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予感

千side 「運転お疲れ様。すぐコーヒーいれるねー」 家についてすぐパタパタと動き出すリチェールを捕まえてソファに降ろすと膝の上に乗せてふわふわの金髪を指で撫でた。 「なにー?コーヒーいれてくるだけだよー?」 「いい。運転中も飲んでたし」 「ねぇさっきの電話やっぱり何かあったんでしょー?」 エメラルドのビー玉みたいな瞳が俺を映す。 普段は電話が誰からだったかとか、何の用だったとか気にする奴じゃないのに、リチェールはたまにドキッとするほど鋭い。 顔には出てなかったと思うけど。 「電話?なにが?それより少し疲れた。このまま寝るから動くなよ」 「えー。オレ夕飯の支度したいー」 「好きなもん頼ませてやるから」 「でましたよ。お金でものを言わす大人。やーねぇ」 ソファにおかれた羊のクッションに話しかけるリチェールを抱き締めてその髪に顔を埋める。 一緒に住んでても、リチェールの匂いは全然違って落ち着く。 ベランダのガラス戸から差し込む光にリチェールの金色の髪に反射して綺麗だと思う。 「千ー?寝るなら寝室行こー?」 首いたくなっちゃうよー、とリチェールにかけられる声がだんだん遠くなっていく。 考えることは増えたけど、関係ない。 俺の中の最優先はもうこいつを守ることだけだ。 ________ ヴヴヴ…… ポケットの中で携帯がバイブしその音でゆっくり目を覚ました。 腕の中ではリチェールが安心しきった顔でスヤスヤ眠っていて、ほっとその髪を一度撫でスマホを確認した。 内容は父親からのメールで、思わず眉間にシワがよる。 「とう!」 その瞬間、寝ていたと思ったリチェールがバシッと俺の手からスマホを奪い取り、前にぴょんと飛び降りた。 「……びっくりした。起きてたのか」 「スマホだそうとゴソゴソしてたので起きた!見ましたよ月城先生。今オレが寝てると思って盛大にため息ついて眉間にシワ寄せましたね」 「探偵ごっこですかリチェールさん」 俺の秘密を暴いたりと、どや顔でスマホをあげるリチェールに可愛らしくて思わず笑ってしまう。 いや、笑ってる場合じゃないんだけど。 あの内容を見たら間違いなくリチェールは不安になるだろう。 「ほら、リチェール返せ」 「中、見たら怒る?」 奪っても、勝手に見るのは気が引けるのか困ったようにスマホを後ろに隠し眉を八の字にする。 「怒らねぇけど……おいで。見せるから」 まぁ、俺だってリチェールが俺に隠し事してたら怒るくらいじゃすませない。 少し悩んだけど、リチェールを抱き上げてもう一度座り直し、スマホを見せることにした。 大人しく膝の上に乗るリチェールの首にキスを落とす。 「ん……っ。ス、スマホのはなしするって言った……っ」 ぴくっと反応してわたわたと逃げようとするリチェールを抱き直しはいはいと今来たメールを開いた。 「宿出てすぐ父親からの電話があったんだけど」 「あ、やっぱりあの変な顔してた時だー。隠し事だめってオレには言うくせにー」 「俺はタイミング見てんだよ」   リチェールは腑に落ちないと言うように頬を膨らませながら俺をじとっと睨む。 その頬を指で押すとぷすっと空気が抜けて思わず、ふはっと笑った。 「もう!オレの体で遊ばないの!早く話の続き!」 ぺちっとリチェールに手を叩かれ、はいはいとため息をついた。 「お見合いの話を持ちかけられたんだよ。ようするに、政略結婚してほしいんだと」 「え!?千結婚するの!?」 顔を真っ青にさせてガバッと振り向く。 これだけ愛されてて、なんでこうも簡単に疑われるのか心外でならない。 「しねぇよ。さっきも断ったし。親の金で生きてるわけでもねぇのに従う必要ねぇだろ」 「え、あ、うん……えっと……」 あからさまに動揺して俺の服をぎゅっと掴む。 それから不安そうに小さな顔を傾げて見上げた。 「お、オレどうしたらいい…?」 抱いてやろうか。今すぐに。 俺のことですぐ泣きそうな顔ですり寄ってくる小さな生き物が可愛くて仕方ない。 「なにもしなくていい。黙って俺に愛されてろ」 ぼっと分かりやすく赤くなるリチェールに優しく唇を重ねた。 ポケットの中ではまたメールを知らせるバイブが鳴っていたが気付かないフリをして小さな体をソファに押し倒した。

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