがとうって頭を撫でてくれる。 「オレ無駄に早起きで暇だったからー」 「よーし。じゃあそんなお利口さんなルリくんが今日のご飯決めていいよ。なに食べたい?」 「えー?オレ何でも好きだよー?純ちゃんなに食べたい?」 「ハンバーグ!」 そのまま純ちゃんに話をふると、嬉しそうに答える。 かわいい。今度お弁当にハンバーグ作っていってあげよう。 「じゃあ近くで探してみようか」 そう笑うとさっきまで怒ってたことを忘れたかのようにるんるんになる純ちゃんに癒される。 守ってあげたくなるのはああいうタイプの子だよね。 「ルリくんすぐ純也を甘やかすんだから」 「オレもハンバーグ好きだよー」 四人で話すのこの空間もとても居心地がいい。 オレと雅人さんも仲いいし、千と純ちゃんも最近はすごく仲良しだ。 もう少しで3年になるけど、ずっと続けばいいと思う。 ピリリリ 宿を出てすぐ電子音が響いて、千がスマホをポケットから取り出した。 画面を確認して僅かに顔をしかめる。 千……? 「悪い、電話。先に車入ってエアコンつけててくれ」 千は何食わぬ顔のまま雅人さんに車の鍵を渡す。 「りょーかい」 雅人さんと純ちゃんが車に向かって、オレはどうしようと思ったけれど千がついていけってジェスチャーをするから、納得できないまま車に向かった。 なんだろう。 ただの電話なのに。 もしかしたら、蒼羽さんから飲みに行こうとか、仕事の電話かもしれないのに、なんで胸騒ぎがするんだろう。 しばらくして戻ってきた千はいつも通りで、こそっとさっきの電話なんだった?ってさりげなく聞いても大したことじゃないとはぐらかされるだけだった。

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